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第三章 再会、幼馴染の変貌
第24話 考えていなかった再会 (ショウ視点)
しおりを挟む俺の初めて施術したお客様、実はアレから度々店に来て下さっている。
所謂常連様という奴だ。
その人の名前はベリックさんと言う。
しかもベリックさんは毎回俺を指名してくれるのだ。
今では他愛もない会話も行うし、たまに笑ってくれる様にもなった。
今日は友人を連れてきてくれるという。
つまりお客様が増えるということだ。
俺はアースさんに、お世話になりっぱなしだから何か恩返しをしたいと常々思っていた。
しかし実際恩返しをしたくても俺は返せるものを何も持っていない。
もちろんこんなのも恩返しでもなんでもない。
だけど俺がいることでこの店にとって少しでもプラスになるかもしれない。
それが俺にとってはすごく嬉しい事だった。
今は休憩時間。
だけど俺はじっとしていられなくてこちらの世界でのホウキの様なもので掃除をしながら鼻歌を歌っていた。
「聞いた事ない歌だな。今日はえらく上機嫌だな? ん? 彼女でもできたのかい?」
「そんなんじゃないですよ」
俺はそう言って誤魔化すがにやけ顔が元に戻せない。
俺は少し前まで、タイアンさんと連絡が取れず(連絡先も知らないし連絡手段もないしで)かなり落ち込んでいた。
それでもこうして誰かと関われているし、以前のように嫌な思いをする事も減った。
そしてお客様ではあるけれど友人に近い様な会話をする事ができる……そんな相手ができて、しかもそのお客様が自分の友人を紹介してくれるというのだ。
にやけ顔が止まらなくても仕方がないだろう。
でも確かに今は仕事中だ。
気を引き締めなければ……。
俺は箒の様なモノを持っていない方の掌で自分の頬を触りながら緩んでしまっている目尻を引き上げた。
その時、背後から聞き慣れた鈴の音が鳴り響いた。
いつの間にやら休憩時間が終わっていて午後のお客様が来られたようだ。
逆光で見えにくくなっているが最近良く顔を出していた見知った今の髪色を変えた俺と、同じ髪色が開いたドアの隙間から見えた。
ベリックさんだ。
良かった。もうちょっとで俺の変な鼻歌を聞かれるところだった。
ベリックさんの挨拶と共にベリックさんの後ろからベリックさんよりもさらにガタイがいい、迫力のある美形が入ってきた。
光に反射している金髪に思わず見惚れてしまいそうになり目があった途端、お互い声を失った。
「ショウ……、ベリックの話に出てきた名前と同じ名前だったから半信半疑で来てみたんだが……。いや、まさか……。それに8年も経っているのに見た目があまり変わってねーのはどう言うことだ? それに髪色が違う。まさかあり得ないけどコイツはショウの子供なのか? いやいやそんな事、年齢的に計算が合わないし、名前も別の名のはずだ……」
金髪の男が、ベリックさんが連れてこられたご友人が、俺から目を逸らし、何か小声でぶつぶつと呟いていた。
何を言ったか聞こえなかったが、このオーラがすごい美形のお兄さん、なぜだか分からないが見覚えがある。
なんだろう……?
ああ、そうか、顔がなんとなくだがリュウに似ているのか?
リュウが成長した姿みたいなんだ……。
俺はなんか昔の古傷をえぐられたようでヒリヒリと胸の奥に痛みが走った。
あの日以来、リュウからの連絡はない。
そりゃそうだ。
今となっては俺とリュウは立場が全然違う。
「いらっしゃいませ、ベリック様、こちらでまず受付をお願いします。お連れ様大丈夫ですか? 少し顔色が悪い様ですが?」
俺が声を発した時、金髪美形のお兄さんが驚いたようにこちらを向き鋭い目でじっと見つめてきている事をこの時俺は知らなかった。
「いいえ、大丈夫だとは思いますが……。ショウさんも少し顔色が良くないよ? 白いお顔がもっと真っ白になっちゃってるよ?」
「そうですか? そんな事ないですよ。大丈夫です」
ベリックさんの言葉に俺は慌てて気を引き締め笑顔を作った。
ベリックさんは数回の来店後から人が変わったように優しく接してくださる様になった。
今では身分差もないかの様に接してくださる。
そしてベリックさんの受付の後にもう一人のお客様が受付をされる。
リュウとは身長も体格も全然違う。
このお兄さんは……身長が180cm後半ぐらいありそうだ。タイアンさんより少し低いくらいだろうか?
体格も良く高そうな衣服をしっかり着込んでいても胸筋がしっかりついている事がわかる。
リュウは、10歳まで俺の隣にいたリュウは、身長も俺と変わらなかったし、人気者だけどどちらかというと可愛い顔をしていた。
なのにどうしてこのお客様を見てリュウを思い出してしまうのだろう?
名前を書き終えたお客様と視線が合う。
綺麗な金髪の前髪が開いていた小窓から入った風にひらりと揺れキラキラ輝いている。
そう言えばリュウも綺麗な金髪だったなー。そんな風に呑気に思っていた俺だったが、そこに書かれていた文字に一瞬頭が真っ白になった。
受付表に書かれていたのは家名が変わっているが、リュウの名前が書いてあった。
えっ? まさかね? 同じ名前なんて何人もいるはずだ。家名も違うし、そもそも見た目が違いすぎる。
リュウらしき人の鋭い目つきに、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった俺の手の上に、その人はゴツい大きな掌を重ねてきた。
『ショウ、やっぱりショウなんだよな? 8年経つのに見た目が変わっていないとか、どうしてその髪色なのか、聞きたい事だらけだが。後で話がある』
その人の唇は動いていない。
その人は直接俺の脳内に語りかけてきたんだ。
やはりこのお客様はリュウなんだ。
リュウはあの時、勇者だと言われていた。
リュウは声を出さず直接こうして語りかけることもできるんだ……。
それにしても……どうして口に出して言わないんだろう。
やはり……俺と元知り合いだと思われたくないのだろうか?
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