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第二章 新たな始まり
第22話 初めてのお客様 (ショウ視点)
しおりを挟む朝起きたらもうタイアンさんはいなくなっていた。
挨拶もできなかった。
結局俺はタイアンさんの事を名前しか知らない。
まだベッドの中が少し温かい、その温もりがなんだか恋しいような切ないような複雑な気持ちだった。
昨日、タイアンさんはどうしてココに来たんだろう?
こうやって何も話す前に居なくなってしまったら昨日の事も俺の妄想で夢だったんじゃないかと思えてくる。
だけど……こうして、このベッドが置いてあるという事は昨日の事は夢じゃないんだ。
俺は昨日の出来事を思い出し、また身体中が熱くなった。
自分の顔を手で覆いながら昨日の出来事に意識を飛ばした。
うわー、俺はな、なんて事を……。
だけどタイアンさんも興奮していたよな?
キ、キスもしてしまったし……。
俺は少しカサついている自分の唇に触れた。
俺、は、初めてチュウしたんだ。
なんか夢中だったからちゃんと思い出せない。
この先、俺なんかとキスしてくれる人なんてもう現れないかもしれないのに……いや、経験できただけでも儲けものだっただろうか?
前世は一人でひたすら慰めるという寂しい人生のままこの世を去った訳だから……。
それにしても……。
タイアンさんも溜まっていたんだろうか?
でもアレは、タイアンさんにとって絶対後から後悔する案件だよな?
俺は女でもないし……。
ふわー恥ずかしい、でもタイアンさんの大きいゴツゴツした掌で抜いてくれて、しかもタイアンさんの大きいのと一緒に擦られて、信じられないくらい気持ちよかった。気を抜くとまた勃起してしまいそうだ。
というか、なんで俺達はあんな雰囲気になってしまったんだろうか?
ああ……だけど俺、結局タイアンさんの連絡先も聞いていない。
名前が分かっただけでまたいつ会えるかも分からない……。
タイアンさんは何をしている人なんだろうか?
服装からして平民な感じではない……。
お貴族様がお忍びで来ているんだろうか?
前世で読んだ転生者の小説なんかではそういう話、よく有ったりしたよな……。
だとしたら、昨日の出来事を俺は忘れた方がいいという事だよな……。
もしタイアンさんがお貴族様だったとしたら婚約者もいるだろうし、俺の事だって、少し興味が湧いた程度なんだろう……。
詳しく言わないという事は言えない様な事情があるのだろう……。
何も考えずに色々聞かなくて良かった……。
まあ連絡先を聞いた所でこの世界はスマホなんて便利な道具はない。
それに近い魔道具はあるだろうが生憎俺はそんな高価なモノを買う金は持ち合わせてはいないし、魔道具を使う為の魔力もない。
俺はこの世界の事は知らなすぎるから、このイヤーカフの様に魔力を必要としない魔道具もあるのかもしれないが……。
俺はベッド脇に置いていたイヤーカフを耳の軟骨に挟む様に装着した。
そして自分の髪の毛を掴んでその髪色を見た。
黒髪ではなく焦茶色に変化している。
ってそんな風に呑気にしている場合ではない。
俺は洞窟の入り口から入ってくる日の光に結構時間がヤバくなっていると気づき慌てて支度をし職場であるマッサージ店に急いだ。
※※※※※※
あれから数日後、今日から直接お客様の肌に触れる。
ココ数日間の間、アースさん自身も練習台になって下さった。
アースさんをマッサージする時は緊張せずに気楽にマッサージを行う事ができた。
タイアンさんにマッサージをさせて頂いたおかげで少しだけ自信もつき、他の人の肌に触れるのも怖くなくなった。
お客様は相変わらず険しい顔の方が多い。
だけど俺も少しづつ困ったお客様への対応も覚え、お客様から叱られることも無くなった。
最近は俺に触れてこようとするお客様も居る程だから逆に俺自身が戸惑ってしまう……。
この前のタイアンさんの練習の時の様に俺自身がおかしくなることはもちろん無い。
アレは前世の記憶のせいもあったし、タイアンさんがアイツに俺が恋焦がれていたアイツに似ていた所為だし。
でも良かった。俺は別に変態ではなかった。
誰にでも発情してしまうんだったらせっかく身につけたこの仕事ができなくなってしまう所だった……。
それにしても……。
ここに来店するお客様はタイアンさんの服装とはまた違うが、高級そうな衣服を羽織った方が多い。
俺自身が施術する初めてのお客様は見た感じかなり若そうだ……。
体格が良く身長も高い。顔も悪くない。
きっとこんな風にお客様だから関わる可能性が出てきているが、この店を出たら会話をするきっかけもないだろう。
しかしこのお客様、来店するのも今日が初めての様な気がする。
アースさんも人が悪い、俺が初めて施術するのに初めて来客したお客様をあてがうなんて……。
なんて、もう一人の来客者様が俺と相性があまり良くなくて俺にキツイ物言いをしてくるお客様で、しかもこの店のお得意様だったりするものだから、俺がこの若いお客様をお相手するのも仕方がない事だった。
昨日、今日から俺自身も施術をするとアースさんに言われていたから……。
と言ってもこのお客様、お試しコースを選択されており、そのコースは軽いハンドマッサージぐらいで施術時間も短い。
初めてお客様の肌に触れる俺には妥当な相手なのかもしれない。
「こちらに腰掛けてください」
緊張していた俺は声が少し強張ってしまった。
本当は愛想笑いもする必要があるだろうが俺にはまだその余裕はなかった。
「お前がするのか? 子供じゃないか、いくら無料体験だからって俺は王都からココの評判を聞いて来ているんだ。素人みたいなやつにやられて身体が痛くなってしまったなどという事になっては困るんだが……」
そう言うお客様の声は険しい。
また子供と間違われてしまった。
見た感じそんなに年は変わらない様に見えるが、確かに体格差で言うと大人と子供に見えてしまうかもしれない。
「すいません、今、お客様を施術できるのは俺しかいなくて、1時間ほど待って頂くと他の者も対応できますが……」
「1時間もかかってしまうのは困る。野外訓練の訓練中に抜けてきているんだ。もう、お前で良い。さっさとやれ」
そう言いながらお客様は片手を出した。
俺は苦笑いをこぼしながらもなるべく愛想笑いを心がけ丁寧に施術を行なった。
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