魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第一章 回り出す運命の歯車

第7話 他の国の価値観 (ショウ視点)

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 そうしてなんとか俺は冷静さを取り戻し、俺を助けてくれたであろう、体格の良くて目つきの悪い美形なお兄さんと向かい合わせで座った。  

 座ったと言ってもココは俺が一人で住んでいる洞窟だ。
 普通の住処に置いてある様なフカフカの椅子なんてもちろん無い(まあ、俺の実家にもフカフカな椅子なんてなくて硬い椅子しか無かったんだけど)。

 俺達は向かい合わせと言っても少し斜め前に見える辺りという場所にある、人が座れるぐらいの岩にそれぞれ座っている。

 美形な目つきの悪いお兄さんと目を合わせようとした時、自分の濡れた黒い前髪が見えた。

 俺は慌てて、近くに置いてあった適当な布を頭に巻いた。

「どうして隠すんだ?」

 突然声をかけられ俺はビクっと上半身だけ飛び跳ねた。
「えっと、俺、低体温で死にかけていたんだろう? 助けてくれてありがとう」
「俺の質問に答えていないが?」
 低音のツンと尖っている声は怒っているかの様だ。


「えっと、この色、あまり見ていたい色じゃないだろう? ごめんな、助けてもらったのに嫌な思いさせて……」

「何を言っているんだ!……綺麗な色なのに……」
 強い口調で言ったと思ったら後半は小声で聞き取れなかった。


「なんって言ったんだ? ごめん聞き取れなかった」

 俺、耳が悪いのかな?
 それにしてもコイツ、顔、赤すぎるな。
 温水の湖の中にいる時は青白い顔が少し赤く染まっている程度だったのに……。
 もしかして俺の身体を温めるのに夢中でのぼせてしまったんだろうか?

 飲み物は水ぐらいしかないが……都会の人みたいな感じだけど普通の水を出しても大丈夫だろうか? 

 俺は座っていた岩から腰を上げ再び美形だけど目つきの悪い顔の男に近づいた。

 男の青白かった顔は、俺が顔を近づけるたびに真っ赤に染まっていく。
 大丈夫かな?
 熱でもあるだろうか?
 俺は男にさらに近寄って、見上げ目線を合わせた。
 男は俺よりかなり背が高いので座高も必然的に高い。
 しかも俺が近づいたことで男は再び立ち上がった。  

 つまり今、男からは俺が上目遣いで見上げているように見えているのかもしれない。

 真っ赤に顔を染めたまま男は俺から目線を逸らした。

 そうだよな……、こんな地味男の上目遣いなんて見れたもんじゃないよな……。

 しかも今は布で隠しているけど、この国では見るだけで災いが起きると言われている黒髪だし……。


 そうだ! もしかして見た事のない生地の衣服を着ているし、刺繍も豪華な気がする。
 この人、王都の方におられる貴族様とかなんじゃないか?
 って事は俺ってものすごく失礼な態度をとってしまっているんじゃないだろうか?


 俺は急に不安になり、男から距離をとった。

「綺麗な色だと言ったんだ。俺の国では平和に導く髪色だと言われている」

 そっけなく言った男の言葉に、驚いた俺は、ポカンと口を開き、思わず言葉を失った。


 王都の方でだってこの色は不吉な色だと言われていた筈だ。

 もしかして…… 慰めてくれているのだろうか?


 そうだよな。この人、こんな恐そうな見た目だけど、見知らぬ俺の事を助けてくれたんだもんな……。

 俺を元気づける為に優しい作り話ぐらいしそうだ。

「ありがとう、嘘でも嬉しいよ」
「何を言う。俺は嘘は言わない。本当だ。俺の国では尊いとされる髪色だ」

 口調はきつく目も合わせてくれないが、言っている事は優しい。

「ありがとう。この髪色で良い事なんかあった事無かったからそんな風に言ってもらえて嬉しい」
 そう言いながら俺の頬の筋肉は緩んだ。

 俺、今、自然に笑えてる。

 こんな風に自然に笑えるのは、それこそ8年ぶりな気がした。

「この国では黒髪はそんな酷い扱いを受けるというのか?」
「まあね、見ただけで呪われる、とか。見たら不幸になるとか、まあ他にも色々言われたし、その所為で俺は街に住めないし、働き口も見つけられない、貧乏暮らしも慣れたし、一人暮らしも気楽で良いんだけどね……」
 平気そうに言っていたつもりだったけど声がこわばる。
 心無い人達から今まで言われ続けてきた言葉が、嫌そうに見つめる街の人の表情が頭に浮かんだ。
 普通に笑おうとしたけど笑顔もこわばってしまった。

 この人が、口調は意地悪っぽいのに変に優しいから、なんか目の下が熱くなってきた……。

 泣きたくなんてないのに……。

 ずっと、つらくても泣いた事なんて、無かったのに……。

 俺の様子を見ていた男は小さく息を吐いた後、おもむろに自分の上着のポケットから少し隙間が開いた指輪の様なものを取り出した。

「コレは髪色を変える魔道具だ。耳の軟骨を挟む様に装着する。魔力を使えば髪の毛色を色々な色に変えられる俺の国でのお洒落アイテムだ。まあ黒色にだけは出来ないんだが……」
 前世でのイヤーカフっていうやつか……だけど……。
「ゴメン、ありがとう。俺……魔力が上手く使えなくて……」

 本当はこの事は内緒にしておきたかった。だけど、使えないのにそんな高価なもの……それに売ってくれると言っても俺はお金なんか持っていない。

 夢で会った神様が俺に加護をつけていたと言っていたし、使える魔力もあると言っていた。

 だけど今は時間がないから、また日を改めて説明にくると言っていたけど……。

 結局今の俺は魔力も魔法も使えない。
 どんな魔法が使えるのかも分からない。

「魔力を入れなければコレを耳に着けると髪色はどんな色でも茶色になる。魔力を消費しない所も人気のアイテムなんだ」
「うわー、そうなんだ? それは……欲しいけど、俺、お金が……」

 男の言葉は嬉しかったけど、それすら買うお金もない俺は惨めだった。

「これはお礼だから金を貰うつもりはない」
「へっ? 俺はお礼をする立場であって、お礼をされる様な事を貴方にしたつもりはないけど……」
 そう言い返したが、男の勢いはすごくイヤーカフ型の魔道具を押し付けられた。
「とにかくやる」
 男はそれだけ言って立ち上がった。

「ええと、ありがとう。あの、もう行くの? 泊まっても良いけどお布団ないな……」
 言ってしまったは良いが、こんな寒い所、泊まりたくもないだろう。
 この人は強力な魔力持ちっぽいし、いらないお世話だったかも……。
 
「そんな小さな布団で、二人どうやって寝ると言うんだ。俺はもう、行くよ」
 そう言って男が初めて小さく笑った。
 
 イケメンの笑顔はちょっとでも半端なく格好良いな。
 しかも、この人は普段が冷たい印象だから更にギャップがヤバイ。

 思わず見惚れてしまいそうだったが俺は慌てて表情を取り繕って頭を下げた。


 そのまま男は、目つきは悪いけど美形で本当は優しいお兄さんは、洞窟から出て行った。

 俺は自分の名前も言わなかったし彼の名前も聞かなかった事を数分後に後悔するのだった。
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