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第一章 回り出す運命の歯車
第4話 魔物とは (タイアン視点)
しおりを挟む俺は魔化地下王国の王の息子だった。
そう、俺の父はこの星では魔王と呼ばれているし、俺も将来、親父が任期を終えたら魔王を継ぐ予定だ。
魔化地下王国の王、略して魔王なのだか、地上の連中達には少し誤解がある様だ。
俺達の国は地下の奥深くにある。
俺達の事は地上の人間達には知られては居なかった。
知られていない、と言ったら語弊があるかもしれない。
違う形で知られてはいた。
俺達はずっと地下で生活していたから地上の空気が合わない。
俺達が地上に出た時、自分の身体を守ろうと、体毛が獣並みに濃くなったり、分厚い鱗が出てきたりする。
身体に慣れるまで多少動き難くもなり、地下では普通に二足歩行できたモノが這う様になったり、身体をひきづる様な移動方法になってしまうモノもいたりする。
それは絶対という訳ではなく、そこに住んでいる人達の思念が悪ければ悪い程、身体に反応してしまう。
そう、地上のもの達は俺達の事を魔物だと思っている。
確かに、自分自身の感情が地上の人の強い悪な思念に負けてしまうと理性が保てなくなる。
それが暴れ回る魔物の正体なのかもしれない。
俺は魔王を継ぐには優しすぎると親父が言った。
そんな事はないと思う。
俺は自分で言うのもなんだが、少し捻くれた部分も多いし、中々本心が言えない性格だ。
だか、魔化地下王国(通称 魔国)の住民は少し変わった性格のモノが多い。
もし、地上に出てしまった時に、理性を保つ為に自身をしっかりもつ為に、個性を個人個人が高めた結果なのかもしれない。
そんなモノ達の王になる為には俺はやはり優しすぎるとも言えるのかもしれない。
そんな俺などが、地上に行ってしまっては、瞬く間に理性を無くし魔物化してしまうのではないかと思ったりはしたが、そこは親父の血が一番濃い俺だから問題はないそうだ。
そして、親父に少し地上で荒修行をし、もう少し悪の心を磨けと言われた。
俺は魔王の息子だ。
地上のモノ達と均衡を保つ為に、その他にも俺達、魔国民がどうして、突然上に上がってしまうのか、魔物に変化しない方法はないか探る為に、俺が上に上がる事は必要不可欠となる。
それは俺自身がどんなに嫌がったとしても、親父の息子に生まれてしまったから仕方がない。
俺の代わりを務める器を持つモノが親父の他にはこの、魔国には存在しないらしいから……。
どんな事にも例外があったりするモノだから絶対とは言えないが……。
だから俺は上に上がっても理性をちゃんと保てるそんな強靭な精神を持つ必要があった。
綺麗な心でも理性を保つ事は可能だが、それにはかなりの力が、精神力がいる。
悪の心の方が強く、我を保つ事も容易いと親父は言う。
と、言っても、そう言い聞かされて育ったとしても、実際、その状態に追いやられないと、中々、その様に成長する事は難しい。
という俺も魔王としてとか、国の人達の事とか、地上に出てしまったらとか、あまり深く考えた事がなかった。
まあ、甘ちゃんだったと言ったらそれまでだが、俺はノラリくらりと生きていけたらそれで良いとさえ思っている程だった。
確かに俺はこんな中途半端な心じゃ、地上で魔王として、ずっと理性を保つ事は、親父の濃い血を持っていたとしても困難だったのかもしれない。
だけど……。
心の準備も無しに地上に放り出すのはどうかと思う……。
俺は魔国の魔法陣から地上に放り投げられた時、半分魔物、半分獣の様な姿だった。
まだ地上に身体が慣れていないからか、いつもの俺よりかなり身体が小さく、ほぼ獣のような感じで、下手したら普通の獣にも襲われてしまいそうな見た目だった。
そんな俺、しかし、牙はしっかりあったし、見た目、弱そうな魔物と言った風貌だった。
俺はその地に下り立った時、その、ムッとする嫌な空気に吐き気がした。
コレが、地上が俺達に合わないと言う思念の空気と言う訳か……。
街らしき所からは少し離れていると言うのに嫌な思念がウヨウヨ浮いていて黒いモヤの様に見えて気持ちが悪い。
コレは街の中は相当なもんだろう。
俺は吐き気が酷くて思うように前に歩き出す事も困難で獣の様に這いつくばった。
俺の周りの空気もその黒いもので覆い尽くされていく様な気がしてきた。
精神力の低い、我が少ない地下住民達はこの空気に耐えらえず地上の人達が言う魔物と言うものに変化してしまうのであろう。
俺は魔王の血が濃いおかげで理性を保つ事が出来ていた。
だが、俺自身は耐えられても身体は悲鳴を上げていた。
よたよたとフラツク汚らしい風貌な弱そうな魔物、それが今の俺のパッと見の見た目だった。
そして、そんな所に通りかかった冒険者風貌らしい数人の地上人どもが急に襲いかかってきた。
愉快そうに笑っている姿に余計に吐き気が酷くなった。
地上人とはとんでもないな。
俺はまだ彼らに危害を加える素振りをした訳ではない。
一人でもがき苦しんでいただけだ。
そんな俺に刃物を向けてくるなんて、なんて非情な奴らなんだ。
俺の心が奴らの心にさらに反応を示し、黒いモヤみたいなモノが俺の周りに溜まってきた。
俺の身体が俺自身の心と身体を守ろうと奴らの悪の気持ちを使って成長を始めた様だ。
しかし、俺の変化する反応は少し遅かったのか、冒険者風の奴らの内の一人に脇腹を切られてしまった。
その反動で、身体が、いつもの俺ぐらい、身長190cmぐらいまで大きくなった。
しかし、ココに居続けると、奴らの邪気の強さと俺の理性が反発して吐き気が酷い。
身体が変化したからこの邪気の強い空気に馴染むのに時間がかかっているのだろう。
俺を攻撃した奴らは俺の身体の変化に気持ち悪がって逃げていった。
しかし、俺もこのままココに居続けたら、また心無いモノから攻撃される可能性がある。
俺は幸い、こんな状況でもまだ魔力は残っていたし、とにかく人気のない所を目指して邪気の少ない空気感の場所を目指して転移を繰り返した。
洞窟の入り口の様な所に着いたが、俺は着いたとたんその場に崩れる様に座り込んだ。
そこの空気はなんだか柔らかかった。
先程までの空気と違い、なんだか包み込む様な優しさを感じる。
俺はココは安全だと感じ、仰向けに倒れ込んだ。
いつの間にか眠ってしまった俺だったが、数滴上からの水が降って来ているのを感じ目を覚ました。
刺された傷を放置してしまっていたからか、思う様に身体が動かない。
そうしていると、上から大量に水が降ってきた。
コレが雨と言う奴なのか……。
俺は魔王の息子。
このままココで、くたばる事はまず無い。
苦痛は感じるが、やはり他の者よりも身体の根本である器が大きく丈夫なのだろう。
だけど、俺は現在、疲れすぎていた。
何というか、自分の身体の変化についていけず心のバランスも保てず、クタクタだった。
雨と言うものの所為で、自身の先程傷つけられた傷から血液や体液が流れていく。
だけど、痛み、苦痛はあるけれど、この場所に転移する前に居た時に起こっていた吐き気などは全くなくなった。
痛みもまし、苦しくもあるけど吐き気からは解放され心は信じられないくらい穏やかだった。
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