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第92話 もしも雪に、伝える事が出来るなら(ホロ視点)

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『ひゃっ。 な、なんで? た、辰君? あっ』

 布切れ(ハンカチ)から声が聞こえた。

 俺の心に直接、雪からの声が聞こえてきた。


 ん? ど、どう言う事だ?!

 俺は雪の事を考えてすぎて、とうとう、幻聴まで聞こえだしたと言うのか?


 しかも猫である俺の声に対して、俺(辰也)の名前を呼ぶなんて、一体どう言う事なんだ!?


「にゃー、にゃき? にゃんにゃごニャーオ?(ゆ、雪? 俺の事が分かるのか? )」

 俺はもし、この聞こえてきた声が幻聴だとしたら馬鹿みたいな事をしていると分かっていた。

 でも幻聴だとしても、そう聞かずにはいられなかった。

 これが白昼夢でも良い。


 雪と普通に会話できるなんて、もう無いと......、もう二度とないと思っていたから。

 

『えっと、アワワ、辰君、わ、私......。ええとね、あ、どうしよう』

 やはり雪の声だ。

 何回も数え切れないほど間近で聞いてきた雪の声だ。


 俺が聞き違える訳がない。


 
 
 そうは言ってもハンカチから聞こえるなんて不思議な現象。

 あり得ない。

 夢と思うのが普通だ。


 それとも、これはプディから与えられた、人の夢の中に入れる事と何か関係があるのだろうか?

 いやいや、俺。


 そんな都合の良い話がある訳がない。





 ハンカチから聞こえてくる雪の声が、本物の雪の声か分からないぞ?


 騙されるな俺。

 だいたい、もしこの雪が本物の雪だったとして、このパニクリ様はどういう事だ?


 何故雪がパニクルんだ?

 猫の声が聞こえたからか?

 だけどこの雪は俺を辰君とそう呼んでいる。



 何度も言っているが雪の声は直接俺の心の中に語りかけてくる。




 もしかして、プディから貰った力で俺はテレパシーか何かが使える様になったのかな?





 雪にも、もしかして、猫の声じゃなくて、ちゃんと人間だった(辰也の)時の言葉で耳(心)に届いているのかも。





 辰也だった時の俺は多分、死んでしまっているんだよな?

 死んだ理由とか覚えてないけど、死んでないとしたら現在のこの姿(猫)なはずがない。


 という事はテレパシーが使えたとしても雪は俺の事、幽霊か何かかと思うかも。


 違う。
 俺は幽霊じゃないぞ?





 俺は本当は全然状況が掴めてなかったけど、なんとか理解しようと自分なりに頭をフル回転させた。 






 待てよ......。


 雪にもし、俺は現在幸太郎の飼い猫として生まれ変わっている事を言えたなら、その言葉をもし雪が信じてくれたなら、猫の姿なままだとしても、また雪と一緒に暮らす事が可能になるかもしれない。




 俺はその時、雪の膝の上で猫な俺がまったりと、柔らかい太腿の感触を味わいながら昼寝をする図を頭に思い浮かべた。

 想像しただけで気持ちよくなってしまい、伸びるはずのない俺の鼻の下が伸びた気がした。


 俺は目を覚まそうと頭をブルブルと振った。


 と言っても、俺は幸太郎に結構大事にされているから、雪が俺を飼いたい、そう言ったとしても幸太郎が俺を手放すとは思えないがな......。





 ......。

 

 まてよ、ぬか喜びしそうだったが、本当は俺はいつの間にか寝てしまっていて、この不思議な出来事はただの夢の中の出来事なんじゃないか?


 あーだこーだとそんな風に考えあぐねいていたが、その時、俺の背後から大きな音が聞こえた。


 その音にビックリして、飛び上がり、後ろを振り向くと、俺のケージの前にはデンがいて、前足を俺のケージの中にかけた所だった。



 俺のケージを覗き込みながらフンフンと鼻息を鳴らしながらキョトンとした顔でこちらを見ているいつも通りのデンの顔。

 ハンカチから俺の心に雪の声が届いたこと以外は、いつも通りな長閑な午後。


 現実なのか夢なのか......。




 俺は確かめる為に、自分の前足をペロリと舐めた。

 ザラついた自分の舌の感触や自分の唾で前足の毛が湿ったのを肌で感じ、夢ではないと再確認した。



 

「にゃんにゃーニュンニャーニャン(雪、俺は雪と、もしまた喋れたらずっと言いたい事があったんだ。これが現実だか分からないが、聞いて欲しい)」


 俺は折角のこのチャンス。

 雪と本当はこれからも一緒にいたい。
 そう思っている事と共に、雪にずっと伝えたかった事をちゃんと言おう。

 そう思った。


 

 と、その時背後からチャプチャプと水を飲む音がして、もう一度振り返ってみたら、デンがいつの間にやら狭いのに俺のケージの中に入ってきていて、俺の為に幸太郎が置いてくれていた水を飲んでいた。


 シリアスモードだったのに、またもやそんなノホンとしているデンを見て俺は入れていた自分の身体の力が抜けた。
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