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第73話 どうしてココにいるの?(雪視点)

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 無事山岡さんのケアが終わり、ホロちゃん(辰君)を連れて社用車に乗り込む。


 私の胸の中でホロちゃん(辰君)はとてもよく眠っている。

 辰君、不思議。

 前、私がクウロだった頃、子供だった辰君にこうして抱っこしてもらってたなー。


 辰君に包まれて、全部守ってもらっている様で、幸せだった。

 悪戯っ子だった辰君、怪我して帰ってくる事が多くて、ちょびっとだけ、内緒でパワーを使ったりして。
 と言っても使った量はほんの僅かだったから、傷の回復を早める程度だったけど、懐かしいな......。


 辰君ちっちゃな、柔らかいなー、子猫(辰君の場合は厳密には子猫じゃないけど)って体温高いよね。

 ミルクの香りがする。


 毛艶もすごく綺麗。

 井川さん、辰君の事、大事にしてくれているんだな。

 私が優しく撫でると、辰君(ホロちゃん)が私の腕の中で少しだけ動く。

 辰君(ホロちゃん)の顔がちょこっと私の肘の内側に当たる。

 辰君(ホロちゃん)は無意識に私の肘の内側をペロペロと舐めた。

 舐めてはいるけど、まだ眠っているみたい。

 くすぐったい。
 辰君(ホロちゃん)綺麗な顔をしてる。
 きっと私の星じゃモテモテだ。


 その時、私の鞄にぶら下げている腕時計が目に入った。

 やばい、和んでいる場合じゃないとりあえず職場にもどらないと。


 私は辰君(ホロちゃん)をカゴバッグに入れてエンジンをかけた。


 今日は職場まで戻ったら早退するしかないな。

 うーん。

 り、理由。


 今まで、有給、ほとんど使ってないから使わせて貰うぞ!



 辰君(ホロちゃん)を軽く撫でる。

 眠っている辰君(ホロちゃん)心地良いのか尻尾がゆっくり左右に揺れている。


 可愛い。


 私はハンドルを握り職場に向かって走り始めた。





******




 自転車を押して、職場を出た。

 カゴに入った辰君(ホロちゃん)はよほど疲れたのかまだ眠っている。


 私が早退する為の申し送りをしている間は自分の車の中で休憩を取っていた同僚に辰君(ホロちゃん)を預けて、何とか今に至る。 


 私が仕事をしている間に井川さんからメールや電話の着信が入っていた。


 先程メールを返信して、今は井川さんの家に辰君(ホロちゃん)を届けに行っている。


 本当はこのまま家に連れて帰りたい。



 だけど......。



 私は非力だ。


 私の星の王は何を考えているのか分からない。

 今回、辰君の事も巻き込んでしまった。


 カゴの中で幸せそうに気持ち良さそうに眠る辰君。

「にゃき......(雪......)」

 辰君、寝言?


 私の夢を見ているの?


 こんな優しい顔して、私の夢を?



 うーん、このまま連れ帰って、どこか遠くへ逃げてしまいたい。


 異次元でもどこでも。

 二人ならどんな姿でも構わない。


 だけど、辰君がどう思っているか分からない。

 私の本当の姿の事、星の事も言えてない。


 捕まっている家族、弟の事も、忘れた訳じゃない。


 薄情な私。


 恋をしてしまったら、こうも周りが見えなくなるものなのか。

 私は井川さんのマンションの自転車置き場に自分の自転車を止めて鍵をかける。


 この三階建てのマンションの二階に井川さんの部屋がある。

 実は私、窓から少しでも辰君(ホロちゃん)の姿が見えないか何回もココに来ていた。


 どうしても近くで、その元気な姿を確認したくて、井川さんにメールしたのが、ついこの前だ。


 辰君、ホロちゃんの姿になって、記憶がなくなってしまっていたらどうしようと心配していたけど......。


 ちゃんと覚えているみたい。

 辰君の言葉の意味が分かるのに、知らないふりをするのは辛いし、鈍臭い私だから思わずホロちゃんじゃなくて辰君って言いそうになってしまう。


 マンションの階段をホロちゃん(辰君)を胸に抱えて一歩づつ登る。


 離れたくない。

 でも辰君はもう、井川さんにとってかけがえのない存在になっている可能性もある。

 眠っている辰君を抱え上げ頬擦りする。

 うんん。

 今は我慢だ。

 私のパワーは星に対抗するにはまだ足りない。

 荒っぽい事をしたい訳じゃない。

 私はまた辰君とあの幸せな時間を取り戻したい。
 それだけ。

 辰君には私のパワーが貯まるまで、井川さんの家で、安全な場所で、過ごしてもらおう。

 でも、ちょびっと食べさせすぎじゃないかな?

 少しだけふくれた、辰君(ホロちゃん)のお腹を見て心配になった私。

 井川さんに辰君の食事指導をしないと。
 そう決意して井川さんのマンションの部屋のインターフォンを鳴らした。


 慌てている様子が分かる程の勢いで扉が開き、ちょっとびっくりした。

「雪さん! ああ、ホロ、ホロちゃん!心配したよ。何処も怪我してない? 大丈夫か?」

 井川さんのうろたえた様子は見ていてあきらかで、どれ程、辰君(ホロちゃん)が大事にされているか伝わってきた。

 私はソーッと辰君を井川さんに渡そうとした
 辰君の爪が私の服を掴んで中々離さないから『離れたくない』そう、辰君が言っている様で胸がチクンと痛んだ。


「本当にありがとう。助かったよ。どこかに行ってしまっていたらと考えるだけで怖いよ。......。上がる?」

 井川さんはなんとか私から辰君を受け取りそう言った。
 
 なんとなく井川さんは困っている様子だった。

 ご迷惑かもしれない。
 だけど、まだ、もうちょっとだけ辰君と居たい。

 私はお茶だけもらうと言う事で、部屋に上げてもらった。


 井川さんの部屋は男性にしては綺麗に片付いていた。

 ソファーの上に見たことがある大きな犬が眠っていた。

 確かゴールデンレトリバーのデンちゃんよね。

 あれ?
 もう一匹子猫が隣で眠ってる。

 綺麗な毛並みキジトラの子猫。

 その子猫を見た時、私の胸がドクンッとなった。

 その可愛らしいニャンコがこちらの、私の気配に気がつき顔を上げた。

 あれ?
 あれ?


 ど、どうしてココに?

 あの気品。
 あのオーラ。


 プディ王女が、どうしてココにいるの?

 





 



 

 
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