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第42話 私がアナタの一番(辰也が飼っていた猫、クウロ視点)

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 辰也さん?

 アナタはとても感情の起伏が激しいお子さんでした。

 アナタの大きな笑い声も、泣き顔も私は覚えています。

 私はアナタに会うまでは感情があまりありませんでした。


 嬉しい。
 悲しい。
 楽しい
 面白い。
  

 全部アナタが教えてくれました。



 辰也さん。


 急にいなくなってごめんなさい。



 私はアナタを利用していました。


 私は地球人ではありません。



 多指症でもありません。



 星からの指令で地球に来ていました。



 感情というものの調査に。



 だけど私は。



 毎日毎日アナタといる事が楽しくて。



 調査の事は忘れていました。



 私には使命があるのです。

 アナタの事が好きすぎて使命をまっとうする事に支障が出てきたのです。


 地球人の感情を調査する必要はあるけど、私は感情を持っちゃいけないのです。

 私の星では感情を持つことは悪なのです。
 詳しくは秘密事項なのですが……。

 アナタの前で自分の感情を殺すことは無理でした。

 アナタと居ると私の中の感情が……。
 どんどん、どんどん大きくなるのです。





 そして、悩みに悩んだ挙句、あなたの側を去りました。



 何年も何年も、色々な家に忍び込んでは調査を繰り返しました。



 だけど私はアナタの事を忘れませんでした。


 ある日、成長したあなたを目の当たりにし、アナタの隣に女性が居るのを見て私の中で警報がなりました。


 使命、指令。


 どうでも良くなりました。



 私はその力を使うと、もともと持っている力が使えなくなります。

 もちろん、使命もはたせません。




 だけど、私は当たり前の様に、あなたの隣に行きたい。

 だから力が使えなくなってもかまわない。




 真っ黒の毛が全て逆立ち、私の周りが黄金に包まれました。

 私は全ての力を振り絞り、想像したんです。

 人間の姿を。


 色が白く、柔らかそうな、優しい顔の女性を。


 そして、私は想像していたような、美人にはなれなかったけど、

 人間になっていました。

 力はほとんど無くなっていたけど最後の力を振り絞りちょっとだけ時間を止めて、何とか服だけ調達しました。



 私はクウロ。


 だけどそれは過去の名前。


 私は白いものに憧れていたんです。


 私の心も真白になりたかったんです。


 辰也さんあなたに初めて会った時、雪が降っていました。

 真っ白くて冷たくて。


 私は地球に初めて下りて、あまりの寒さに驚きました。

 雪の中に私の真っ黒い毛の色は目立ったのでしょう。

 烏に襲われてしまいました。
 力を使えば烏なんて怖くありません。

 だけど、周りには人間が居たのです。

 人間の前でパワーを使う事は禁じられていました。

 烏は私の耳を引きちぎりました。

 私は痛くて、恐くて仕方がありませんでした。

 感情を出してはいけないので表情は変わっていなかったかもしれませんが……。

 目の前に泣きながら細い木の棒を振り回し、必死に烏を追っ払ってくれた男の子。
 それが辰也さんでした。

「猫ちゃん、お耳、ちぎれちゃった」

 そう言って泣きながら私を抱き抱え、ちぎれた耳を持ち、辰也さんの自宅まで走ってくれました。
 
 幸い、自宅までの距離も近く辰也さんの親御さんも居て、私を病院に連れて行ってくれました。

 辰也さんは「僕のお小遣い、貯めたの全部使っても良いから猫ちゃんを助けて」と言ってくれました。

 私の耳は、傷は残りましたがくっつきました。

 あの時からアナタに私が夢中になるのは必然だったのかもしれません。

 アナタに拾われなかったら私はあの時、死んでいたかもしれません。



 使命なんて知らないです。

 指令なんて知らないです。


 私はあなたのために生きます。








 今日から私は生まれ変わりました。



 私の名前は雪。



 私があなたを一番好き。



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