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第12話 コスモス畑と頼ちゃん
しおりを挟む茂と頼子はその時、軽自動車のトランクの中で木々に埋もれてに揺られていた。
「よ、頼子さんと言うのかい?」
小声で喋る茂はその時、幼馴染の頼ちゃんと同じ名前だと思った。
「何言っているの、将さん……良く見ると将さんじゃないわね、でもあなたの顔はなんだか全然、恐くないわ」
茂の顔をもう一度よく見つめた頼子は今気がついたかのように頷いた。
頼子は自分の旦那ではないと分っても安心しているように笑顔を向けた。
「ごめんね、将さんじゃなくて恐くないかい」
揺れた車のトランクの中で身体をぶつけない様に茂は頼子を支えた。
「不思議だね、恐くないよ、あなたの名前は?」
揺れるトランクの中で茂にしがみつきながら頼子は茂に尋ねた。
「向川茂だよ」
そう告げると頼子は少し考えているような仕草をした後、思い出したかのように頬けたような顔をした。
その時花の絵のマークが特徴のトランクに頼子と茂を乗せた軽自動車は止まり、トランクが開いたと同時に二人は下りた。
「なんだあんたたち」
そう叫んでいる男二人を無視して茂と頼子は走り出した。
目の前には一面のコスモス畑が広がっていた。
白、ピンク、赤、一面に咲くコスモスと空の青さそして太陽の眩しい光がとても綺麗に二人の目には映った。
「うわー」
色々な色のコスモスをかき分け頼子は歩く。
その後ろをゆっくりと茂も歩いた。
頼子の表情は明るくどんどん笑顔になる。
それを笑顔で追う茂はもう頼子を警察に連れて行かなければならない事など、どうでも良くなってきていた。
今は後、ちょっとだけでもこの人と居たい、そう茂は思った
その時、土の盛り上がり部分につまずき茂が大きく転んだ。
「しげちゃん」
頼子は茂のもとに跪きハンカチを出す。
「膝から血が出てる」
ハンカチで茂の膝を拭こうとしたその時、首のロケットペンダントのチェーンが外れロケットのふたが開く。
中の写真は幼い頃の茂と頼子だった。
「その写真もしかして、よ、頼ちゃんかい、これ覚えているかい、頼ちゃんがくれた手紙だよ、生きていたんだね、将さんと言っていたね結婚もしたんだね」
茂の言葉を聞き頼子はペンダントの中の写真を見た後、コスモス畑を見て、茂が差し出した自分が小さい頃作ったコスモスの押し花のしおりを見る。
茂の目元には大粒の涙が溜まっていた。
やっと、やっと逢えた。
将さんごめんなさい。
将さんの事は大好きでした。
だけど私はしげちゃんを忘れることはできなかった。
茂の泣き顔を見て頼子は茂が小さな頃、離れ離れになってしまった幼馴染のしげちゃんだと確信し目元に涙を貯めた。
「しげちゃんはやっぱり泣き虫やね、皺くちゃになっても泣き虫や」
頼子は自分のハンドバッグからポケットティッシュを取り出し茂の涙を拭った。
「頼ちゃんも変わってない、泣き虫だ」
茂も自分の皺くちゃな手の候で頼子の目元を拭った。
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