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第5話 茂の演技
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「お客さん、白線に入っては危ないですよ?下がってください」
「ええと、私は……ええっと……」
上品そうな婦人じゃが、年はワシと同じくらいかちょっと年下かいな?
オロオロとしている女性高齢者を遠巻きに見ながら茂はそんな風に思った。
「何?……私は何も悪いことはしていないわ」
そう言う高齢の婦人は気丈に抵抗しているが不安そうな姿にも映り不憫に思った茂はゆっくりと騒動の中に近づいて行った。
「どうしたんじゃ」
駅員に茂は声をかけた。
茂を見た駅員は一瞬眉にしわを寄せるが困ったように話し始めた。
「ああ、このおばあさん、さっきから見ていたら危なかしくって、でも付き添いの家族もいないようですし」
高齢の婦人はよろけながら周りをキョロキョロと見渡し茂を見かけると笑顔を浮かべ傍まで寄ってきて茂の服の裾を掴んだ。
「ああ、将さん遅いじゃないですか? 待ってたんですよ、迎えに来てくれたんですよね?」
ご婦人は茂を旦那とでもいう様にしゃべりだした。
もしかしたらワシと同じ境遇で家出して来たのかもわからんな、これは一肌脱ぐしかないのう。
そう思った茂は高齢の婦人に合わせて話し始めた。
「おお、待たせたな、もう切符はちゃんと持っているかい」
いかにも夫婦でいつも自然にそう喋っているかのような口ぶりで。
「それが、どこかに失くしてしまったみたいなの」
ご婦人も話を合わせているのか二人の会話はとても自然であるかのように周りは思えた。
「ありゃ、そうかい、もう一回探してみなさい」
そう茂はご婦人に告げると駅員に目線を移す。
「ばあさんが迷惑かけたな、あとは大丈夫だから」
駅員も納得した様子で高齢である婦人の手を放した。
「いえいえ、良かったです。危ないのでちゃんと傍に居てあげてくださいね」
そう告げるとにこやかに駅員は所定の位置に戻っていった。
「さて、もう行ったから大丈夫だよ」
駅員は誤魔化せたと安心した茂はにこやかに婦人の方に振り返った。
「それがさ、将さん切符無いのよ、こまったわ、私、何処にやったのかしら?」
しかし婦人の中ではまだ話は終わっていない様子でナチュラルに会話が続いていた。
あれ、まだ演技は続いているのかい?
まあまた騒がれて駅員が来たら困るから私もこの方の演技に乗っとくか。
一人での旅も寂しかったし、丁度良い。
茂はうんと一人で納得し、頷くような仕草をした後、もう一度改札まで戻り夫婦としての演技を続けながら事情を説明し、自分と同じ切符を購入する。
茂の背後には寄り添うようにご婦人が付いてきた。
「ほれっ、切符じゃよ」
茂と婦人はさっき会ったばかりの他人である。
茂は演技と分かっていても少しぶっきらぼうな口調でご婦人に切符を差し出した。
「将さん、ありがとう」
ご婦人は茂の切符を持ってる手を両手で包み込み嬉しそうな笑顔で笑った。
演技が上手じゃの、ドキッとしてしまったわい。
ここ十年人との触れ合いも少なく愛や恋など無縁であった茂である。
夫人の笑顔に胸の鼓動が高鳴るのを抑えることは難しかった。
こ、これは演技なんじゃ、あのご婦人も周りにばれないように必死で笑顔を作っておるんじゃ、ここを突破でき人の目を誤魔化せたらサヨナラする相手なのじゃ、何ワシはこんなにうろたえておるんじゃ。
そう、茂は心に言い聞かせた。
「ええと、私は……ええっと……」
上品そうな婦人じゃが、年はワシと同じくらいかちょっと年下かいな?
オロオロとしている女性高齢者を遠巻きに見ながら茂はそんな風に思った。
「何?……私は何も悪いことはしていないわ」
そう言う高齢の婦人は気丈に抵抗しているが不安そうな姿にも映り不憫に思った茂はゆっくりと騒動の中に近づいて行った。
「どうしたんじゃ」
駅員に茂は声をかけた。
茂を見た駅員は一瞬眉にしわを寄せるが困ったように話し始めた。
「ああ、このおばあさん、さっきから見ていたら危なかしくって、でも付き添いの家族もいないようですし」
高齢の婦人はよろけながら周りをキョロキョロと見渡し茂を見かけると笑顔を浮かべ傍まで寄ってきて茂の服の裾を掴んだ。
「ああ、将さん遅いじゃないですか? 待ってたんですよ、迎えに来てくれたんですよね?」
ご婦人は茂を旦那とでもいう様にしゃべりだした。
もしかしたらワシと同じ境遇で家出して来たのかもわからんな、これは一肌脱ぐしかないのう。
そう思った茂は高齢の婦人に合わせて話し始めた。
「おお、待たせたな、もう切符はちゃんと持っているかい」
いかにも夫婦でいつも自然にそう喋っているかのような口ぶりで。
「それが、どこかに失くしてしまったみたいなの」
ご婦人も話を合わせているのか二人の会話はとても自然であるかのように周りは思えた。
「ありゃ、そうかい、もう一回探してみなさい」
そう茂はご婦人に告げると駅員に目線を移す。
「ばあさんが迷惑かけたな、あとは大丈夫だから」
駅員も納得した様子で高齢である婦人の手を放した。
「いえいえ、良かったです。危ないのでちゃんと傍に居てあげてくださいね」
そう告げるとにこやかに駅員は所定の位置に戻っていった。
「さて、もう行ったから大丈夫だよ」
駅員は誤魔化せたと安心した茂はにこやかに婦人の方に振り返った。
「それがさ、将さん切符無いのよ、こまったわ、私、何処にやったのかしら?」
しかし婦人の中ではまだ話は終わっていない様子でナチュラルに会話が続いていた。
あれ、まだ演技は続いているのかい?
まあまた騒がれて駅員が来たら困るから私もこの方の演技に乗っとくか。
一人での旅も寂しかったし、丁度良い。
茂はうんと一人で納得し、頷くような仕草をした後、もう一度改札まで戻り夫婦としての演技を続けながら事情を説明し、自分と同じ切符を購入する。
茂の背後には寄り添うようにご婦人が付いてきた。
「ほれっ、切符じゃよ」
茂と婦人はさっき会ったばかりの他人である。
茂は演技と分かっていても少しぶっきらぼうな口調でご婦人に切符を差し出した。
「将さん、ありがとう」
ご婦人は茂の切符を持ってる手を両手で包み込み嬉しそうな笑顔で笑った。
演技が上手じゃの、ドキッとしてしまったわい。
ここ十年人との触れ合いも少なく愛や恋など無縁であった茂である。
夫人の笑顔に胸の鼓動が高鳴るのを抑えることは難しかった。
こ、これは演技なんじゃ、あのご婦人も周りにばれないように必死で笑顔を作っておるんじゃ、ここを突破でき人の目を誤魔化せたらサヨナラする相手なのじゃ、何ワシはこんなにうろたえておるんじゃ。
そう、茂は心に言い聞かせた。
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