5 / 14
第4話 高齢者の移動 危な気な足取り
しおりを挟む茂は、ある駅まで歩いていた。
腰は曲がっており、薄毛を隠す帽子を目深にかぶり、キャリーバックを引く危なげな歩き方の老人は人目を引いた。
駅、近くまでタクシーに乗ったが、行き先を聞かれ駅の名前を言うと茂は高齢で連れもいないという事で運転手に不審がられてしまった。
誤魔化す為、駅から五分ほど前の所で下してもらった茂であった。
乗る時の足取りが怪しかったからか家出老人と思われたのか……まあ、あながち間違ってはいないが……。
茂、本人は軽やかな足取りと思っている。
だが周りからしたら少しよろけたりと、かなり危ない足取りで駅までの道のりを歩いている茂だった。
そんな茂なのだが、道端にゴミが落ちていることが我慢ならない。
地面に落ちているゴミを見つけては拾い上げゴミ箱に捨てる。
そのたびに危うく転びそうになる。
周りが声を変えるまでは至らないが、危なっかしくて仕方ない状況だった。
それでも茂はそれを繰り返しながらなんとか駅に着き、駅構内の窓口までたどり着いた。
周りは心配そうに茂を見守るが、表情が険しい茂に誰も話しかけることはなかった。
壁に寄りかかりながら茂は古い手紙の住所を見せ「ここに行きたいんじゃけど、どれに乗ったらええやろ?」と若い駅員に尋ねる。
暇そうにしていた若い駅員は窓口から茂の手紙の住所を覗き込みパソコンの画面を見ながら調べてくれている様子だった。
「はいはい、切符は二千五百円ですよ、乗り口は三番乗り場です。乗換案内のレシートを出しますね。お一人で大丈夫ですか?」と駅員は早口だが笑顔で親切に教えてくれた。
「ありがとう、虫眼鏡もあるし、大丈夫。これから娘の所に行くんです」
そう笑顔で返す茂である。
年を取ると嘘を自然につけるようになってきたものだ、そう思った茂は少し罪悪感を持ちながらも目的を遂行するためだと力強くうなずき窓口を後にした。
その後、茂は売店まで歩き列に並ぶ。
自分の順番になりスルメとコーヒーを手に取り店員に渡した。
「三百五十円です」売店員は若い女性だった。
愛想はなく無表情でお釣りを渡された茂の眉間の皺はまた深くなった。
昔は愛嬌があるおばちゃんが居たのにな。
もう辞めたんかいな。
危なっかし気に腰を曲げ茂は、そんなことを考え購入したものを荷物にしまった。
大きなキャリーバックをフラフラと運びながら歩く老人は目を引くのか通りすがる人々が皆振り返った。
気にしないで足を進め茂は先ほど言われた乗り場までたどり着く。
色々迷いながら足を動かした為、結構な時間が経ってしまっていたが、すぐに乗れる時刻と遅めの時刻の二枚、乗換案内のレシートを駅員が出していてくれていたため、余裕で間に合うことが出来た。
もう秋だというのに昨日降った雨のせいなのか湿気が多く、また寒がりな茂が服を着こみ過ぎたからか茂の額に多量の汗が浮かんだ。
そういう些細なことが積み重なり残り少ない茂の体力を奪っていった。
茂はなんとか影かかった場所まで足を進め、空いていた椅子に腰かける。
先ほど買ったコーヒーはもう温くなってしまった。
その時ざわついた声が駅内に響き渡り思わず茂は振り返った。
そこには一人の女性であるお年寄りを囲み駅員が声をかけているようだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
眩暈のころ
犬束
現代文学
中学三年生のとき、同じクラスになった近海は、奇妙に大人びていて、印象的な存在感を漂わせる男子だった。
私は、彼ばかり見つめていたが、恋をしているとは絶対に認めなかった。
そんな日々の、記憶と記録。
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
ガラスの森
菊池昭仁
現代文学
自由奔放な女、木ノ葉(このは)と死の淵を彷徨う絵描き、伊吹雅彦は那須の別荘で静かに暮らしていた。
死を待ちながら生きることの矛盾と苦悩。愛することの不条理。
明日が不確実な男は女を愛してもいいのだろうか? 愛と死の物語です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)
犬束
現代文学
夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。
夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。
“大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”
好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。
《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。
読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾
派遣メシ友
白野よつは(白詰よつは)
現代文学
やりたいことは大学で見つけたらいいという思いで入学した泰野陽史は、実際はやりたいこともなく、ぼんやりと日々を送っている。
そんなとき、ふと目にした大学のアルバイト掲示板の隅っこに《派遣メシ友募集》という何やら怪しげなチラシを見つけるが、派遣先のメシ友たちは、それぞれに問題を抱えている人たちばかりだった。
口も態度も悪いせいで妻亡きあとは近所から孤立している、ひとり暮らしの老人――桑原芳二。
恋人が作った借金を返すためキャバクラで働いて長い、派手な年増のお姉さん――須賀彩乃。
仕事の忙しさを理由に共働きの妻に家事や育児を任せっきりにしていたツケが回り、ある日子供を連れて出ていかれてしまったサラリーマン――緒川之弥。
母子家庭で、夜はひとりで過ごすことの多い小学生の女の子――太田茉莉。
いくら飽食の時代と言われても、一緒に食べる人がいなければ美味しくない。《派遣メシ友》は、そんな彼らの心の隙間を〝誰かと一緒に食べる喜び〟で少しずつ埋めていく。
やがて陽史自身にも徐々に変化が訪れて……。
ご飯が美味しい――たったそれだけで、人生はちょっと豊かになるかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる