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前編
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「パトリー侯爵家当主、レイラ様。ご到着です」
俺の名前が呼ばれると、扉の向こう側の空気が揺れた。ザワザワと、音の波が大きくなる。
「あの『公爵家の恥』がパーティに参加するだって?」
「レイラ・パトリックは公爵家から追い出されて領地の僻地に追いやられたって聞きましたけど」
「レイラ様は見目麗しいパトリック公爵家に似合わない、とても醜いお姿だとお聞きしましたわ」
「あの陰気な豚が来るだって? 気分が悪くなるじゃないか」
扉の向こうから聞こえてくるのは、レイラ・パトリックに対する悪口ばかりだ。今はパトリックじゃなくてパトリーだっての。
「お気になさらずに。貴方は堂々としていらっしゃればよいのです」
「分かってる。今笑ってる奴らは、俺の本当の姿を知らない。今度はこっちが、アイツらの見る目の無さを笑ってやるだけだ」
「それでこそ、レイラ様です」
デリスに背中を軽く押されると同時に、扉が開かれた。押された勢いのまま、一歩踏み出す。途端突き刺さる視線、視線、視線。
シン……と静まりかえった大広間。これはかなり、精神的に来る。
「あら、レイラじゃない。久しぶりね」
「……フィリア姉上」
時間が止まったかと思うほどの静まりようとなった空間を物ともせずに歩み寄ってくる、俺をビレッド地区に送った張本人。パトリック公爵家の次期当主である、フィリア・パトリック。
元々豪胆な人だとは思っていたけれど、ここまで空気を気にしない人だとは思わなかったな……。今はそのお陰で助かったけれど。
「貴方が小さかった頃を思い出すわね。あのまま成長していれば、もっと早くにこの顔を見れたかもしれないと思うと悔しいわ」
「……あまり驚かれないのですね」
「貴方の幼少期を知っていれば、簡単に想像できたことよ。まぁ、ここまで完璧に仕上げてくるとは思わなかったけれど」
フィリアは俺の顎をつかむと、右に左にと品定めするかのように見てくる。うぇ、今、首がごきって鳴った。
「あら、あんなにぽよぽよだったお腹に腹筋まで……。デリス、よくやったわ」
「お褒めいただき、光栄です」
「この出来なら、手紙を再三無視したことも許してあげる」
「やはり、デリスに手紙を送ってきていたのは姉上でしたか」
俺はデリスの作品か! っていうような内容の会話に口をはさむ。
顔だけではなく、お腹を撫でさすられ、腰を掴まれ……本当にやりたい放題のフィリアに心を無にすることにした。周りは、フィリアがいるから近付いてこれないみたいだし、丁度いいや。
ちなみに何故デリスがいるのかというと、俺の地位ならパーティに侍従を連れていくことも許されていることもあり、側にいてもらっている。デリスは顔が良いから、周りからあれこれ言われることも少ないだろうしな。
「いくら行き遅れで田舎に引っ込んだからといっても、侯爵の地位を持つ限りは社交界から逃げられないわよ。いつかはライアー家の子もパトリー家から出て貴方一人になるんだし」
「あ」
俺は思わず声を出してしまった。不自然に固まった俺を鋭い目つきで見るフィリアと、俺の後ろでため息を吐いたデリス。ごめんなさい。完全に俺のミスだ!
「なに?」
「えっと……すいません。報告を忘れていました」
「だから、なにを?」
「……実は、孤児院から一人、子どもを引き取りました。水の精霊王の寵愛を受けた、カーディアスと同じような年の男の子です……」
「……なるほど。息子が増えた、と」
「はい……」
「しかもその子は、水の精霊王の契約者」
「そうです……」
「……レイラ」
「はい……っ!?」
ガシッと、手を掴まれた。そして、骨が音を立てるほど握りしめられる。い、痛い……!
あまりの痛みに思わず涙目になった俺を、瞳孔が開いた目で見つめながらフィリアは微笑んだ。
「後で、詳しく、聞かせなさい」
「はぃ……」
フィリア姉上、マジで怖いぃ……‼
俺の名前が呼ばれると、扉の向こう側の空気が揺れた。ザワザワと、音の波が大きくなる。
「あの『公爵家の恥』がパーティに参加するだって?」
「レイラ・パトリックは公爵家から追い出されて領地の僻地に追いやられたって聞きましたけど」
「レイラ様は見目麗しいパトリック公爵家に似合わない、とても醜いお姿だとお聞きしましたわ」
「あの陰気な豚が来るだって? 気分が悪くなるじゃないか」
扉の向こうから聞こえてくるのは、レイラ・パトリックに対する悪口ばかりだ。今はパトリックじゃなくてパトリーだっての。
「お気になさらずに。貴方は堂々としていらっしゃればよいのです」
「分かってる。今笑ってる奴らは、俺の本当の姿を知らない。今度はこっちが、アイツらの見る目の無さを笑ってやるだけだ」
「それでこそ、レイラ様です」
デリスに背中を軽く押されると同時に、扉が開かれた。押された勢いのまま、一歩踏み出す。途端突き刺さる視線、視線、視線。
シン……と静まりかえった大広間。これはかなり、精神的に来る。
「あら、レイラじゃない。久しぶりね」
「……フィリア姉上」
時間が止まったかと思うほどの静まりようとなった空間を物ともせずに歩み寄ってくる、俺をビレッド地区に送った張本人。パトリック公爵家の次期当主である、フィリア・パトリック。
元々豪胆な人だとは思っていたけれど、ここまで空気を気にしない人だとは思わなかったな……。今はそのお陰で助かったけれど。
「貴方が小さかった頃を思い出すわね。あのまま成長していれば、もっと早くにこの顔を見れたかもしれないと思うと悔しいわ」
「……あまり驚かれないのですね」
「貴方の幼少期を知っていれば、簡単に想像できたことよ。まぁ、ここまで完璧に仕上げてくるとは思わなかったけれど」
フィリアは俺の顎をつかむと、右に左にと品定めするかのように見てくる。うぇ、今、首がごきって鳴った。
「あら、あんなにぽよぽよだったお腹に腹筋まで……。デリス、よくやったわ」
「お褒めいただき、光栄です」
「この出来なら、手紙を再三無視したことも許してあげる」
「やはり、デリスに手紙を送ってきていたのは姉上でしたか」
俺はデリスの作品か! っていうような内容の会話に口をはさむ。
顔だけではなく、お腹を撫でさすられ、腰を掴まれ……本当にやりたい放題のフィリアに心を無にすることにした。周りは、フィリアがいるから近付いてこれないみたいだし、丁度いいや。
ちなみに何故デリスがいるのかというと、俺の地位ならパーティに侍従を連れていくことも許されていることもあり、側にいてもらっている。デリスは顔が良いから、周りからあれこれ言われることも少ないだろうしな。
「いくら行き遅れで田舎に引っ込んだからといっても、侯爵の地位を持つ限りは社交界から逃げられないわよ。いつかはライアー家の子もパトリー家から出て貴方一人になるんだし」
「あ」
俺は思わず声を出してしまった。不自然に固まった俺を鋭い目つきで見るフィリアと、俺の後ろでため息を吐いたデリス。ごめんなさい。完全に俺のミスだ!
「なに?」
「えっと……すいません。報告を忘れていました」
「だから、なにを?」
「……実は、孤児院から一人、子どもを引き取りました。水の精霊王の寵愛を受けた、カーディアスと同じような年の男の子です……」
「……なるほど。息子が増えた、と」
「はい……」
「しかもその子は、水の精霊王の契約者」
「そうです……」
「……レイラ」
「はい……っ!?」
ガシッと、手を掴まれた。そして、骨が音を立てるほど握りしめられる。い、痛い……!
あまりの痛みに思わず涙目になった俺を、瞳孔が開いた目で見つめながらフィリアは微笑んだ。
「後で、詳しく、聞かせなさい」
「はぃ……」
フィリア姉上、マジで怖いぃ……‼
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