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前編
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「レイラっ!!貴様、我がダール家を敵に回すというのか!?」
アークナーは、今にも飛び掛からんばかりに頭に血が上っているようだ。対して伯爵の方は冷静だった。喚くアークナーを放って、俺から目を逸らさずに俺の意図を見極めようとしている。
腹の探り合い。ここで負ければ、ユリウスはダール家に連れていかれてしまうだろう。
正直なところ、ダール家にとってアークナーの不始末如きなんの問題もない。お得意の手でもみ消せばいいだけだ。だが、俺が何故あのダール家相手に喧嘩を売るような真似をしてまでユリウスを手に入れようとするのか。単に精霊の王の契約者だからというだけではないと、伯爵は理解している。当主というだけはあるな。
「何故、そこまでしてあの子どもを欲しがるのでしょうか」
「単に欲しいから、では納得できませんか?今は分家されていますが、元は私もパトリック家の者。気に入れば、どんなモノでも手に入れる。私はあの子が気に入りました。それに……」
「なんです?」
「ユリウスも、私と結婚したいと熱烈な告白をしてくれるほどには、好いてくれているようですので」
満面に笑みで、そう宣ってやった。思いもしなかった言葉だったのだろう。それはそうだ。『レイラ』でないと、こんな戯言は堂々と言えやしない。
「私はユリウスが欲しい。だからあなた方には申し訳ございませんが、あの子はパトリー家で引き取らせていただきます」
「お前、いい加減にしろよ!そんなバカげた理由でっ!?」
「やめろ、アークナー」
「ち、父上……」
未だに状況が分かっていないアークナーは、本当にダール家の家業に向いていないのだろう。これをきっかけに、ダール家の中でも彼の立場は大きく変わるだろう。病気になったとでも言って次期当主の座から降ろされ屋敷に幽閉されるか、チャンスを貰えるのか……どちらにしろ、まともな道にはならないだろう。しかし同情の余地もない。アカデミー時代に言われた悪口の数々を俺は忘れていないからな。俺は根に持つタイプなんだよ。
「息子が失礼をいたしました。そのお詫びと申しましては都合のよい話ではありますが、ユリウスから我々は手を引きます。あとはどうぞ、お好きなように」
「ありがとうございます。ダール伯爵家とは、パトリック家時代と変わらず良い関係を保ちたいと思っておりましたので、喜んで申し出を受けさせていただきます」
伯爵と握手を交わし、ユリウスに関して、ダール家は手を引く旨を書類にサインをしてもらったことで、ユリウスのことは解決した。これで、ユリウスはこの先ダール家のことで悩まされることはなくなる。予想外の事態だったけど、これでまた一つ、断罪からのデッドエンド回避に良い手を打てた。まさか俺とカーディアスを断罪するはずのユリウスを引き取ることになるとは思わなかったけど。
「あぁ、そうだ。伯爵」
「はい?」
「このようなところまで遥々来ていただいたにも関わらず、手土産をお渡ししておりませんでしたね。どうぞこちらを」
やっと帰る伯爵を見送りに屋敷の門まで歩く。ちなみに、アークナーはあまりにも騒がしかったために父親によって先に馬車に戻らされている。デリスが送ったから、ちゃんと馬車に押し込んだだろう。
馬車に乗り込もうとしていた伯爵に、一枚の細く丸めた紙を手渡した。貰うばっかりじゃ怖いからね、この世界は。
「……これは」
「偶然気が付いたことですので」
「……そうですか。では、ありがたく」
そう言って、紙を懐にしまうと伯爵はさっさと帰っていった。手土産がお気に召したようでなによりだ。
「レイラ様。よろしかったのですか?」
「なにが?」
「伯爵に手渡していた情報です。一応、パトリック家の親類ですよ」
デリスは、伯爵に渡した情報を心配しているらしい。いや。一番心配してるのは俺への飛び火だろう。その気遣いは嬉しいが、本当に問題がないことだ。
「大丈夫大丈夫。パトリック家も目障りな黒子は取っちゃいたいと思ってるはずだから、褒められることはあっても怒られはしないよ。それに、あのダール家が動くんだから、証拠も何も残るはずがないでしょ。流石に一家殺害じゃなくて、没落くらいにすると思うしね」
「そうですか」
本当にたまたま気が付いただけだった。結局はデリスが勝手に書類整理を行ったことで分かった事実。やたらと書類が多かった理由は、パトリック家の遠縁の家が、ダール家に辛酸を舐めさせられたことでダール家を陥れようとしたこと。その黒幕の罪を、都合よく分家したところだった俺に着せようとしたために、下準備の書類をわざと俺の元に届けられる書類に紛れ込ませていたのだ。
デリスが書類整理をしたことで、不透明だった書類の内容をしっかりと確認することができたのだ。そして、俺の書類仕事を増やしてくれやがったマヌケな犯人が親族であることまでもデリスは突き止めてくれた。ほんと、デリス様様だ。
「ほんと、デリスのお陰で色々助かった。またお礼をしないとな」
「いえ、これは本当に偶然ですので」
「偶然だって、それはお前の功績だ。褒美は何がいいか、また考えておいてくれ」
「……かしこまりました」
微笑みを浮かべても、照れることはほとんどない彼の耳が少しだけ赤くなっていたことは、いつかの揶揄いのネタにとっておくことにした。
※小難しい話は一旦終了!!
次からは子猫同士のレイラを巡るキャットファイト(中身は狼)と、彼らを嘲笑うデリスの攻防戦が始まります!
カーディアスとユリウス、デリス目線でのお話も多くなるかもです!
そして、これまでとはテイストが違う新作「異世界で恋に溺れる」も4話まで更新済みなので、お暇な時にでもぜひー!
アークナーは、今にも飛び掛からんばかりに頭に血が上っているようだ。対して伯爵の方は冷静だった。喚くアークナーを放って、俺から目を逸らさずに俺の意図を見極めようとしている。
腹の探り合い。ここで負ければ、ユリウスはダール家に連れていかれてしまうだろう。
正直なところ、ダール家にとってアークナーの不始末如きなんの問題もない。お得意の手でもみ消せばいいだけだ。だが、俺が何故あのダール家相手に喧嘩を売るような真似をしてまでユリウスを手に入れようとするのか。単に精霊の王の契約者だからというだけではないと、伯爵は理解している。当主というだけはあるな。
「何故、そこまでしてあの子どもを欲しがるのでしょうか」
「単に欲しいから、では納得できませんか?今は分家されていますが、元は私もパトリック家の者。気に入れば、どんなモノでも手に入れる。私はあの子が気に入りました。それに……」
「なんです?」
「ユリウスも、私と結婚したいと熱烈な告白をしてくれるほどには、好いてくれているようですので」
満面に笑みで、そう宣ってやった。思いもしなかった言葉だったのだろう。それはそうだ。『レイラ』でないと、こんな戯言は堂々と言えやしない。
「私はユリウスが欲しい。だからあなた方には申し訳ございませんが、あの子はパトリー家で引き取らせていただきます」
「お前、いい加減にしろよ!そんなバカげた理由でっ!?」
「やめろ、アークナー」
「ち、父上……」
未だに状況が分かっていないアークナーは、本当にダール家の家業に向いていないのだろう。これをきっかけに、ダール家の中でも彼の立場は大きく変わるだろう。病気になったとでも言って次期当主の座から降ろされ屋敷に幽閉されるか、チャンスを貰えるのか……どちらにしろ、まともな道にはならないだろう。しかし同情の余地もない。アカデミー時代に言われた悪口の数々を俺は忘れていないからな。俺は根に持つタイプなんだよ。
「息子が失礼をいたしました。そのお詫びと申しましては都合のよい話ではありますが、ユリウスから我々は手を引きます。あとはどうぞ、お好きなように」
「ありがとうございます。ダール伯爵家とは、パトリック家時代と変わらず良い関係を保ちたいと思っておりましたので、喜んで申し出を受けさせていただきます」
伯爵と握手を交わし、ユリウスに関して、ダール家は手を引く旨を書類にサインをしてもらったことで、ユリウスのことは解決した。これで、ユリウスはこの先ダール家のことで悩まされることはなくなる。予想外の事態だったけど、これでまた一つ、断罪からのデッドエンド回避に良い手を打てた。まさか俺とカーディアスを断罪するはずのユリウスを引き取ることになるとは思わなかったけど。
「あぁ、そうだ。伯爵」
「はい?」
「このようなところまで遥々来ていただいたにも関わらず、手土産をお渡ししておりませんでしたね。どうぞこちらを」
やっと帰る伯爵を見送りに屋敷の門まで歩く。ちなみに、アークナーはあまりにも騒がしかったために父親によって先に馬車に戻らされている。デリスが送ったから、ちゃんと馬車に押し込んだだろう。
馬車に乗り込もうとしていた伯爵に、一枚の細く丸めた紙を手渡した。貰うばっかりじゃ怖いからね、この世界は。
「……これは」
「偶然気が付いたことですので」
「……そうですか。では、ありがたく」
そう言って、紙を懐にしまうと伯爵はさっさと帰っていった。手土産がお気に召したようでなによりだ。
「レイラ様。よろしかったのですか?」
「なにが?」
「伯爵に手渡していた情報です。一応、パトリック家の親類ですよ」
デリスは、伯爵に渡した情報を心配しているらしい。いや。一番心配してるのは俺への飛び火だろう。その気遣いは嬉しいが、本当に問題がないことだ。
「大丈夫大丈夫。パトリック家も目障りな黒子は取っちゃいたいと思ってるはずだから、褒められることはあっても怒られはしないよ。それに、あのダール家が動くんだから、証拠も何も残るはずがないでしょ。流石に一家殺害じゃなくて、没落くらいにすると思うしね」
「そうですか」
本当にたまたま気が付いただけだった。結局はデリスが勝手に書類整理を行ったことで分かった事実。やたらと書類が多かった理由は、パトリック家の遠縁の家が、ダール家に辛酸を舐めさせられたことでダール家を陥れようとしたこと。その黒幕の罪を、都合よく分家したところだった俺に着せようとしたために、下準備の書類をわざと俺の元に届けられる書類に紛れ込ませていたのだ。
デリスが書類整理をしたことで、不透明だった書類の内容をしっかりと確認することができたのだ。そして、俺の書類仕事を増やしてくれやがったマヌケな犯人が親族であることまでもデリスは突き止めてくれた。ほんと、デリス様様だ。
「ほんと、デリスのお陰で色々助かった。またお礼をしないとな」
「いえ、これは本当に偶然ですので」
「偶然だって、それはお前の功績だ。褒美は何がいいか、また考えておいてくれ」
「……かしこまりました」
微笑みを浮かべても、照れることはほとんどない彼の耳が少しだけ赤くなっていたことは、いつかの揶揄いのネタにとっておくことにした。
※小難しい話は一旦終了!!
次からは子猫同士のレイラを巡るキャットファイト(中身は狼)と、彼らを嘲笑うデリスの攻防戦が始まります!
カーディアスとユリウス、デリス目線でのお話も多くなるかもです!
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