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前編
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「…………」
「…………」
「お~い…………」
「…………」
「……クッキー食べるか?」
「…………」
「俺の手作り」
「食べます!」
「お、おう……」
さっきまでのだんまりにらめっこが嘘みたいに、花が周りに飛んでいそうなほどにほわほわとした笑顔でクッキーを頬張る目の前の男の子。年はカーディアスより一つ下の11歳。これは将来イケメンだなって未来が俺には見える。お目目ぱっちり、顔のパーツ配置も完璧な美少年だ。
「あー……昨日は大丈夫だったか?」
「ん、ふぁい、んぐ……大丈夫です」
「昨日はありがとうございました」とペコリとお辞儀をして礼を言うこの子は、とても礼儀が良い子のようだ。孤児院の教育がいいのか、それとも元々の本人の性格か。どちらにしろ、貴族の家に連れてこられて、突然大人と二人っきりにされたというのに冷静にも程があるな。俺よりも肝が据わってるじゃないか。流石「主人公」。
この少年は昨日の祭りで湖に引きずり込まれ、水の精霊の王に気に入られた神子だ。そして、この世界の大本の乙女ゲームの男主人公だった。確かに、昔は田舎にある孤児院にいて、水の精霊の王に気に入られたから今の家に引き取られたんだ……的なことを言っていた記憶はある。でもその田舎がまさかこのビレッド地区で、昨日の祭りで精霊の王との契約がなされたなんて思わないじゃん……。
「僕、水の中に引きずり込まれたとき、なんだか大丈夫な予感はしてたんです。だけど、やっぱり暗くて冷たいのは怖かった。もうお祭りの灯りも見えなくて、絶対に届かないって分かってましたけど手を伸ばさずにはいられなかった。貴方はそんな僕の手を取ってくれました」
「結局、なんの役にも立ってなかったけどね」
「いえ、とても嬉しかったんですよ。あの時握った貴方の手は温かくて、その綺麗な髪は光のマナで輝いていて……一瞬、お迎えが来たのかと思いました」
「大袈裟だな。それと、俺の名前はレイラ・パトリーだ。子どもに堅苦しい礼儀を無理強いするつもりはないから、気軽にレイラと呼んでくれ」
「はい。レイラ」
「……ある意味素直だな」
天然なのか?コイツってこんなに天然な奴だったか?ビビるほど大人びた態度とられても困るけど、これもこれで困るなぁ。
「レイラ。レイラは結婚していますか?」
「は?」
「お付き合いしている方はいますか?」
「え、い、いや、いないけど……なんで?」
「では、僕と付き合ってください」
「はぁ!?」
思わず大きな声が出てしまった。いや、これは叫んでもいいレベルだ。大人びているどころか、ませてやがる……。
「レイラさん!どうしました!?」
「カ、カーディ……」
「お前!レイラさんに何をした!!」
カーディアスが俺の情けない困り顔を見て、目尻をキッと吊り上げて少年――ユリウスを睨みつける。ユリウスはカーディに睨まれても顔色一つ変えずに俺から目を離さない。
「僕はただ、プロポーズしただけです」
「プ……!?はぁ!?」
プロポーズと聞いた瞬間、カーディアスの顔が真っ赤になった。その振り返って俺を見てくる。お前はお前で、可哀想なくらい純情だなぁ……。
「それで、お返事は」
「え、俺は犯罪者になりたくないんだけど!?」
まだ小学生の歳の子と結婚てヤバいじゃん……。そんなことになったら、パトリック家から存在を抹消されかねないよ俺。
「レ、レイラさんは僕の父さんなの!!」
「でも先ほど結婚もお付き合いしている方もいないと。それに、息子でしたら障害にはなりません」
「こ、これから僕と付き合うし結婚もするの!!レイラさんは僕の!!」
「だからお前にはあげない!!」と、犬に威嚇する猫みたいにユリウスに牙を剥かんばかりに反論するカーディアスは、言っていることがかなりの暴論になっていることに気づいているのだろうか。これはあれか?「お母さんは僕と結婚するの!」っていうやつか?でも息子が父親に結婚して!って言うのはちょっと違う気がするんだけど……。
「レイラは、僕と結婚するんですよね?」
「なんで呼び捨てにしてるんだよ!ねぇ、レイラさん!レイラさんは僕と結婚するんですよね!?」
「えぇ……?」
キラキラ美少年な天使二人に詰め寄られても怖いだけだと俺は知った。まず、何で俺が男と結婚することは確定事項になっているのだろうか。
「困ったな……」
「困りましたねぇ」
「ん?」
振り向くといつの間にかデリスがいた。俺はもうお前が突然現れても驚かないぞ……。
「困りましたよ、レイラ様」
「お前は特に困ってないだろ」
「ダール伯爵家の御当主が、ご子息と共にいらっしゃいました。ユリウスさんのことでお話があると」
「……それは困ったな」
ダール伯爵家。原作ゲームでは「男主人公」であるユリウスの心に消えない傷をつけたとされている、絵に描いたような悪徳貴族として有名な貴族だ。これは困ったことになった……なんて少しも思ってはいない。
俺とデリスは顔を見合わせてにやりと笑いあった。
「…………」
「お~い…………」
「…………」
「……クッキー食べるか?」
「…………」
「俺の手作り」
「食べます!」
「お、おう……」
さっきまでのだんまりにらめっこが嘘みたいに、花が周りに飛んでいそうなほどにほわほわとした笑顔でクッキーを頬張る目の前の男の子。年はカーディアスより一つ下の11歳。これは将来イケメンだなって未来が俺には見える。お目目ぱっちり、顔のパーツ配置も完璧な美少年だ。
「あー……昨日は大丈夫だったか?」
「ん、ふぁい、んぐ……大丈夫です」
「昨日はありがとうございました」とペコリとお辞儀をして礼を言うこの子は、とても礼儀が良い子のようだ。孤児院の教育がいいのか、それとも元々の本人の性格か。どちらにしろ、貴族の家に連れてこられて、突然大人と二人っきりにされたというのに冷静にも程があるな。俺よりも肝が据わってるじゃないか。流石「主人公」。
この少年は昨日の祭りで湖に引きずり込まれ、水の精霊の王に気に入られた神子だ。そして、この世界の大本の乙女ゲームの男主人公だった。確かに、昔は田舎にある孤児院にいて、水の精霊の王に気に入られたから今の家に引き取られたんだ……的なことを言っていた記憶はある。でもその田舎がまさかこのビレッド地区で、昨日の祭りで精霊の王との契約がなされたなんて思わないじゃん……。
「僕、水の中に引きずり込まれたとき、なんだか大丈夫な予感はしてたんです。だけど、やっぱり暗くて冷たいのは怖かった。もうお祭りの灯りも見えなくて、絶対に届かないって分かってましたけど手を伸ばさずにはいられなかった。貴方はそんな僕の手を取ってくれました」
「結局、なんの役にも立ってなかったけどね」
「いえ、とても嬉しかったんですよ。あの時握った貴方の手は温かくて、その綺麗な髪は光のマナで輝いていて……一瞬、お迎えが来たのかと思いました」
「大袈裟だな。それと、俺の名前はレイラ・パトリーだ。子どもに堅苦しい礼儀を無理強いするつもりはないから、気軽にレイラと呼んでくれ」
「はい。レイラ」
「……ある意味素直だな」
天然なのか?コイツってこんなに天然な奴だったか?ビビるほど大人びた態度とられても困るけど、これもこれで困るなぁ。
「レイラ。レイラは結婚していますか?」
「は?」
「お付き合いしている方はいますか?」
「え、い、いや、いないけど……なんで?」
「では、僕と付き合ってください」
「はぁ!?」
思わず大きな声が出てしまった。いや、これは叫んでもいいレベルだ。大人びているどころか、ませてやがる……。
「レイラさん!どうしました!?」
「カ、カーディ……」
「お前!レイラさんに何をした!!」
カーディアスが俺の情けない困り顔を見て、目尻をキッと吊り上げて少年――ユリウスを睨みつける。ユリウスはカーディに睨まれても顔色一つ変えずに俺から目を離さない。
「僕はただ、プロポーズしただけです」
「プ……!?はぁ!?」
プロポーズと聞いた瞬間、カーディアスの顔が真っ赤になった。その振り返って俺を見てくる。お前はお前で、可哀想なくらい純情だなぁ……。
「それで、お返事は」
「え、俺は犯罪者になりたくないんだけど!?」
まだ小学生の歳の子と結婚てヤバいじゃん……。そんなことになったら、パトリック家から存在を抹消されかねないよ俺。
「レ、レイラさんは僕の父さんなの!!」
「でも先ほど結婚もお付き合いしている方もいないと。それに、息子でしたら障害にはなりません」
「こ、これから僕と付き合うし結婚もするの!!レイラさんは僕の!!」
「だからお前にはあげない!!」と、犬に威嚇する猫みたいにユリウスに牙を剥かんばかりに反論するカーディアスは、言っていることがかなりの暴論になっていることに気づいているのだろうか。これはあれか?「お母さんは僕と結婚するの!」っていうやつか?でも息子が父親に結婚して!って言うのはちょっと違う気がするんだけど……。
「レイラは、僕と結婚するんですよね?」
「なんで呼び捨てにしてるんだよ!ねぇ、レイラさん!レイラさんは僕と結婚するんですよね!?」
「えぇ……?」
キラキラ美少年な天使二人に詰め寄られても怖いだけだと俺は知った。まず、何で俺が男と結婚することは確定事項になっているのだろうか。
「困ったな……」
「困りましたねぇ」
「ん?」
振り向くといつの間にかデリスがいた。俺はもうお前が突然現れても驚かないぞ……。
「困りましたよ、レイラ様」
「お前は特に困ってないだろ」
「ダール伯爵家の御当主が、ご子息と共にいらっしゃいました。ユリウスさんのことでお話があると」
「……それは困ったな」
ダール伯爵家。原作ゲームでは「男主人公」であるユリウスの心に消えない傷をつけたとされている、絵に描いたような悪徳貴族として有名な貴族だ。これは困ったことになった……なんて少しも思ってはいない。
俺とデリスは顔を見合わせてにやりと笑いあった。
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