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前編
8 SIDE カーディス
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「カーディ、あの飴キラキラ光ってるぞ!すごいなぁ」
「本当ですね!あ、あのお店は何ですか?」
「ん?あれは射的だな。コルクの玉で景品を倒すとそれが貰えるんだ」
「む、難しそう……」
「やってみるか?」
返事をする前に、レイラさんは僕の手を引いて射的の出店に向かって歩き出してしまった。ちらりと見上げた横顔は、どこかわくわくとしている。あまり騒がしいことが好きではないレイラさんがつまらなそうだったらすぐに帰ろうと思っていたけれど、その心配はなさそうだ。退屈どころか、意外なことにとても楽しそうに出店を見て回っている。
僕は、後ろを振り返ってみた。少し離れたところで人混みに紛れ込むようにして着いてきていたデリスが、笑顔を頷くのが見えた。それに僕も頷いた。デリスが笑っているということは、どうやらレイラさんは本当に楽しんでいるようだ。
「カーディ、どれが欲しい?」
「え?」
気が付いたらお店の前に来ていて、既にレイラさんが射的の銃を持っていた。
「俺もそこまで上手いわけじゃないから期待はするなよ?で、どれだ?」
「ええっと……」
レイラさんに促されて、並べられた景品を見る。ゲームは難しそうなのに、景品は子供向けが多く、僕にとってはあまり魅力的なものはない。でも、レイラさんは僕が選ぶのを待っている。焦る気持ちが目を滑らせてしまう。滑った先の視界に、ぬいぐるみが見えた。もふもふで、お腹がぽっこりとした愛らしい動物。それがどこか、出会ったころのレイラさんに重なって見えた。
「あれが欲しいのか?」
「え、あ……えっと」
「お前も男らしくなったと思ったけど、まだまだ子どもなんだな。でも的がでかくて丁度いいか」
「あ、あの……」
慌てて弁解しようとするも、レイラさんはそのぬいぐるみに向かって銃を構えていた。その姿を見て、発しようとした言葉が消えていく。
後ろに軽く撫でつけた髪の先が、ふわっと風に揺れる。真剣な眼差しで銃を構えるその姿は、まるで美しい絵画のようで僕の時間を止めた。いや、僕だけじゃない。お店の店主も、近くを歩いて通り過ぎようとしていた親子も、周りを行きかっていた人たちが全員息を飲んでこの美しい人を見つめていた。
――――パンッ
軽い衝撃音が静けさに満ちた空間に響く。その音で、僕らはみんな眠りから覚めたかのように意識を取り戻した。
「あ、惜しい!」
悔しそうな声を漏らすレイラさんは、いつもよりも幼く見えた。仕事からの解放感なのか、感情が素で現れているみたいだ。
「お兄さん、もう1回!」
「え、あ、はい!」
さっきのレイラさんに見とれていた店主は、あたふたと渡された銃にコルクを詰めた。店主は頬を赤く染め、もう一度銃を構えるレイラさんに熱い視線を送っている。それに、むっとした感情が沸き起こってくる。レイラさんと楽しそうに話をしているデリスを見たときと同じように、胸の奥がうずうずと落ち着かなくなる。それがなんだか嫌で、僕はレイラさんに話しかけた。
「父さん!僕もやりたいです!」
「…………へ?」
目を見開いて僕を見下ろしたレイラさんは、無意識に引き金を引いたのだろう。軽い破裂音で飛んだコルクは、ぬいぐるみのお腹に当たって跳ね返された。
「今、父さんって……」
「……僕の父さんでしょう?」
「う、ん……そうなんだけど……」
「今日はそう呼びたい気分なんです!」
「え、そ、そう……」
「今日は?今日はってことは、今日だけ……?」と首を傾げているレイラさんは、それでもちゃんと玉を補充してくれた。店主は僕とレイラさんが親子だと理解したのか、少し涙目だ。周りでずっとレイラさんを見ていた人たちも、どこか落ち込んだように肩を落としている。レイラさんは僕くらいの子どもの親にしては若い。だから兄弟だと思われていたんだろう。
僕の「父さん」呼びでレイラさんは妻子持ちだと悟って落ち込む彼らの様子に、僕は気分が良くなるのを感じた。でも、正直僕はレイラさんを「父さん」って呼ぶつもりはなかった。それは出会ったときのレイラさんに言った理由とは違う理由で。
「お前は銃を持つのは初めてか?」
「あ、はい」
「よし。じゃあまずこう持って……こっちの手はここ。ここから的を見て、腕がブレないように撃つ」
「っはい……!」
抱きしめられるように銃の持ち方を教えられる。レイラさんの甘い匂いや温かい体温をすぐ側に感じる距離に、胸が高鳴って集中できない。耳に囁かれる声が頭の中に反響して、顔が熱くなっていく。今、僕の顔はさっきの店主以上に赤いだろう。
レイラさんの手に導かれるように、引き金を引く。軽い衝撃が腕から全身に伝わる。飛んで行ったコルクはぬいぐるみの額に当たったが少し後ろに後退させるだけだった。
「む……やっぱり大きいからかな。難しいぞこれは」
「そ、そうですね……」
レイラさんが離れても、僕の頭の中ではさっき全身で感じたレイラさんが何度も蘇る。胸が高鳴りすぎて、少し痛い。これだから、レイラさんを「父さん」と呼びたくないんだ……。
「父さん」には、胸が痛くなるほどの感情を抱いたことはないから。レイラさんのことを「父」として好きなのではないのだから。
「本当ですね!あ、あのお店は何ですか?」
「ん?あれは射的だな。コルクの玉で景品を倒すとそれが貰えるんだ」
「む、難しそう……」
「やってみるか?」
返事をする前に、レイラさんは僕の手を引いて射的の出店に向かって歩き出してしまった。ちらりと見上げた横顔は、どこかわくわくとしている。あまり騒がしいことが好きではないレイラさんがつまらなそうだったらすぐに帰ろうと思っていたけれど、その心配はなさそうだ。退屈どころか、意外なことにとても楽しそうに出店を見て回っている。
僕は、後ろを振り返ってみた。少し離れたところで人混みに紛れ込むようにして着いてきていたデリスが、笑顔を頷くのが見えた。それに僕も頷いた。デリスが笑っているということは、どうやらレイラさんは本当に楽しんでいるようだ。
「カーディ、どれが欲しい?」
「え?」
気が付いたらお店の前に来ていて、既にレイラさんが射的の銃を持っていた。
「俺もそこまで上手いわけじゃないから期待はするなよ?で、どれだ?」
「ええっと……」
レイラさんに促されて、並べられた景品を見る。ゲームは難しそうなのに、景品は子供向けが多く、僕にとってはあまり魅力的なものはない。でも、レイラさんは僕が選ぶのを待っている。焦る気持ちが目を滑らせてしまう。滑った先の視界に、ぬいぐるみが見えた。もふもふで、お腹がぽっこりとした愛らしい動物。それがどこか、出会ったころのレイラさんに重なって見えた。
「あれが欲しいのか?」
「え、あ……えっと」
「お前も男らしくなったと思ったけど、まだまだ子どもなんだな。でも的がでかくて丁度いいか」
「あ、あの……」
慌てて弁解しようとするも、レイラさんはそのぬいぐるみに向かって銃を構えていた。その姿を見て、発しようとした言葉が消えていく。
後ろに軽く撫でつけた髪の先が、ふわっと風に揺れる。真剣な眼差しで銃を構えるその姿は、まるで美しい絵画のようで僕の時間を止めた。いや、僕だけじゃない。お店の店主も、近くを歩いて通り過ぎようとしていた親子も、周りを行きかっていた人たちが全員息を飲んでこの美しい人を見つめていた。
――――パンッ
軽い衝撃音が静けさに満ちた空間に響く。その音で、僕らはみんな眠りから覚めたかのように意識を取り戻した。
「あ、惜しい!」
悔しそうな声を漏らすレイラさんは、いつもよりも幼く見えた。仕事からの解放感なのか、感情が素で現れているみたいだ。
「お兄さん、もう1回!」
「え、あ、はい!」
さっきのレイラさんに見とれていた店主は、あたふたと渡された銃にコルクを詰めた。店主は頬を赤く染め、もう一度銃を構えるレイラさんに熱い視線を送っている。それに、むっとした感情が沸き起こってくる。レイラさんと楽しそうに話をしているデリスを見たときと同じように、胸の奥がうずうずと落ち着かなくなる。それがなんだか嫌で、僕はレイラさんに話しかけた。
「父さん!僕もやりたいです!」
「…………へ?」
目を見開いて僕を見下ろしたレイラさんは、無意識に引き金を引いたのだろう。軽い破裂音で飛んだコルクは、ぬいぐるみのお腹に当たって跳ね返された。
「今、父さんって……」
「……僕の父さんでしょう?」
「う、ん……そうなんだけど……」
「今日はそう呼びたい気分なんです!」
「え、そ、そう……」
「今日は?今日はってことは、今日だけ……?」と首を傾げているレイラさんは、それでもちゃんと玉を補充してくれた。店主は僕とレイラさんが親子だと理解したのか、少し涙目だ。周りでずっとレイラさんを見ていた人たちも、どこか落ち込んだように肩を落としている。レイラさんは僕くらいの子どもの親にしては若い。だから兄弟だと思われていたんだろう。
僕の「父さん」呼びでレイラさんは妻子持ちだと悟って落ち込む彼らの様子に、僕は気分が良くなるのを感じた。でも、正直僕はレイラさんを「父さん」って呼ぶつもりはなかった。それは出会ったときのレイラさんに言った理由とは違う理由で。
「お前は銃を持つのは初めてか?」
「あ、はい」
「よし。じゃあまずこう持って……こっちの手はここ。ここから的を見て、腕がブレないように撃つ」
「っはい……!」
抱きしめられるように銃の持ち方を教えられる。レイラさんの甘い匂いや温かい体温をすぐ側に感じる距離に、胸が高鳴って集中できない。耳に囁かれる声が頭の中に反響して、顔が熱くなっていく。今、僕の顔はさっきの店主以上に赤いだろう。
レイラさんの手に導かれるように、引き金を引く。軽い衝撃が腕から全身に伝わる。飛んで行ったコルクはぬいぐるみの額に当たったが少し後ろに後退させるだけだった。
「む……やっぱり大きいからかな。難しいぞこれは」
「そ、そうですね……」
レイラさんが離れても、僕の頭の中ではさっき全身で感じたレイラさんが何度も蘇る。胸が高鳴りすぎて、少し痛い。これだから、レイラさんを「父さん」と呼びたくないんだ……。
「父さん」には、胸が痛くなるほどの感情を抱いたことはないから。レイラさんのことを「父」として好きなのではないのだから。
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