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前編
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似たような内容の書類とにらめっこし、カーディアスと共に剣の稽古という運動をここなす毎日を送り、更に一年が経過した。カーディアスの成長は目覚ましく、筋肉が付きやすくなったこともあるのか、その体つきは男の子から「男子」になった。このまま成長期が来れば、「男」として見られる日も近いかもしれない。ゲームのカーディアスはちゃんと貴族をしていたレイラに引き取られたため、それはもう貴族らしい貴族だった。しかし今の彼は騎士に負けないくらい男らしくなるんじゃないだろうか。
それはそれで成長が楽しみだが、群がる女の数はより増えるだろうな。個人的には自由恋愛推奨だが、どうしても前世でのトラウマが頭を過ぎる。カーディアスにはあんな思いをしてほしくはない。そこはちゃんと精査しなければな。
目を通していた書類にサインし、肩を回す。流石に二年も同じサインをし続ければ嫌でも慣れる。でも疲労感は半端ない。特に肩こりがヤバい。バキボキ鳴ってるし。
と、扉がノックされた。それに腕を伸ばしてストレッチしながら返事をする。この時間に執務室を訪れるのはデリスくらいだから、気にしない。
「あの……レイラさん」
「ん?カーディか。珍しいな、お前がここに来るなんて」
そっと開けられた扉から、控えめに顔を出したのはカーディアスだった。何故かのぞき込むような体勢のままでいるから、入りなさいと声をかけると慌てて中に入り扉を閉めた。
基本的に執務室に来る用がないカーディアスは、執務室の内装が気になるのかキョロキョロと見渡している。隠し切れない好奇心が年相応で可愛らしい。少し体つきがよく成長しても、まだまだ子どものようだ。
「そんなに見ても特に珍しいものはないぞ」
「え!?あ、いや、本がたくさんあるので驚いただけです……」
「そうか。あとで気になる本があれば持って行ってもいいぞ。まだ難しいかもしれないが」
「僕、ターニャから頭がいいって褒められるので心配はいりません!」
子ども扱いされたことが不服なのか、むっとした顔になった。そういう素直なところが子どもだというのに。まぁ確かに、カーディアスは頭がいい。家庭教師を務めてもらっているターニャもその頭の良さに驚いていた。流石名門ライアー家。ゲームでもよく考えたなと褒めたくなるような卑劣な方法で嫌がらせしていたから頭がいいことは知っていたが、飛び級ができるほどだとは思わなかった。この聡明さを良い方に導いてやらないとな。
「分かった分かった。お前が頭いいのは知ってるから拗ねるな」
「拗ねてません!」
「はいはい。それで、何の用なんだ?今更探検に来たってわけじゃないだろ?」
「あ、そうでした!えっと、これに行きたいんですが……」
「ビレッド地区星祭り?」
カーディアスが差し出してきた一枚の紙。それには明後日の夜にビレッド地区伝統の祭りである星祭りを精霊の湖の周りで行うというお知らせだった。それを見て、そういえばここ数日湖の辺りで何か作業をしている音や声がしていたことを思い出す。ただの工事だろうと思っていたのだが、なるほど、あれは祭りの準備だったのか。
「精霊の湖に住むとされる水の精霊への感謝を捧げるために、3年に一度行われるお祭りなのだそうです。一晩中火を焚いて、湖を照らすのだとか。色んな出店も出るらしいです」
「3年に一度……それで去年はなかったのか。しかし、お前が祭りに興味があるとは意外だな。でも首都のパレードとかとは天と地ほどの差があるから、いくら出店があるとはいえあまり期待しない方がいいと思うぞ」
首都で行われるパレードは凄い。何が凄いかって、全部凄い。店も多けりゃ人も多い。国中から人が集まるために道を歩くのも一苦労だ。悪ガキなんかは屋根の上を移動するらしい。時々裏路地から怒鳴り声が聞こえるのはそれが原因だが、誰も気にしない。街中が道化のように浮かれまくるのが首都のパレードだ。
それに比べてここはドが付くほどの田舎。前世の世界で例えると地方の盆踊りくらいが妥当だろうか。地方の中でもとある街のとある地区でやってる感じかな。子どもの時に参加していた祭りが頭に浮かんだ。あれ、地味にくじ引きの景品だけは豪華だったんだよなぁ。
「首都のパレードを知っているからこそ、この地区のお祭りに興味があるんです。静かなお祭りって想像できなくて。どんな感じなのかなって……駄目ですか?」
照れたように頬を染めてお願いされて断れるやつがいるか?俺には無理だ。そっちの気はないが、そうじゃなくてもカーディアスの頼みを断れる奴はいないだろう。
「別に俺の許可をもらう必要はないんだぞ。行きたいと思ったら行けばいい。一応、ザラドと一緒に行くことが条件になるが。それとあまり遅くならない時間に帰ることも――――」
「あ、あの!」
「ん?」
「僕、レイラさんと一緒に行きたいんです!!」
今度は顔を真っ赤にして叫ばれた。まるで告白しているかのように必死で、何故か俺も顔が熱くなった。デリス、今すぐ冷たい水持ってきて。
それはそれで成長が楽しみだが、群がる女の数はより増えるだろうな。個人的には自由恋愛推奨だが、どうしても前世でのトラウマが頭を過ぎる。カーディアスにはあんな思いをしてほしくはない。そこはちゃんと精査しなければな。
目を通していた書類にサインし、肩を回す。流石に二年も同じサインをし続ければ嫌でも慣れる。でも疲労感は半端ない。特に肩こりがヤバい。バキボキ鳴ってるし。
と、扉がノックされた。それに腕を伸ばしてストレッチしながら返事をする。この時間に執務室を訪れるのはデリスくらいだから、気にしない。
「あの……レイラさん」
「ん?カーディか。珍しいな、お前がここに来るなんて」
そっと開けられた扉から、控えめに顔を出したのはカーディアスだった。何故かのぞき込むような体勢のままでいるから、入りなさいと声をかけると慌てて中に入り扉を閉めた。
基本的に執務室に来る用がないカーディアスは、執務室の内装が気になるのかキョロキョロと見渡している。隠し切れない好奇心が年相応で可愛らしい。少し体つきがよく成長しても、まだまだ子どものようだ。
「そんなに見ても特に珍しいものはないぞ」
「え!?あ、いや、本がたくさんあるので驚いただけです……」
「そうか。あとで気になる本があれば持って行ってもいいぞ。まだ難しいかもしれないが」
「僕、ターニャから頭がいいって褒められるので心配はいりません!」
子ども扱いされたことが不服なのか、むっとした顔になった。そういう素直なところが子どもだというのに。まぁ確かに、カーディアスは頭がいい。家庭教師を務めてもらっているターニャもその頭の良さに驚いていた。流石名門ライアー家。ゲームでもよく考えたなと褒めたくなるような卑劣な方法で嫌がらせしていたから頭がいいことは知っていたが、飛び級ができるほどだとは思わなかった。この聡明さを良い方に導いてやらないとな。
「分かった分かった。お前が頭いいのは知ってるから拗ねるな」
「拗ねてません!」
「はいはい。それで、何の用なんだ?今更探検に来たってわけじゃないだろ?」
「あ、そうでした!えっと、これに行きたいんですが……」
「ビレッド地区星祭り?」
カーディアスが差し出してきた一枚の紙。それには明後日の夜にビレッド地区伝統の祭りである星祭りを精霊の湖の周りで行うというお知らせだった。それを見て、そういえばここ数日湖の辺りで何か作業をしている音や声がしていたことを思い出す。ただの工事だろうと思っていたのだが、なるほど、あれは祭りの準備だったのか。
「精霊の湖に住むとされる水の精霊への感謝を捧げるために、3年に一度行われるお祭りなのだそうです。一晩中火を焚いて、湖を照らすのだとか。色んな出店も出るらしいです」
「3年に一度……それで去年はなかったのか。しかし、お前が祭りに興味があるとは意外だな。でも首都のパレードとかとは天と地ほどの差があるから、いくら出店があるとはいえあまり期待しない方がいいと思うぞ」
首都で行われるパレードは凄い。何が凄いかって、全部凄い。店も多けりゃ人も多い。国中から人が集まるために道を歩くのも一苦労だ。悪ガキなんかは屋根の上を移動するらしい。時々裏路地から怒鳴り声が聞こえるのはそれが原因だが、誰も気にしない。街中が道化のように浮かれまくるのが首都のパレードだ。
それに比べてここはドが付くほどの田舎。前世の世界で例えると地方の盆踊りくらいが妥当だろうか。地方の中でもとある街のとある地区でやってる感じかな。子どもの時に参加していた祭りが頭に浮かんだ。あれ、地味にくじ引きの景品だけは豪華だったんだよなぁ。
「首都のパレードを知っているからこそ、この地区のお祭りに興味があるんです。静かなお祭りって想像できなくて。どんな感じなのかなって……駄目ですか?」
照れたように頬を染めてお願いされて断れるやつがいるか?俺には無理だ。そっちの気はないが、そうじゃなくてもカーディアスの頼みを断れる奴はいないだろう。
「別に俺の許可をもらう必要はないんだぞ。行きたいと思ったら行けばいい。一応、ザラドと一緒に行くことが条件になるが。それとあまり遅くならない時間に帰ることも――――」
「あ、あの!」
「ん?」
「僕、レイラさんと一緒に行きたいんです!!」
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