上 下
3 / 46
前編

2

しおりを挟む
『お帰りなさいませ!』
「うん......」

途中で牛の行列の横断に立ち往生したが、その他は特に何事もなく屋敷に到着した。
初めて見るこの屋敷の管理をしている者たちと、本邸から連れてきた数人が門の側で待機し、俺たちを出迎えてくれた・・・・・・のだが、初めて来たのに「おかえりなさい」とは。返事に困るだろ。

「俺はレイラ・パトリック......あー、パトリック家の次男だった者だ」
「なんですか、その自己紹介は」
「いや、俺名前変わったの忘れてた」

上司がいきなり変な挨拶かましてもざわつかない諸君、流石パトリック家の使用人だ。末端と言ってもいい、この地区の屋敷にまで部下の教育が行き届いているとは。関心するね。

「改めて、今日からこの屋敷の主人となったパトリー家当主のレイラだ。こっちはカーディアス。聞いていると思うが、一応俺の息子だ」
「・・・・・・」
「これからよろしく頼む」

人見知りしているのか、デリスの後ろに隠れるカーディアス。まずは挨拶から教育していくか。

使用人だからって横柄な態度をとってはいけない。いくらお貴族様でも俺たちはホワイトな職場を彼らに提供しなくてはならないんだ。ホワイトな企業はトップの人間が清掃の人にまで挨拶をするって何かで見た。やっぱ挨拶って大事だよな。

「レイラ様、カーディアス様。ようこそお越しくださいました。私はこの屋敷を任されております、ターニャと申します。ずっと、旦那様のお帰りを屋敷と共にお待ち申し上げておりました。パトリー家の主となられたレイラ様の家となられることを、とても名誉に思いますわ。こちらこそ、これからよろしくお願いいたします」

そう挨拶してきたのは、物腰の柔らかそうな女性だ。優しげな微笑みを浮かべながらも、気品を感じる立ち姿に感心する。正直、こんなど田舎にいるべき人材じゃないと思うレベルを感じる。これは、思ったより良物件だったかもしれない。

パトリック家の分家とはいえ、原作と同じようにパトリックと名乗ることは、俺には許されなかった。完全にパトリック家の中から俺を排除したかったようだ。国王陛下にパトリーという名のパトリックの分家貴族として俺は認められているから、今までと社交会での待遇自体は変わらない。変なゴシップが出回るくらいだが、こんなど田舎で社交も何もない。

パトリック家の使用人と名乗りたかっただろうにそれをおくびにも出さないどころか、名前も変えられた分家の本邸になれたことを本当に名誉に思ってくれていることは、ターニャの目から分かる。他の使用人もだ。期待と誇りに顔が輝いている。これまでの本家からの関心の薄さが見て取れるその表情に胸が痛んだ。関心を抱かれないって、辛いよな。

こんな俺が屋敷の主人になってしまって少しだけ罪悪感がわいた。でも安心しろ。こんなデブのニートだけじゃなくて、将来有望な天使も連れて来たからな。

「よろしく、ターニャ。ほら、お前も挨拶しなさい」

未だデリスの影に隠れているカーディアスに声をかけると、おずおずと顔を出した。
その瞬間、使用人たちがカーディアスに堕ちたのを俺は察した。なんとか真面目な顔を崩さないようにしながらも身体を震わせる者。口を両手で押さえて目の中にハートを浮かべ、尊さの衝撃に打たれる者。立ちながら尊さで天に召されようとしている者......e.t.c.。

「・・・・・・よろしく」

一言発して、またデリスの後ろに引っ込んだだけだったが、使用人たちを骨抜きにするには十分だった。

「ターニャ、デリスと一緒にカーディの専属執事を選抜してくれ。剣術もやりたいみたいだから、剣の扱いが上手い者の中からな」
「かしこまりました。厳正な書類審査の上、面接を行い、更に試練を突破した者の中から厳重に選抜いたしますわ」

勇者の就職試験みたいになってるぞ。それ最後まで残れる奴がいたらとりあえず褒美でも与えよう。

「・・・・・・まぁ、ほどほどにな」
「えぇ。全力でやらせていただきますわ」

ガチじゃん。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

処理中です...