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「そういえばこれ、何の本なんですか?」
坂元くんと姫川さんが乗り込んでくる直前に渡された本を開くと、なかなかのイケメンや美女の絵姿が乗っている人物図鑑のようなもののようだ。絵姿の横に名前等のプロフィールが書いてある。
「それはこれまでの勇者様とそのお仲間の一覧が載っている本だよ。一般にも歴代の勇者様ご一行の功績を記した本が出回ってるんだけど、それは特別製。隠された真実も載ってるから、王族の許可が無いと読めないんだ。それはラスティアが借りてきたやつ」
「へぇ……でも、どうしてこれが保険だったんですか?」
「俺が君を襲っていたから助けようとしたんだー、だなんて言い訳されたらめんどくさいなぁって思ったんだよ。勇者様じゃないけど、そう思われる可能性も考えてたからね。でも、その本があれば君に危害を加えようとする奴なんてこの国にはいないんだよ。それは国の財産になっている物だから、例えどんな状況でもその本を傷つければ重い処罰が下される」
「つまり、僕よりも価値がある本ということですね」
「そういうこと。流石ナチちゃん。頭良い~」
褒められたところで、僕の心情は複雑だ。一冊の本の方が僕よりも価値があるなんて言われて微妙な気分。
「けど、結局言われちゃいましたね」
「まさか勇者様が出てきて言っちゃうとは思わなかったんだよ。君も知ってると思うけど、勇者様はラスティアと同じくらい外面が良い。勇者という肩書もあって、その言葉の影響力は大きい。もしかしたら、明日には君をラスティアと取り合う俺っていう三角関係の噂が広まってるかもしれないね。けど、君がその本を持っていることをラスティアは見ていたから、その辺りも俺の代わりに指摘してくれてると助かるんだけどなぁ」
つまり、神尾くんが現れてあの発言をしてしまった時点でこの本の「保険」という役割は消えてしまったわけだ。本当に、どうして彼は来てしまったのだろうか。
「でも、この本にそれだけの価値があるだなんてとても思えませんけど……」
「さっきも言ったけど、これには世間には知られていない真実がたくさん書かれている。例えば、旅の道中に何が起こったのかも。正義の犠牲となった者は、本当は仲間割れで殺されたのだ……とかね」
穏やかではない言葉にシャールさんの顔を見るが、彼はただにんまりと目を細めて僕を見ていた。
「……どうしてそんなことまで書かれているんですか?」
「女神の書という本がある。それには、この世界にやってきた者の全てが自動で記載されるんだ。女神の祝福を調べただろ? その時に出された板に血を垂らして登録することで、その者の全てが女神の書に記録されるようになるらしい。日常生活の全てが記録されるってことじゃないが、どこの村に滞在したとかは記載されるらしい。そして、旅を終えれば書き連ねられた内容は自動的に綺麗に纏められる」
「王族は、その書で行動を監視してるってことですね?」
「あぁ。時々、勇者という肩書を利用して好き勝手に国を荒らす者が現れるんだ。その行動を抑止するために使われている」
「そんな重要な物をこんな所に持ってきていいんですか?」
「それは女神の書のコピー。自動で記載する能力は無い。これまでの内容が模写されているだけだ。本物の女神の書は王宮じゃなく、神殿にある。勇者が召喚されれば、一時的に国王陛下の自室の隠し金庫に仕舞われるという話だ」
本物が王宮じゃなくて神殿にあるっていうのは、この国では女神の持つ権威の方が大きいからなのかもしれないな。
それにしても女神の書か……。なんか、ゲームでよくあるレポート機能みたいだな。
「それでも、これはなかなか持ち出すのは難しい物に違いはない。勇者達本人には秘匿される物だからだ。誰だって、監視されているだなんて知りたくないだろ?」
「まぁ、確かに。それならどうしてこれの持ち出し許可が下りたんでしょうか。ラスが申請を出したのなら、僕も見るって推測できるのに」
「俺は、君が勇者一行の一人という立場から離れたことが認められたから許可が下りたんだと思うけどね」
「え?」
俺としてはまだ不服だけど、と前置きして、シャールさんはしかめっ面で足を組み替えた。
「王家も君をモーリス卿の婚約者として認めたってことさ。近いうちにこの国の人間としての籍がちゃんと用意されるはずだよ。そして国王陛下から正式に告知されれば、誰もその決定には逆らえない。君への嫌がらせも止まるはずだ。ここまで迅速に対応したとなると、確実にラスティアが国王陛下に催促したに違いないね。まったく、彼にはまだまだ働いてもらうつもりだったのに」
「ラスが?」
「君を早く自分のものにしたかったんだろうさ。ただでさえ無い逃げ道を塞ぐなんて、俺は引いちゃうけど……君は好きそうだね」
「もっとラスのことが好きになりました」
「だと思った」
今日の夜は、色々と聞きたいことがある。僕を手に入れるためにしたことを、全部知りたい。ラスの口から聞きたい。
僕の中で、ラスへの愛情が溢れ出して止まらなかった。そして同時に、それ以上の愛で満たして欲しいとも強く思った。ちょっと我が儘かもしれないなぁ。
坂元くんと姫川さんが乗り込んでくる直前に渡された本を開くと、なかなかのイケメンや美女の絵姿が乗っている人物図鑑のようなもののようだ。絵姿の横に名前等のプロフィールが書いてある。
「それはこれまでの勇者様とそのお仲間の一覧が載っている本だよ。一般にも歴代の勇者様ご一行の功績を記した本が出回ってるんだけど、それは特別製。隠された真実も載ってるから、王族の許可が無いと読めないんだ。それはラスティアが借りてきたやつ」
「へぇ……でも、どうしてこれが保険だったんですか?」
「俺が君を襲っていたから助けようとしたんだー、だなんて言い訳されたらめんどくさいなぁって思ったんだよ。勇者様じゃないけど、そう思われる可能性も考えてたからね。でも、その本があれば君に危害を加えようとする奴なんてこの国にはいないんだよ。それは国の財産になっている物だから、例えどんな状況でもその本を傷つければ重い処罰が下される」
「つまり、僕よりも価値がある本ということですね」
「そういうこと。流石ナチちゃん。頭良い~」
褒められたところで、僕の心情は複雑だ。一冊の本の方が僕よりも価値があるなんて言われて微妙な気分。
「けど、結局言われちゃいましたね」
「まさか勇者様が出てきて言っちゃうとは思わなかったんだよ。君も知ってると思うけど、勇者様はラスティアと同じくらい外面が良い。勇者という肩書もあって、その言葉の影響力は大きい。もしかしたら、明日には君をラスティアと取り合う俺っていう三角関係の噂が広まってるかもしれないね。けど、君がその本を持っていることをラスティアは見ていたから、その辺りも俺の代わりに指摘してくれてると助かるんだけどなぁ」
つまり、神尾くんが現れてあの発言をしてしまった時点でこの本の「保険」という役割は消えてしまったわけだ。本当に、どうして彼は来てしまったのだろうか。
「でも、この本にそれだけの価値があるだなんてとても思えませんけど……」
「さっきも言ったけど、これには世間には知られていない真実がたくさん書かれている。例えば、旅の道中に何が起こったのかも。正義の犠牲となった者は、本当は仲間割れで殺されたのだ……とかね」
穏やかではない言葉にシャールさんの顔を見るが、彼はただにんまりと目を細めて僕を見ていた。
「……どうしてそんなことまで書かれているんですか?」
「女神の書という本がある。それには、この世界にやってきた者の全てが自動で記載されるんだ。女神の祝福を調べただろ? その時に出された板に血を垂らして登録することで、その者の全てが女神の書に記録されるようになるらしい。日常生活の全てが記録されるってことじゃないが、どこの村に滞在したとかは記載されるらしい。そして、旅を終えれば書き連ねられた内容は自動的に綺麗に纏められる」
「王族は、その書で行動を監視してるってことですね?」
「あぁ。時々、勇者という肩書を利用して好き勝手に国を荒らす者が現れるんだ。その行動を抑止するために使われている」
「そんな重要な物をこんな所に持ってきていいんですか?」
「それは女神の書のコピー。自動で記載する能力は無い。これまでの内容が模写されているだけだ。本物の女神の書は王宮じゃなく、神殿にある。勇者が召喚されれば、一時的に国王陛下の自室の隠し金庫に仕舞われるという話だ」
本物が王宮じゃなくて神殿にあるっていうのは、この国では女神の持つ権威の方が大きいからなのかもしれないな。
それにしても女神の書か……。なんか、ゲームでよくあるレポート機能みたいだな。
「それでも、これはなかなか持ち出すのは難しい物に違いはない。勇者達本人には秘匿される物だからだ。誰だって、監視されているだなんて知りたくないだろ?」
「まぁ、確かに。それならどうしてこれの持ち出し許可が下りたんでしょうか。ラスが申請を出したのなら、僕も見るって推測できるのに」
「俺は、君が勇者一行の一人という立場から離れたことが認められたから許可が下りたんだと思うけどね」
「え?」
俺としてはまだ不服だけど、と前置きして、シャールさんはしかめっ面で足を組み替えた。
「王家も君をモーリス卿の婚約者として認めたってことさ。近いうちにこの国の人間としての籍がちゃんと用意されるはずだよ。そして国王陛下から正式に告知されれば、誰もその決定には逆らえない。君への嫌がらせも止まるはずだ。ここまで迅速に対応したとなると、確実にラスティアが国王陛下に催促したに違いないね。まったく、彼にはまだまだ働いてもらうつもりだったのに」
「ラスが?」
「君を早く自分のものにしたかったんだろうさ。ただでさえ無い逃げ道を塞ぐなんて、俺は引いちゃうけど……君は好きそうだね」
「もっとラスのことが好きになりました」
「だと思った」
今日の夜は、色々と聞きたいことがある。僕を手に入れるためにしたことを、全部知りたい。ラスの口から聞きたい。
僕の中で、ラスへの愛情が溢れ出して止まらなかった。そして同時に、それ以上の愛で満たして欲しいとも強く思った。ちょっと我が儘かもしれないなぁ。
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