不憫少年は異世界で愛に溺れる

こざかな

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24 SIDE 神尾浩紀

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生まれた時から、俺には全てが与えられていた。欲しいと思う間もなく、手に入る。そういう家に俺は生まれた。
神尾家はそこそこ名の知れた名家だ。父も母も、政略結婚だった。しかし互いに容姿も頭も良かったから良い物件くらいには思っていて、不仲というわけではなかった。母は父と結婚したからといってもエリートキャリアウーマンになるという目標を捨てるつもりはさらさらなく、家の決まりで後継ぎである俺を産んだ後は俺を雇ったベビーシッターや家政婦に託し、すぐにキャリアの道を邁進した。親戚達は色々と言ったらしいけど、父は何も言わなかった。別に母を愛しているわけではなかったからだと俺は思っている。ビジネス的な関係。それが両親の関係だったのかもしれない。

だからこそ、俺は「愛」というものだけは手に入れられなかった。

成長するに従って、俺の周りには多くの人間が集まった。それこそ夜の街灯に群がる虫のように、大人も子供も性別も関係なく。最初は単純に俺の容姿に惹かれたのだろう子供も、いつしか大人の影響を受けて俺を「神尾」として見るようになった。「俺」という個人を見る存在はいなくなった。

「神尾くん、私を彼女にしてください!」

中学で、一人の女子と付き合った。それまでも告白はされていたが、そんな気分にはなれずに全て断っていたが、その女子は学校中にファンクラブという部類の人間がいる存在だった。ちょうど告白を断り続けるのも面倒に思ってきていたし、フり続けていたことで面倒なやっかみを言われることが多くなっていた。ここで断れば、更に面倒なことになる。それを回避するために付き合った。あとは単純に、興味だった。周りの男子達が色気づいていることについて、知れるかもしれない。性欲、というのは「愛」に直結するのだろうか――。

結局、その女子とは長く続かなかった。やることはやったし、相手が望む物は全て与えた。けれど、恋人という関係は酷くつまらなかった。

好き。愛してる。そう言いつつキスをする。最初は彼女にもちゃんと「愛」があったのかもしれない。だけど俺が望まれるままに何かを買い与える度に、段々と「愛」が消えていったのを感じた。やっと感じられた「愛」は、あまりにも面白みがないものだった。これが、俺が手に入れられなかったものなのかと失望したほどだ。

それからは取り巻きも恋人もセフレも、来るもの拒まずになった。ただ、気に入らなければ二度と俺の目に触れないようにした。そうして、段々と俺に近付いて来る奴らも減っていった。

「あいつ、家族に捨てられてるらしいぜ」

高校三年。卒業まで一年。俺は来年から父が決めた海外の大学に入学することが決まっていた。周囲が受験に必死になるなか、俺だけが今までと変わらない怠惰な日々を送っている。そんな時、坂元が一人の男子を見て笑いながら言った。張りが失われた制服を着て、髪もボサボサな小柄な生徒。それが深山那智だった。

「捨てられてるってどういう意味?」
「親と妹と一緒に住んではいるが、存在を無視されてるんだとよ。目に入っても虐められて家族の一員とは認められてないらしい」
「ふーん。でも虐めたくなる気持ちは分かるかも。陰気だもん。ね? 浩紀」
「……そうだね」

姫川の問いに適当に返事をしながらも、俺は足早に図書館に向かっていく那智を眺めていた。俺と一緒で、「家族愛」を知らない人物。少し興味が湧いた。同じ、家族からの愛を知らない彼ともし恋人になったとしたら、彼は俺に愛を与えることはできるのだろうかと。だから俺は坂元達にはゲームだと言って、那智に告白したのだ。俺に告白されて、断れるはずがない。俺には常に周囲の目がある。坂元達が他の生徒には根回しをしているとしても、何も知らない那智が俺の告白を断ったとしたら非難の的にされるのは那智だ。それを那智も分かっていた。だから那智が頷くことも、分かり切っていたことだった。

ただ、那智の無表情ながらも強い光を放つ眼だけが、想定外だった。
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