23 / 29
23
しおりを挟む
「・・・・・・神尾くん、今の発言を撤回してください。弁明の機会。これは、この場で僕だけが君に与えられるものです」
「・・・・・・・・・・・・」
「聡明な君のことです。わざわざ言わなくても、僕の言葉の意味は分かると思います。これを手切れとして受け取り、今後僕には関わらないでください。それが僕の望みです」
神尾くんは僕を見つめ、僕も彼を見つめ返した。彼の中にある感情と僕の感情は、まったく違うことだろう。そもそも僕は、何故彼がこれほど僕に関わってこようとするのか分からない。
先程の彼の発言からして、単純に姫川さんと坂元くんの後始末をしに来たことが目的ではないことは分かっている。何故、僕に執着するのか。女神に与えられた力の情報はまだ洩れていないだろうから、それが目的ではない。僕に未練があるという線はありえない。そうだとしたら僕にした仕打ちに説明がつかないから。僕はDVが愛の形だなんて認めない。
でも先程の彼の表情は・・・・・・いや、考えないでおこう。
「・・・・・・浩紀」
「・・・・・・先程の発言は撤回します。僕らに色々と親切にしてくださっている皆様にも、失礼な発言でした。申し訳ございません」
思わず溢したような姫川さんの呟きをきっかけに、神尾くんはラスに頭を下げ、謝罪した。彼は受け入れたんだ。僕からの情けを。僕の方が彼よりも地位が高いという現状を。その事実は僕の心にさざなみのように浸透した。あぁ、終わった。ぽちゃん・・・・・・と、池に落ちた小石のように、その思いだけが静かになった心に降ってきた。
ようやく僕と彼の関係が清算されたのだと、僕はそう確信した。むしろ終わってくれないと困る。僕の元彼の後頭部を真顔で見ている今彼は、いつまでも僕を過去に縛り付ける存在を許しはしないのだから。嫉妬深いのは大歓迎だけど、それで勇者様を殺されてはかなわない。
「ラス、彼の謝罪を受け入れるかは貴方に委ねます。ですが今後のために最善の判断をしてくれると、僕は期待しています」
「・・・・・・はぁ。勇者殿、貴方の謝罪を受け入れます。貴方の言っていたことは全て間違っているとは言えない。ですが、私と貴方達の間にできた溝は埋めることができませんよ」
「・・・・・・はい。謝罪を受け入れていただき、ありがとうございます」
僕の言葉に込められた意味に、ラスはかなり葛藤しただろう。僕の婚約者としての矜持とモーリス家の者としての誇り、そして王家に忠誠を誓う騎士としての忠義。そのどれもに僕の声が勝ったのだと断言させるラスの返答に、僕は胸の奥がじんわりと温かくなった。後でいっぱい褒めてあげなきゃね。
けれど、ようやく頭を上げる事を許された神尾くんが一瞬浮かべた表情に、僕は胸騒ぎを覚えた。彼は、まだ諦めていない。そう思わずにはいられない、憎しみが漏れた一瞬の表情。すぐに隠されたそれに気づいたのは僕だけだった。ラスは青褪めながら立っていた姫川さんと坂元くんへとターゲットを移していたし、シャールさんも気づいた様子はなかった。
「そちらのお二人は団長室への無断侵入と、ナチがいることが分かってる私の私室に無理矢理侵入しようとした件については見逃すことはできません。聴取を受けていただきます。勇者殿一行であることから特例として、重い懲罰がつかないことに感謝してください」
「は、はい・・・・・・」
「彼らについては、俺からもキツく言っておきます。・・・・・・すまなかったな、那智」
「いえ・・・・・・ですが、僕とシャールさんの関係が疑われたことは納得がいきません。僕の愛する人は、ラスティア・ラ・モーリスただ一人です。それだけは、分かってください」
「・・・・・・あぁ、理解したよ」
ひっそりと笑った神尾くんだけど、その目は静かすぎる程凪いでいた。感情を隠している。おそらく、爆発しそうな程の激情を。
「・・・・・・一応、言っておきますが、私は貴方達がナチにしていたことを概ね知っています。彼から聞いたのではなく、召喚された時の状況と、彼の身体にある傷から推測したことです。それも、シャールからの証言で確信に変わるでしょうが」
「っ!!」
姫川さんと坂元くんは理解できただろうか。元の世界でも教師相手に隠していた本性を、最悪の状況で暴かれるということを。
真っ青に血の気の引いた表情の二人が、外で野次馬していた騎士に連れていかれる後ろ姿を見て、僕は緩みそうになる口元を抑えるために奥歯を噛み締めた。
あー、すっきりした!
「・・・・・・・・・・・・」
「聡明な君のことです。わざわざ言わなくても、僕の言葉の意味は分かると思います。これを手切れとして受け取り、今後僕には関わらないでください。それが僕の望みです」
神尾くんは僕を見つめ、僕も彼を見つめ返した。彼の中にある感情と僕の感情は、まったく違うことだろう。そもそも僕は、何故彼がこれほど僕に関わってこようとするのか分からない。
先程の彼の発言からして、単純に姫川さんと坂元くんの後始末をしに来たことが目的ではないことは分かっている。何故、僕に執着するのか。女神に与えられた力の情報はまだ洩れていないだろうから、それが目的ではない。僕に未練があるという線はありえない。そうだとしたら僕にした仕打ちに説明がつかないから。僕はDVが愛の形だなんて認めない。
でも先程の彼の表情は・・・・・・いや、考えないでおこう。
「・・・・・・浩紀」
「・・・・・・先程の発言は撤回します。僕らに色々と親切にしてくださっている皆様にも、失礼な発言でした。申し訳ございません」
思わず溢したような姫川さんの呟きをきっかけに、神尾くんはラスに頭を下げ、謝罪した。彼は受け入れたんだ。僕からの情けを。僕の方が彼よりも地位が高いという現状を。その事実は僕の心にさざなみのように浸透した。あぁ、終わった。ぽちゃん・・・・・・と、池に落ちた小石のように、その思いだけが静かになった心に降ってきた。
ようやく僕と彼の関係が清算されたのだと、僕はそう確信した。むしろ終わってくれないと困る。僕の元彼の後頭部を真顔で見ている今彼は、いつまでも僕を過去に縛り付ける存在を許しはしないのだから。嫉妬深いのは大歓迎だけど、それで勇者様を殺されてはかなわない。
「ラス、彼の謝罪を受け入れるかは貴方に委ねます。ですが今後のために最善の判断をしてくれると、僕は期待しています」
「・・・・・・はぁ。勇者殿、貴方の謝罪を受け入れます。貴方の言っていたことは全て間違っているとは言えない。ですが、私と貴方達の間にできた溝は埋めることができませんよ」
「・・・・・・はい。謝罪を受け入れていただき、ありがとうございます」
僕の言葉に込められた意味に、ラスはかなり葛藤しただろう。僕の婚約者としての矜持とモーリス家の者としての誇り、そして王家に忠誠を誓う騎士としての忠義。そのどれもに僕の声が勝ったのだと断言させるラスの返答に、僕は胸の奥がじんわりと温かくなった。後でいっぱい褒めてあげなきゃね。
けれど、ようやく頭を上げる事を許された神尾くんが一瞬浮かべた表情に、僕は胸騒ぎを覚えた。彼は、まだ諦めていない。そう思わずにはいられない、憎しみが漏れた一瞬の表情。すぐに隠されたそれに気づいたのは僕だけだった。ラスは青褪めながら立っていた姫川さんと坂元くんへとターゲットを移していたし、シャールさんも気づいた様子はなかった。
「そちらのお二人は団長室への無断侵入と、ナチがいることが分かってる私の私室に無理矢理侵入しようとした件については見逃すことはできません。聴取を受けていただきます。勇者殿一行であることから特例として、重い懲罰がつかないことに感謝してください」
「は、はい・・・・・・」
「彼らについては、俺からもキツく言っておきます。・・・・・・すまなかったな、那智」
「いえ・・・・・・ですが、僕とシャールさんの関係が疑われたことは納得がいきません。僕の愛する人は、ラスティア・ラ・モーリスただ一人です。それだけは、分かってください」
「・・・・・・あぁ、理解したよ」
ひっそりと笑った神尾くんだけど、その目は静かすぎる程凪いでいた。感情を隠している。おそらく、爆発しそうな程の激情を。
「・・・・・・一応、言っておきますが、私は貴方達がナチにしていたことを概ね知っています。彼から聞いたのではなく、召喚された時の状況と、彼の身体にある傷から推測したことです。それも、シャールからの証言で確信に変わるでしょうが」
「っ!!」
姫川さんと坂元くんは理解できただろうか。元の世界でも教師相手に隠していた本性を、最悪の状況で暴かれるということを。
真っ青に血の気の引いた表情の二人が、外で野次馬していた騎士に連れていかれる後ろ姿を見て、僕は緩みそうになる口元を抑えるために奥歯を噛み締めた。
あー、すっきりした!
77
お気に入りに追加
2,794
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる