不憫少年は異世界で愛に溺れる

こざかな

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「・・・・・・神尾くん、今の発言を撤回してください。弁明の機会。これは、この場で僕だけが君に与えられるものです」
「・・・・・・・・・・・・」
「聡明な君のことです。わざわざ言わなくても、僕の言葉の意味は分かると思います。これを手切れとして受け取り、今後僕には関わらないでください。それが僕の望みです」

神尾くんは僕を見つめ、僕も彼を見つめ返した。彼の中にある感情と僕の感情は、まったく違うことだろう。そもそも僕は、何故彼がこれほど僕に関わってこようとするのか分からない。
先程の彼の発言からして、単純に姫川さんと坂元くんの後始末をしに来たことが目的ではないことは分かっている。何故、僕に執着するのか。女神に与えられた力の情報はまだ洩れていないだろうから、それが目的ではない。僕に未練があるという線はありえない。そうだとしたら僕にした仕打ちに説明がつかないから。僕はDVが愛の形だなんて認めない。
でも先程の彼の表情は・・・・・・いや、考えないでおこう。

「・・・・・・浩紀」
「・・・・・・先程の発言は撤回します。僕らに色々と親切にしてくださっている皆様にも、失礼な発言でした。申し訳ございません」

思わず溢したような姫川さんの呟きをきっかけに、神尾くんはラスに頭を下げ、謝罪した。彼は受け入れたんだ。僕からの情けを。僕の方が彼よりも地位が高いという現状を。その事実は僕の心にさざなみのように浸透した。あぁ、終わった。ぽちゃん・・・・・・と、池に落ちた小石のように、その思いだけが静かになった心に降ってきた。
ようやく僕と彼の関係が清算されたのだと、僕はそう確信した。むしろ終わってくれないと困る。僕の元彼の後頭部を真顔で見ている今彼は、いつまでも僕を過去に縛り付ける存在を許しはしないのだから。嫉妬深いのは大歓迎だけど、それで勇者様を殺されてはかなわない。

「ラス、彼の謝罪を受け入れるかは貴方に委ねます。ですが今後のために最善の判断をしてくれると、僕は期待しています」
「・・・・・・はぁ。勇者殿、貴方の謝罪を受け入れます。貴方の言っていたことは全て間違っているとは言えない。ですが、私と貴方達の間にできた溝は埋めることができませんよ」
「・・・・・・はい。謝罪を受け入れていただき、ありがとうございます」

僕の言葉に込められた意味に、ラスはかなり葛藤しただろう。僕の婚約者としての矜持とモーリス家の者としての誇り、そして王家に忠誠を誓う騎士としての忠義。そのどれもに僕の声が勝ったのだと断言させるラスの返答に、僕は胸の奥がじんわりと温かくなった。後でいっぱい褒めてあげなきゃね。
けれど、ようやく頭を上げる事を許された神尾くんが一瞬浮かべた表情に、僕は胸騒ぎを覚えた。彼は、まだ諦めていない。そう思わずにはいられない、憎しみが漏れた一瞬の表情。すぐに隠されたそれに気づいたのは僕だけだった。ラスは青褪めながら立っていた姫川さんと坂元くんへとターゲットを移していたし、シャールさんも気づいた様子はなかった。

「そちらのお二人は団長室への無断侵入と、ナチがいることが分かってる私の私室に無理矢理侵入しようとした件については見逃すことはできません。聴取を受けていただきます。勇者殿一行であることから特例として、重い懲罰がつかないことに感謝してください」
「は、はい・・・・・・」
「彼らについては、俺からもキツく言っておきます。・・・・・・すまなかったな、那智」
「いえ・・・・・・ですが、僕とシャールさんの関係が疑われたことは納得がいきません。僕の愛する人は、ラスティア・ラ・モーリスただ一人です。それだけは、分かってください」
「・・・・・・あぁ、理解したよ」

ひっそりと笑った神尾くんだけど、その目は静かすぎる程凪いでいた。感情を隠している。おそらく、爆発しそうな程の激情を。

「・・・・・・一応、言っておきますが、私は貴方達がナチにしていたことを概ね知っています。彼から聞いたのではなく、召喚された時の状況と、彼の身体にある傷から推測したことです。それも、シャールからの証言で確信に変わるでしょうが」
「っ!!」

姫川さんと坂元くんは理解できただろうか。元の世界でも教師相手に隠していた本性を、最悪の状況で暴かれるということを。
真っ青に血の気の引いた表情の二人が、外で野次馬していた騎士に連れていかれる後ろ姿を見て、僕は緩みそうになる口元を抑えるために奥歯を噛み締めた。

あー、すっきりした!
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