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「副団長さん……」
「どうして貴方がここに……!」
「その質問は今必要ですか? それに、貴方達は質問できる立場ではありません。この騎士団の団長室は、急を要する際以外は許可無しに立ち入ることはできません。それは勇者一行の一員である貴方達にも言えること。だというのに、無断で立ち入っただけではなくこのような暴挙まで犯すとは……」
シャールさんが投げかける言葉によって、坂元くんと姫川さんの顔色はどんどん悪くなっていく。視線がうろうろと彷徨い、この状況を打開しようとしている焦りが丸わかりだ。何を言おうと、扉を壊したことの言い訳はしようがない。それが分かっているからこその焦りだろう。
「それで、貴方達は何のためにこんなことをしでかしたのですか? この部屋にナチくんがいることを知ったうえでの行動だということは分かっています。彼は我らが騎士団長、ラスティア・ラ・モーリス卿の婚約者。貴方達は、もう彼と同じ立場ではないということをどうやら理解されていらっしゃらなかったようですね」
「わ、私達はただっ、彼と話をしようとしただけで……!」
「貴方達の世界では、部屋に扉を蹴り壊して入るのが常識だったのですか? ナチくん?」
「そんな野蛮な常識、あるわけないに決まっています」
「ではやはり、貴方達二人の行動は常識外れということになりますね。これはもちろん、処罰の対象となります。一応勇者一行であることを考慮されるでしょうが、自由行動は制限されることは覚悟してください」
「そんな……っ」
「本来であれば、ナチくんの護衛である私に斬り殺されていてもしょうがない状況なのですよ。むしろその程度で済むのは幸運だと思いなさい」
シャールさんの言葉に、坂元くんと姫川さんは唇を噛む。万事休す。
「護衛と言いますが、貴方は本当に彼の護衛なのでしょうか」
「……神尾くん」
「浩紀⁉」
二人に仕返しをできたと思ったのも束の間、想定外の人物が現れた。訓練中のはずの勇者様。一番注目される立場である彼だ。ラスもいる訓練を途中で抜け出すことはできないと思っていたのだけれど……。坂元くんと姫川さんの様子から見て、二人にとっても想定外の乱入のようだ。これは……どうしようかな。
僕が悩んでいる間にも、冷静なシャールさんが会話を続けている。
「勇者様、先ほどのお言葉はどういう意味ですか?」
「モーリスさんは、かなり嫉妬深いということは知っています。この宿舎に来てから、那智はほとんど団長室から出ていない。いくら大切だからといっても軟禁レベルだ。ですから、その彼が那智とシャールさん、信頼しているとはいえ他の男を二人きりにする可能性は低い。ですから俺はこの状況を見て、シャールさんと那智が密会していると思ったのですが……」
あー。やっぱり頭が良いな。この部屋で騒ぎが起きていることは、宿舎内にいる団員達も気が付き始めている頃だ。もしかしたら、何人かは廊下にいるかもしれない。そこで、団長の婚約者と副団長が密会などというスキャンダルを零せば、火種はつく。それが間違いであるとラスの口から言われても、僕とシャールさんが二人でいれば嫌でも「もしかしたら」と疑う気持ちが過ぎるだろう。
ほんと、想定外だ。
「残念ですが、私がナチくんに手を出せば文字通り死にます。そんなことで人生終わりにしたくありませんので、その疑いはありえないことです。それに、その話はこのお二人の所業とは関係がありません」
「確かに関係はありません。ですが、シャールさんが那智を襲っていたとすれば、彼らは那智を助けようとしたとも考えられますよね」
「……どこまでも、私を悪者にしたいようですね」
「まさか。俺は勇者として、彼らの罪が本当なのかを確かめる必要があります。それに那智は俺の元恋人です。一度は付き合っていた彼のことを心配してもいいでしょう」
「……神尾くん。貴方の口から僕を心配するという言葉が出たことに僕は驚きです。しかし、これも今は関係のないことでしょうね。端的に言うと、シャールさんはちゃんとした僕の護衛です。そして僕を襲おうとしたのは彼らの方だ。それ以上シャールさんを貶めるようなことを言うのは許さない」
僕が何かを発言したところで、神尾くんに勝てないことは分かっている。だけど僕には最強の後ろ盾があるのだから、少しくらい偉そうになってもいいだろう。
「ラス、この状況を貴方はどう始末しますか?」
神尾くんの後ろに、いつもの笑みを消したラスが立っていた。
「どうして貴方がここに……!」
「その質問は今必要ですか? それに、貴方達は質問できる立場ではありません。この騎士団の団長室は、急を要する際以外は許可無しに立ち入ることはできません。それは勇者一行の一員である貴方達にも言えること。だというのに、無断で立ち入っただけではなくこのような暴挙まで犯すとは……」
シャールさんが投げかける言葉によって、坂元くんと姫川さんの顔色はどんどん悪くなっていく。視線がうろうろと彷徨い、この状況を打開しようとしている焦りが丸わかりだ。何を言おうと、扉を壊したことの言い訳はしようがない。それが分かっているからこその焦りだろう。
「それで、貴方達は何のためにこんなことをしでかしたのですか? この部屋にナチくんがいることを知ったうえでの行動だということは分かっています。彼は我らが騎士団長、ラスティア・ラ・モーリス卿の婚約者。貴方達は、もう彼と同じ立場ではないということをどうやら理解されていらっしゃらなかったようですね」
「わ、私達はただっ、彼と話をしようとしただけで……!」
「貴方達の世界では、部屋に扉を蹴り壊して入るのが常識だったのですか? ナチくん?」
「そんな野蛮な常識、あるわけないに決まっています」
「ではやはり、貴方達二人の行動は常識外れということになりますね。これはもちろん、処罰の対象となります。一応勇者一行であることを考慮されるでしょうが、自由行動は制限されることは覚悟してください」
「そんな……っ」
「本来であれば、ナチくんの護衛である私に斬り殺されていてもしょうがない状況なのですよ。むしろその程度で済むのは幸運だと思いなさい」
シャールさんの言葉に、坂元くんと姫川さんは唇を噛む。万事休す。
「護衛と言いますが、貴方は本当に彼の護衛なのでしょうか」
「……神尾くん」
「浩紀⁉」
二人に仕返しをできたと思ったのも束の間、想定外の人物が現れた。訓練中のはずの勇者様。一番注目される立場である彼だ。ラスもいる訓練を途中で抜け出すことはできないと思っていたのだけれど……。坂元くんと姫川さんの様子から見て、二人にとっても想定外の乱入のようだ。これは……どうしようかな。
僕が悩んでいる間にも、冷静なシャールさんが会話を続けている。
「勇者様、先ほどのお言葉はどういう意味ですか?」
「モーリスさんは、かなり嫉妬深いということは知っています。この宿舎に来てから、那智はほとんど団長室から出ていない。いくら大切だからといっても軟禁レベルだ。ですから、その彼が那智とシャールさん、信頼しているとはいえ他の男を二人きりにする可能性は低い。ですから俺はこの状況を見て、シャールさんと那智が密会していると思ったのですが……」
あー。やっぱり頭が良いな。この部屋で騒ぎが起きていることは、宿舎内にいる団員達も気が付き始めている頃だ。もしかしたら、何人かは廊下にいるかもしれない。そこで、団長の婚約者と副団長が密会などというスキャンダルを零せば、火種はつく。それが間違いであるとラスの口から言われても、僕とシャールさんが二人でいれば嫌でも「もしかしたら」と疑う気持ちが過ぎるだろう。
ほんと、想定外だ。
「残念ですが、私がナチくんに手を出せば文字通り死にます。そんなことで人生終わりにしたくありませんので、その疑いはありえないことです。それに、その話はこのお二人の所業とは関係がありません」
「確かに関係はありません。ですが、シャールさんが那智を襲っていたとすれば、彼らは那智を助けようとしたとも考えられますよね」
「……どこまでも、私を悪者にしたいようですね」
「まさか。俺は勇者として、彼らの罪が本当なのかを確かめる必要があります。それに那智は俺の元恋人です。一度は付き合っていた彼のことを心配してもいいでしょう」
「……神尾くん。貴方の口から僕を心配するという言葉が出たことに僕は驚きです。しかし、これも今は関係のないことでしょうね。端的に言うと、シャールさんはちゃんとした僕の護衛です。そして僕を襲おうとしたのは彼らの方だ。それ以上シャールさんを貶めるようなことを言うのは許さない」
僕が何かを発言したところで、神尾くんに勝てないことは分かっている。だけど僕には最強の後ろ盾があるのだから、少しくらい偉そうになってもいいだろう。
「ラス、この状況を貴方はどう始末しますか?」
神尾くんの後ろに、いつもの笑みを消したラスが立っていた。
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