不憫少年は異世界で愛に溺れる

こざかな

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「いいか? ナチに指一本触れてみろ。その指切り飛ばして二度と剣が持てないようにしてやるからな」
「なんで護衛のはずの俺が悪役みたいな扱いされないといけないわけ?」

団長室のソファに座って、紅茶を飲んでいるシャールさんの目は半眼だ。急に呼び出されたうえに、こんな態度のなっていないお願いをされては断れても仕方ない。

「すいません、シャールさん。昨日からずっと不貞腐れてまして」
「不貞腐れてるなんて可愛いものじゃないでしょ……ほんと君たち、目が節穴だよね」

僕には今のラスは機嫌が悪い猫みたいだけど、シャールさんからすれば猛獣って感じらしい。猛獣も懐けば可愛いんだけどなぁ。

「そんなに嫌なら俺じゃなくて他の奴に頼めばいいだろ」
「他の奴はもっと嫌に決まってるだろ」
「面倒くさい奴だな」

ため息をついたシャールさんは、渋々ながら僕の護衛を引き受けてくれた。第一騎士団の副団長でラスの次に権力がある彼が僕の護衛兼証人になってくれるなら、これ以上良い助っ人はいない。

「それで、俺は何をすればいいの?」
「僕の話し相手になっていただければいいです。姫川さんと坂元くんが押し入って来た時にいてくださるだけで証人になりますしね。正直護衛は保険です」
「まぁ、彼らは攻撃系ではないから相手するのは楽勝だけどさ。でも俺がいないことで感づくんじゃない?」
「今頃僕にしてやられたことで苛立って、そんなことにも気が付かなくなっているはずですよ」
「なんというか……そんなんで旅を終えられるのか?」

僕はそれに曖昧に笑っておいた。もしかしたら、一人くらいは欠けるかもしれないから。それも今回の件で多少は分かるだろう。

「ナチには一歩も近づけるなよ。触らせるなんてもってのほかだ。もし触らせたら、責任をとってお前の腕を差し出せ」
「代償が重くなってるんだけど⁉」
「まぁまぁ。部屋に侵入された時点でラスもこっちに来るんでしょう? なら大丈夫ですよ。そもそもシャールさんがいるのに攻撃してくるような度胸もない奴らですし」

ただ、何となく嫌な予感はするけど……まぁ、大丈夫でしょ。

「少し気になることがあるとすれば、勇者だな」
「勇者様?」
「今日、例の二人が抜けて戻ってきた時、勇者が気にしていた。あれはアイツらがお前に何かをしようとしていたということに気が付いているだろうな」
「それは……少し警戒した方がいいかもですね」

神尾くんなら、僕の考えなんてお見通しだろう。もしかしたら明日は来ないかもしれないな。

「明日来なくても、しばらくは警戒した方がいいだろうな。騎士団宿舎で団長の婚約者が暴行被害だなんてシャレにもならない」
「当たり前だ。もし勇者が出張ってきたら……丁度いい機会だ。立場の違いを見せつけてやる」

そう言ってニヤッと笑うラスは、僕から見ても魔王みたいだった。
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