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マレス・シャールという人物は、一言で言えば胡散臭い。ニコニコと笑ってはいるが、その笑顔の裏に底知れない感情を隠している。意地が悪いのは、その隠している感情をわざとらしくチラ見せしてくるところ。無駄に警戒心を抱かせる天才だ。というのが、ラスによるシャールさんの評価だった。
当の本人は、良いとは言えない評価を聞いて笑っている。器が大きいというわけではなく、単純にそれが正しい評価だと思っているからだろう。
「いやー、とんだ紹介をしてくれるじゃない」
「一番紹介したくなかったからな」
「言ってくれるねぇー。ナチちゃんだっけ? ラスティアが子猫みたいに大事に大事にしてる婚約者が、まさか勇者様御一行の一人だったとはね」
「気安く名前を呼ぶな」
「嫉妬深い男は嫌われるよ?」
「うるさい」
これまでラスが素を見せている相手を見たことがなかった。僕がずっと部屋に籠っていたというのもあるけど。とても新鮮な光景だ。物珍しく感じると同時に、ツキツキとした胸の痛みが嫉妬心を訴えてくる。神尾くんと付き合っていたときに、彼の取り巻きに感じていたものと同じだ。見せつけるようにしてきたあの女たちとは違って、シャールさんはただラスと楽しく会話しているだけなのに。……いや、それが嫌なのかな。
「シャールさん」
「なんだい? ナチちゃん」
「僕は嫉妬深いラスが好きなので、嫌いになることはありませんよ」
「……へぇ?」
僕の言葉に、シャールさんは僅かに目を見開いた。すぐに眼鏡の位置を戻しながらにやりという笑みを浮かべていたけれど、彼にとって僕はただの勇者御一行ではなくなっただろう。
「いい趣味してるねぇ。でも、ラスティアの嫉妬深さは本当にヤバいよ? 何人の女が逃げたことか」
「僕は縛り付けられないと愛を実感できないんです。僕から離れないで、僕が離れることを許さない。それぐらいの束縛を求めてる。お互いにお似合いだと思いませんか?」
「……ほんとにお似合いだよ。狂ってる者同士、ちょうどいいんじゃない?」
シャールさんのその言葉は本心かどうかは分からないが、目の奥には少しの軽蔑の色が見える。僕らの愛の重さは狂っているらしい。とても心地いい重さなのに。
「僕は寂しがりやなんです。だから、大切な団長さんを貰うことを許してください」
「いいよいいよ。こんないつか問題起こしそうな奴、兎ちゃんに喜んでくれてやる」
「兎ちゃん」というのは、寂しがりという部分を揶揄っているのか、それともラスティアに捕まった獲物という意味なのか。
「可愛らしい愛玩動物らしく、飼い主に可愛がってもらえばいいさ」
「お前、見る目が落ちたな」
「はぁ? この無表情で何考えてるか分かんないような子のどこがいいのか分かんないね。確かに可愛い顔はしてるけど」
「そうじゃねぇ。お前はナチをただの小動物だと思ってるだろうが、実際はその皮を被った魔物のような奴だぞ」
「ラス、酷くないですか?」
とんだ言われようだ。ラスの中での僕は一体どんな風になっているのだろうか。若干拗ねた僕の機嫌を直すように頭を抱き寄せられてキスを落とされる。たったそれだけで絆されてしまう僕がどうして魔物になるのだろう。
「そう拗ねるな。可愛い俺の奥さん」
「まだ奥さんじゃないです」
「結婚することは変わらないのだから、もう奥さんでも構わないだろ」
「……それもいいですね」
「いいわけないだろ、このバカップルが」
シャールさんは完全にツッコミ要因になった。呆れたように眉間を押さえているが、諦めた方がいいと思う。
「マレス。お前にはナチは常に無表情に見えるだろうが、俺はちゃんと感情が読み取れている。俺だけがな。それだけでも俺は満たされている。ちなみに、今は甘えたい気分になっている」
「え、なんで分かるんですか⁉」
「それ、俺の台詞だから」
「あぁ、それとな。マレス」
「もういいよ。俺、もうお腹いっぱい」
「ナチを使って何やら企んでいたようだが、やめておいた方がいい」
シャールさんは、ラスを驚愕の表情で見ている。僕はラスの胸に抱き寄せられた頭をゆっくりと撫でられて、心地よさに溺れながらその顔を見ていた。何やらラスに秘密の計画があったようだけど、あっさりと見抜かれるなんて。ラスが優秀なだけかもしれないけど。
「な、んでお前がそれを知ってるんだ」
「ナチに関することを俺が知らないとでも? お前が言ったんじゃないか。俺の嫉妬はヤバいってな」
つまり、僕に関することは全て把握しているということか。これなら、すぐに僕の部屋に色々やってくれた奴も見つかるだろう。むしろ、シャールさんの方に気を取られて僕の部屋に直接仕掛けられたことの把握が遅れたのかもしれない。それがラスの嫉妬心に火をつけたのなら、グッジョブという他ない。
「俺を敵に回してもいいならやってもいいぜ。でも、ナチは勇者様にとっても爆薬だぞ」
「どういうことだ」
「勇者様はナチの元カレだ」
「……は?」
「しかもあっちは未練タラタラ。なんか寝とってる気分になるくらい。なぁ、面白いだろ?」
「……はぁ」
これだけはシャールさんに共感できる。やっぱりラスもクズに変わりはない。
当の本人は、良いとは言えない評価を聞いて笑っている。器が大きいというわけではなく、単純にそれが正しい評価だと思っているからだろう。
「いやー、とんだ紹介をしてくれるじゃない」
「一番紹介したくなかったからな」
「言ってくれるねぇー。ナチちゃんだっけ? ラスティアが子猫みたいに大事に大事にしてる婚約者が、まさか勇者様御一行の一人だったとはね」
「気安く名前を呼ぶな」
「嫉妬深い男は嫌われるよ?」
「うるさい」
これまでラスが素を見せている相手を見たことがなかった。僕がずっと部屋に籠っていたというのもあるけど。とても新鮮な光景だ。物珍しく感じると同時に、ツキツキとした胸の痛みが嫉妬心を訴えてくる。神尾くんと付き合っていたときに、彼の取り巻きに感じていたものと同じだ。見せつけるようにしてきたあの女たちとは違って、シャールさんはただラスと楽しく会話しているだけなのに。……いや、それが嫌なのかな。
「シャールさん」
「なんだい? ナチちゃん」
「僕は嫉妬深いラスが好きなので、嫌いになることはありませんよ」
「……へぇ?」
僕の言葉に、シャールさんは僅かに目を見開いた。すぐに眼鏡の位置を戻しながらにやりという笑みを浮かべていたけれど、彼にとって僕はただの勇者御一行ではなくなっただろう。
「いい趣味してるねぇ。でも、ラスティアの嫉妬深さは本当にヤバいよ? 何人の女が逃げたことか」
「僕は縛り付けられないと愛を実感できないんです。僕から離れないで、僕が離れることを許さない。それぐらいの束縛を求めてる。お互いにお似合いだと思いませんか?」
「……ほんとにお似合いだよ。狂ってる者同士、ちょうどいいんじゃない?」
シャールさんのその言葉は本心かどうかは分からないが、目の奥には少しの軽蔑の色が見える。僕らの愛の重さは狂っているらしい。とても心地いい重さなのに。
「僕は寂しがりやなんです。だから、大切な団長さんを貰うことを許してください」
「いいよいいよ。こんないつか問題起こしそうな奴、兎ちゃんに喜んでくれてやる」
「兎ちゃん」というのは、寂しがりという部分を揶揄っているのか、それともラスティアに捕まった獲物という意味なのか。
「可愛らしい愛玩動物らしく、飼い主に可愛がってもらえばいいさ」
「お前、見る目が落ちたな」
「はぁ? この無表情で何考えてるか分かんないような子のどこがいいのか分かんないね。確かに可愛い顔はしてるけど」
「そうじゃねぇ。お前はナチをただの小動物だと思ってるだろうが、実際はその皮を被った魔物のような奴だぞ」
「ラス、酷くないですか?」
とんだ言われようだ。ラスの中での僕は一体どんな風になっているのだろうか。若干拗ねた僕の機嫌を直すように頭を抱き寄せられてキスを落とされる。たったそれだけで絆されてしまう僕がどうして魔物になるのだろう。
「そう拗ねるな。可愛い俺の奥さん」
「まだ奥さんじゃないです」
「結婚することは変わらないのだから、もう奥さんでも構わないだろ」
「……それもいいですね」
「いいわけないだろ、このバカップルが」
シャールさんは完全にツッコミ要因になった。呆れたように眉間を押さえているが、諦めた方がいいと思う。
「マレス。お前にはナチは常に無表情に見えるだろうが、俺はちゃんと感情が読み取れている。俺だけがな。それだけでも俺は満たされている。ちなみに、今は甘えたい気分になっている」
「え、なんで分かるんですか⁉」
「それ、俺の台詞だから」
「あぁ、それとな。マレス」
「もういいよ。俺、もうお腹いっぱい」
「ナチを使って何やら企んでいたようだが、やめておいた方がいい」
シャールさんは、ラスを驚愕の表情で見ている。僕はラスの胸に抱き寄せられた頭をゆっくりと撫でられて、心地よさに溺れながらその顔を見ていた。何やらラスに秘密の計画があったようだけど、あっさりと見抜かれるなんて。ラスが優秀なだけかもしれないけど。
「な、んでお前がそれを知ってるんだ」
「ナチに関することを俺が知らないとでも? お前が言ったんじゃないか。俺の嫉妬はヤバいってな」
つまり、僕に関することは全て把握しているということか。これなら、すぐに僕の部屋に色々やってくれた奴も見つかるだろう。むしろ、シャールさんの方に気を取られて僕の部屋に直接仕掛けられたことの把握が遅れたのかもしれない。それがラスの嫉妬心に火をつけたのなら、グッジョブという他ない。
「俺を敵に回してもいいならやってもいいぜ。でも、ナチは勇者様にとっても爆薬だぞ」
「どういうことだ」
「勇者様はナチの元カレだ」
「……は?」
「しかもあっちは未練タラタラ。なんか寝とってる気分になるくらい。なぁ、面白いだろ?」
「……はぁ」
これだけはシャールさんに共感できる。やっぱりラスもクズに変わりはない。
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