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「モーリス団長、お疲れ様です!」
「団長! その方が婚約者様ですか⁉」
「団長から告白したって本当ですか⁉」
「団長! 団長!」と芸能人の記者会見なみに口々にラスに話しかけまくるのは、ラスが率いる第一騎士団の騎士たちだ。結局僕は、ラスによって彼の部屋に移動することになってしまったのだが、まだ日は高いとはいえ常に誰かがいる騎士団の宿舎。団長であるラスが来たら挨拶をするのは当たり前ではあるが、必ず一言二言ついてくる。もちろん腕に抱えている僕のことだ。それが何人もとなると、それなりの騒ぎになるわけで。
「婚約者様のお顔見せてくださいよー!」
「美人さんですか? それとも可愛い系?」
またしてもラスに抱えられていた僕にも声がかけられる。流石に見逃してもらえなかった。
しかし、僕は彼らと顔をあわせるのはまだ先になりそうだ。僕の顔を隠すようにかけられたラスの上着をそっと握りしめたと同時に、僕の後頭部を彼の肩口に押しあてる手に力が込められた。
「君たち、これ以上騒ぐならそれなりのお仕置きを受けてもらうよ?」
「ヒッ……! す、すいませんでしたー!」
堪忍袋の緒が切れそうになったラスの冷えた笑みを見て一人が脱落したのを皮切りに、宿舎はようやく落ち着きを取り戻した。心なしか歩きが早くなったラスは、めげずに話しかけようとする者を鋭い目つきで黙らせながら自分の部屋にようやくたどり着いたのだった。
「まったく。人の恋愛事に首を突っ込もうなんて野暮だろ」
「ふふっ……僕は貴方が慕われているのが分かって安心しましたよ?」
「あっそ」
扉に団長室と書かれたプレートが張られている部屋の更に奥。執務室になっている部屋と扉続きでラス個人の部屋があった。通常の部屋がどんな風なのかは分からないが、それでも一等良い部屋なのだろうということは、なんとなく分かった。
そのふわふわのベッドに下ろされて、少々不貞腐れてしまったラスの頭を撫でる。本人は不機嫌をアピールするためか、僕の太ももに頭を載せて、薄い腹に猫の子のように額をぐりぐりと擦りつけてくる。そのくすぐったさと彼の子供っぽさに笑いがこみあげてくる。くすくす笑っていると、目を細めたラスに頬を軽くつねられる。ピリッとしたその刺激も甘さを孕んでいる。もし空気に色がついていたのなら、この部屋は胸やけがしそうなほどの甘ったるさを感じる色で塗りつぶされていただろう。
頬をつねっていた手がゆっくりと撫でる動きに変わる。それに導かれるままに、ラスの顔に自分の顔を近づける。僕と彼のそれが触れ合う。
「うわぁ……なにこの砂糖吐きそうな空気~」
「へぁっ⁉」
突如割り込んで来た声に驚いて身体が跳ねた。僕の口腔に入り込もうとしていた彼の不埒な舌先が宙に置いてきぼりになってしまった。予想していなかった事態に固まった僕とは裏腹に、ラスは行き場を失った舌を引っこめると口の中で鳴らした。その目は明らかな苛立ちを侵入者に向けている。
「怖っ! なにその目は。お前が足しげくその子を口説いてる間に誰が業務をこなしてやったと思ってるの」
「……うるせぇ」
殺気すらこもっていそうな程のドスのきいたラスの声にも動じることのないその人物は、以前ラスから聞いた人と特徴が一致していた。眩いほどの金髪に澄んだ紫水晶のような瞳。軽そうな口調とは裏腹に知的な雰囲気を演出しているスクエア型の眼鏡をかけた青年。
「はじめまして、ラスティアの子猫ちゃん。俺はマレス・シャール。第一騎士団の副団長だよ」
やっぱりそうだった。
※あ、あまーい(吐砂糖
「団長! その方が婚約者様ですか⁉」
「団長から告白したって本当ですか⁉」
「団長! 団長!」と芸能人の記者会見なみに口々にラスに話しかけまくるのは、ラスが率いる第一騎士団の騎士たちだ。結局僕は、ラスによって彼の部屋に移動することになってしまったのだが、まだ日は高いとはいえ常に誰かがいる騎士団の宿舎。団長であるラスが来たら挨拶をするのは当たり前ではあるが、必ず一言二言ついてくる。もちろん腕に抱えている僕のことだ。それが何人もとなると、それなりの騒ぎになるわけで。
「婚約者様のお顔見せてくださいよー!」
「美人さんですか? それとも可愛い系?」
またしてもラスに抱えられていた僕にも声がかけられる。流石に見逃してもらえなかった。
しかし、僕は彼らと顔をあわせるのはまだ先になりそうだ。僕の顔を隠すようにかけられたラスの上着をそっと握りしめたと同時に、僕の後頭部を彼の肩口に押しあてる手に力が込められた。
「君たち、これ以上騒ぐならそれなりのお仕置きを受けてもらうよ?」
「ヒッ……! す、すいませんでしたー!」
堪忍袋の緒が切れそうになったラスの冷えた笑みを見て一人が脱落したのを皮切りに、宿舎はようやく落ち着きを取り戻した。心なしか歩きが早くなったラスは、めげずに話しかけようとする者を鋭い目つきで黙らせながら自分の部屋にようやくたどり着いたのだった。
「まったく。人の恋愛事に首を突っ込もうなんて野暮だろ」
「ふふっ……僕は貴方が慕われているのが分かって安心しましたよ?」
「あっそ」
扉に団長室と書かれたプレートが張られている部屋の更に奥。執務室になっている部屋と扉続きでラス個人の部屋があった。通常の部屋がどんな風なのかは分からないが、それでも一等良い部屋なのだろうということは、なんとなく分かった。
そのふわふわのベッドに下ろされて、少々不貞腐れてしまったラスの頭を撫でる。本人は不機嫌をアピールするためか、僕の太ももに頭を載せて、薄い腹に猫の子のように額をぐりぐりと擦りつけてくる。そのくすぐったさと彼の子供っぽさに笑いがこみあげてくる。くすくす笑っていると、目を細めたラスに頬を軽くつねられる。ピリッとしたその刺激も甘さを孕んでいる。もし空気に色がついていたのなら、この部屋は胸やけがしそうなほどの甘ったるさを感じる色で塗りつぶされていただろう。
頬をつねっていた手がゆっくりと撫でる動きに変わる。それに導かれるままに、ラスの顔に自分の顔を近づける。僕と彼のそれが触れ合う。
「うわぁ……なにこの砂糖吐きそうな空気~」
「へぁっ⁉」
突如割り込んで来た声に驚いて身体が跳ねた。僕の口腔に入り込もうとしていた彼の不埒な舌先が宙に置いてきぼりになってしまった。予想していなかった事態に固まった僕とは裏腹に、ラスは行き場を失った舌を引っこめると口の中で鳴らした。その目は明らかな苛立ちを侵入者に向けている。
「怖っ! なにその目は。お前が足しげくその子を口説いてる間に誰が業務をこなしてやったと思ってるの」
「……うるせぇ」
殺気すらこもっていそうな程のドスのきいたラスの声にも動じることのないその人物は、以前ラスから聞いた人と特徴が一致していた。眩いほどの金髪に澄んだ紫水晶のような瞳。軽そうな口調とは裏腹に知的な雰囲気を演出しているスクエア型の眼鏡をかけた青年。
「はじめまして、ラスティアの子猫ちゃん。俺はマレス・シャール。第一騎士団の副団長だよ」
やっぱりそうだった。
※あ、あまーい(吐砂糖
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