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4巻
4-3
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「お前、立ち直るの早すぎるだろ!」
「誰かさんが随分と過激に慰めてくださったものですから」
切り替えが早いロイは、すぐにいつものようにオウカを追い詰めている。二人のいつも通りのやり取りに思わず笑ってしまった。
「ははっ! オウカがロイに口で勝てる日は来ないだろうね」
「なんだと!?」
「ふふっ、これからも負けるつもりはありませんよ」
「あははっ!!」
「笑うなよ、お前ら!」
ひとしきり笑ったあと、そろそろ朝ご飯の時間が迫っていることに気が付いて、おれは慌てて着替えを手に取った。昨日の朝カーネリアン家に行く前に、明日の着替えはこれね! と置いていってくれたクーロのありがたさが沁みる……
「タカト、身体は大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫! むしろすっきりしてるくらい!」
「それは……良かったです」
どうやらロイが最初に落ち込んでいたのは、おれの身体に負担をかけてしまったのではと思っていたからのようだ。心配をかけてしまって申し訳ないなぁ、むしろ快調です。
「おーい、早くしろよー」
「分かってる!」
バタバタと忙しなく準備をして全身OKっとロイに確認してもらい、扉の前で待ってくれていたオウカのもとに向かう。
「お待たせ!」
「…………」
「オウカ?」
オウカはじっとおれを見ている。何か変なところあるのかな。
ロイと顔を見合わせて首を傾げる。うん、おかしいところはないよな。
「なぁ、タカト」
「ん? 何? タイ、曲がってる?」
「ムラついてんのは、お前だけじゃねぇからな」
「……え?」
「次は俺を呼べよ」
「え?」
「じぁあ俺は先に行ってるからな!」
オウカはいつの間に扉を開けていたのか、おれ達が固まっている間にダッと走っていってしまった。
「オウカ副団長!」
先に硬直が解けたロイが走っていったオウカを追って廊下に出たが、もういないと悔しそうに舌打ちをしていた。
珍しすぎるロイの舌打ちの衝撃で意識が戻ってきたおれは、かあっと顔が熱くなっていくのを抑えることもできずに身体を震わせた。
オウカの馬鹿!!
◇◇◇◇
「……なるほど。私がいない間にそのようなことになっていたとはな」
九日間の遠征からダレスティアが帰ってきた。
ダレスティアが出発した日でもあったあの日の夜にロイを襲ってしまったことを話し、ロイとオウカとも話し合って定期的に触れ合おうということになったと説明すると、ダレスティアはいつもと変わらない落ち着いた顔で一つ頷いた。
「よく考えたら、恋人なんだし触れ合いならしても良かったんだよな、ってことに気付いたんだ」
「そうだな。しかし問題は、私達の忍耐が持つかどうかだが……精進しよう」
「あはは……」
ふっと微笑んだダレスティアを見て、思わず手を合わせそうになった。推しの微笑み……尊い。
話している内容がちょっとえっちなことだけども、それが気にならない爽やかさだ。
「それで、今日はクーロがいない日だが……オウカと約束しているのか?」
「う、うん」
「そうか。では次の機会は私にくれると嬉しい」
ダレスティアがちょっと残念そうな表情を見せてきて、思わずキュンとしてしまった。
ロイとオウカと同じように、ダレスティアもおれと触れ合うことを我慢してくれていたのかな。
「……私も我慢していたからすぐにでも触れたい思いはあるが……タカトがしたいと思った時に誘ってくれ」
「ぅえ!?」
あまりにもタイミングがピッタリな言葉に驚いて変な声が出てしまった。もしかしておれ、考えてたこと顔に出てた……!?
「楽しみにしている」
考えを読まれているのではと思って焦るおれを見て、ダレスティアは楽しそうにそう言う。おれはもう赤面して蹲るしかなくなってしまった。
「ダレスティアの色気がすごすぎる……好き」
「私もタカトが好きだ」
「うぐぅ……! ありがとうございますぅ!」
蹲って顔を両手で覆うおれの横にダレスティアがしゃがんで、優しく頭を撫でながらずっとファンサをしてくる。更に限界オタクになってしまうのでおやめくださいませ。
「……どういう状況だ?」
「オウカ、ノックをしろ」
ノックをせずに団長室に入ってくるのはお前くらいだと、オウカに小言を言うダレスティアはいつもの調子だ。
甘い空気が霧散し、少しの寂しさを覚えたおれは蹲ったまま、立ち上がって距離が遠くなってしまったダレスティアの顔を見上げた。背、高いなぁ……
「ターカートー」
「うわっ!?」
急に子どもを持ち上げるように脇の下に手を入れて抱き上げられ、足が宙に浮く。いきなり何をするんだと正面を睨みつけると、拗ねてますと言わんばかりに口を尖らせたオウカの顔があった。
「可愛い顔してダレスティアを見やがって。お前、これからすること忘れてないよな?」
さっきダレスティアに話したとはいえ、ここでそれを言う必要はないだろ!? と言いたいところだけれど、ここで言い争えばこのあと無駄に虐められそうだと言葉を呑み込んだ。
オウカは意外と意地悪で、ヤキモチ焼きだ。
「わ、忘れてないってば! それに、可愛い顔なんてしてないよ!」
足をバタつかせて降ろしてとアピールすれば、すんなり降ろしてくれた。
「いや、してた」
「してません!」
「してたっての! なぁ、ダレスティア!」
「ああ、していたな」
「ダレスティア……!?」
けれど、まさかの裏切りに情けない声を上げてしまった。
そんなおれの表情が面白いほど悲愴感に満ちていたのか、ダレスティアとオウカは顔を見合わせると笑いを零しておれを更に困らせたのだった。
「まったく。二人しておれを揶揄うんだから」
「悪かったって。けど、元はと言えば俺との約束の前にダレスティアといちゃついてたお前も悪いんだぞ。分かってんのか?」
「はいはい。おれも悪かったですー」
団長室から寝室に戻ってきてベッドに横たわったおれは、オウカに薬と水が入ったコップを手渡されながら、まだ先ほどのダレスティアとの一幕を詰られていた。
「んっ……これ、いつまで飲み続ければいいのかな」
「とりあえず二週間後の定期検査までの分はある。定期検査で坊ちゃんに確認してもらえばいいだろ」
「うん。でも自分じゃ全然分からないものだね」
健康生活の見本と言えそうな生活を始めて少し経つけれど、これまでと何かが変わったという体感はない。
魔術塔での検査の時に、体調が悪いとか違和感を覚えたことはないと訴えたけれど、サファリファスに病気や怪我というわけじゃないからおかしいと思わなくて当然だと返された。
全体的な身体の機能の問題で、いつガタが来てもおかしくない、ということらしい。
この強制的な療養生活はいわば、工場全体のメンテナンスのようなものかと納得したのだけど……
「身体の中ってのは外に比べて分かりづらいものだからな。お前の場合は神竜のせいというかおかげというか、宝玉の役目のために弱っていた身体の機能を底上げされていたから、不調の自覚がなかったって判断されたわけだが」
「それなら治してくれたら良かったのにと思ったけどね」
「神竜にそこまでの力はまだなかったんだろ。俺としては、召喚される前にも不調を感じていなかったのかが疑問だがな」
「えーっと……」
じろっとおれを見下ろすオウカの視線から逃げて、そろっと目線を逸らした。
散々貴音にも言われたけど、あの頃のおれの生活を思い出すと何も言えなくなる。今でこそ、確かに最悪な生活を送っていたなという自覚はあるけれど、当時は仕事のことばかり考えていたからなぁ。
「社畜だったもので。疲れてるなぁとは思ってたけど、そこまで悪いとは思ってなかったというか……」
「若いのに苦労しすぎだろ」
「返す言葉もございません……」
哀れみの目で見られた。そりゃあこの世界の人には信じられないことだよなぁ。
「一応確認だが、今日も身体の不調を感じたとかはなかったか?」
「ないよ。あ、でも……」
「何かあったのか?」
言葉を濁したおれを、薬の内服記録をしていたオウカが手を止めて振り返った。
「頭痛か? 眩暈か? 熱か?」
大きな手で全身触れて回るオウカの手首を掴むと、オウカの目をじっと見つめ、屈んで近付いていたオウカの首に手を回して引き寄せた。
「タカト?」
「……ちょっとムラムラする、かも」
「っ!?」
ピシッと石になってしまったかのように固まってしまったオウカ。おれは笑って、彼の半開きになっている唇に、緊張で少し乾いてしまった自分の唇を押しつけた。
「んっ、んんっ……」
放心状態が続いているオウカの動かない舌を、口内に滑り込ませた舌で一生懸命に絡めようと動かしていると、ぴくっとその肉厚な舌が反応を示した。
「ふ、っ……んッ!? ンンッ!!」
ガッと後頭部を掴まれた一瞬、驚いて動きを止めたおれの舌が素早く巻きついてきたオウカの舌に捕まっていた。
まるで男根を扱くように器用に舌を動かしてくるオウカは、おれを逃がすつもりはないらしい。頭を押さえている手は離れず、舌を引っ込めようとすると更に深く口を合わせて強く吸われて放してもらえない。
「んっ、ちゅ、っんんんッ、ふ、ぁん、んむ、ッ、ん……」
オウカが舌を動かす度に、くちゅくちゅといやらしい音が響く。口内で絡め合うほど段々と水音が激しくなっていき、かぁっと顔に熱が集まる。
舌の動きに翻弄されて上手く息ができなくなってきて、身体から力が抜ける。縋りつくように首に回していた腕も滑り落ちそうだ。
そんなおれに気が付いたのか、最後にオウカは一際強く舌先を吸い、そうしてやっと濃厚すぎるキスからようやく解放された。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……」
腫れぼったくなった唇を閉じる気力もなく、ぼーっとする頭で荒く息を吐きながら口端から唾液を零していると、オウカがぺろっと舐め取る。そのまま、ちゅうっと唇を吸われてやっと意識が戻ってきた。
「は、激しすぎ……」
「お前が質の悪い悪戯するからだ」
悪戯だと宣うオウカを涙目で睨み上げると、おれの額を、痛くないけど衝撃の強いデコピンが襲う。
「いたぁッ!?」
衝撃を受け止めきれず、おれは仰け反ってそのままベッドに倒れ込んだ。
「さてと。ムラついてるタカトくんはこのままおねんねするか?」
おれを手足で囲むように跨ってきたオウカが、ニヤッと意地悪に笑う。それを見上げて、手を伸ばした。
「まさか。ちゃんと責任取ってくれるまで寝ないからな」
ちょい、とその可愛い耳を指先で引っ張って笑えば、オウカは上等だと牙を剥いておれの首元に食らいついた。
SIDE オウカ
キスで乱れた息を整えるタカトの顔がエロすぎる。
艶めかしく光る唇に吸い寄せられるように、その口端から垂れた唾液を舐め取って唇に軽く吸い付けば、怖いどころか愛らしく思える睨みを向けてくる。
好き勝手キスしたのは俺のほうなのに、感情は振り回されている。そのことに少しムカついてその額を指で弾いてやると、可愛い悲鳴を上げてベッドに倒れ込んだ。
額を押さえて悶えている可愛い恋人に覆いかぶさって挑発すれば、期待以上の答えを貰ってクラっときた。
「本当に、お前は煽る天才だよな」
「あッ、な、に……っ? あ、ん……ッ!」
「タカトは可愛くてエロいって言ったんだよ。ほら、ここを弄ればもっとエロくなるだろ」
「ああッ!」
股の間に身体を入れたせいで大きく両足を広げた状態になってしまっているタカトの男根を片手で扱きながら、胸の頂でほんのりと朱く染まっている乳首を弄る。
「オウ、カ……ぁ! も、むりぃ……! イク、ぅ、っ!」
「おっと。まだ我慢できるだろ?」
「んぁッ!? んん、ぅう……」
ビクッと跳ねた腰と更に硬く反ったソレから、本当に限界が近いことを察知して、俺は扱いていた手を離した。絶頂から遠ざかってしまったことを嘆くように震えている男根を見て、自然と下腹部が重くなる。
俺が与える快楽によって反応を見せるタカトの全てにそそられて堪らない。焦る気持ちを抑え、音を立てながらベルトを外して前を寛げる。
ベッドの上で恋人を押し倒し身体の下で乱れさせているにもかかわらず、お互いに服をほとんど脱いでいないことに興奮している。いつもは暑苦しくてすぐに脱いじまうからな……
目を蕩けさせて大人しく組み敷かれているタカトを見下ろしていると、今すぐにでもあの柔らかい肉壁に包み込まれてぎゅっと甘く締め付けられる感覚を味わいたくなってしまう。
「ふぅ……意外と拷問だな、これは」
「ぅ、オウカの、も……勃ってる」
開けたズボンの前から熱く猛った男根を取り出すと、タカトがじっと見つめて嬉しそうに呟いた。可愛いなこのヤロウ。
「当たり前だろ。だいぶ前から我慢してたんだぞ」
「ははっ……オウカって我慢できるんだぁ」
タカトがふわふわとした表情で笑うと、胸の奥から感情が湧き上がる。汗が垂れる首筋に噛みついて骨の髄まで齧り尽くしてしまいたい。そういう獣の衝動。
「ほんっと……お前は煽り上手だよ」
「ああッ――!!」
男根を重ね合わせてむちゃくちゃに擦り上げれば、タカトは頭を振り乱し喘ぎ声を上げる。身体を前に倒して尖りきった乳首を空いている手と口で愛撫すれば、更に激しく嬌声を上げて足がシーツを蹴る。強すぎる快楽に身体が無意識に逃げを打っているのか、乳首を甘噛みして舐めるおれを乳首から引き離すように、力の入らない手を頭に当ててきた。
「んんッ、ああ、ッ! ああ、ン、っは、ぁッ、ひッ……!!」
「逃げるなよ……タカト」
お仕置きするように強く乳首の根本を噛むと、タカトは悲鳴のような声を上げて仰け反った。刺激に震える乳首をひと舐めしてから解放してやれば、タカトは仰け反ったまま枕に頭を沈めて、可愛らしい喘ぎを零した。
男根と乳首から手を離し、力なくシーツの上に落とされていた両手を取りタカトの頭の両脇に押さえつけるように固定する。互いの先走りでベトベトになった手だが、そんなことを気にする余裕はない。むしろ擦りつけるように、指を絡めて握りしめ合った。
「タカト……!」
「んああッ……!!」
まるで入れているかのように腰を激しく動かして男根同士を擦りつけると、セックスの時のようにタカトが甘く啼く。その声を呑み込むようにキスで口を塞ぎ、ぐちゃぐちゃに舌を絡め合って呼吸を奪い合う。
その間も腰の動きは止めずに絶頂に向けて擦り合わせれば、元々限界が近かったタカトは身体を固くして今にも果ててしまいそうだ。けれど俺にはまだ刺激が足りない。
「ひっ!? ぃあ、んああ、ぅ、ああッ!!」
キスを止めるのは名残惜しいが、身体を起こして広げっぱなしになっていたタカトの足を掴み、太ももをくっつけてその間に男根を突っ込んだ。
すべすべとした肌はおれの先走りでどんどん滑りがついていき、体勢のせいもあると思うがまるで中に入れているような感覚になる。
「ぅッ……!」
痕が付いてしまうと一瞬思ったものの、結局は耐えきれずに太ももを持つ手に力を込めて勢いよく腰をタカトの尻にぶつければ、セックスの時の耳慣れた音が響く。
その音と男根への刺激と体勢が、俺を絶頂へと導く。タカトの快楽に蕩けた顔を真上から見下ろすほどに前のめりになって、俺は一際強く太ももの間に男根を突き入れて、タカトのモノを滑り合わせた。
「ッッああああーーーー!!」
「ぐっ、ぅ……ッ!!」
その瞬間、目を見開いてタカトが昇り詰める。絶頂の衝撃で力が入った太ももの締め付けに耐え切れず、俺も絶頂を迎えた。俺の男根から噴き出した白濁が、タカトの腹と男根にかかり、タカトの出したものと混ざり合う。
全身で息をするタカトが、ぼぉっとした表情で舌で舐め取ったのは、口元まで飛んでいた俺の精液。
「ん……まずい」
「は……はは……っ、そりゃそうだろ」
「まえは、おいしかったのに……」
神竜の魂を宿していた時はその影響で美味く感じていただろうが、今の正常な味覚にとっては不味くて当たり前だろう。
セックス後の色気も何もない、顔を顰めたタカトの不服そうな物言いが面白くて、俺はタカトに思い切り頭を叩かれるまで、その首筋に顔を埋めて笑い続けたのだった。
第二章
SIDE オウカ
セックスをしてもしなくても、タカトを胸に抱いて目を覚ました日はいつも以上に身体の調子がいいのだが、今日は一段といい。
思わず鼻歌を歌いたくなるほどの調子の良さに首を傾げながら、足取り軽く団長室に向かうと、部屋の主が書類片手に仕事をしていた。
背筋を伸ばして順調に書類を捌いていくその生真面目さに、事務仕事が苦手な俺は思わず不快な感情が顔に乗ってしまう。
「こんな朝から書類ばっかり見て気が滅入らないのか?」
「仕事だからな。心配してくれるのなら手伝ってもらおうか」
「お断りだ。俺はそういう作業が一番苦手だって知ってるだろ。手伝った挙句にお前になんだかんだと怒られるなんて御免だぜ」
「確かに、お前が提出した書類の三割は差し戻されて返ってくるからな。もう少し字は綺麗に書け。できないわけではないだろう」
ピラッと一枚差し出されて受け取ると、それは俺宛の請求書だった。そういえばこの前の近衛騎士団との合同訓練の時に、ウィリアムに煽られたせいで力加減を間違って、数本ばかり剣を壊したな……。あちらから苦情が来たとかで、ロイにめちゃくちゃ怒られた。
「壊した剣がこちら側の備品だったなら経費で落とせたというのに……今月の給与から引いておくぞ」
「仕方ないだろ……あっちの剣が脆いのが悪い」
「だから力を調整しろと言ったのだが。いい加減にウィリアムとの仲をどうにかしろ。合同訓練の度にあちらから請求書を渡される私の身にもなれ」
「訓練で壊れたんなら経費で落とせるんじゃねぇのか」
「一、二本だったなら、な」
じとっとした目で睨みつけてくるダレスティアから、俺は目を逸らした。
記憶では、一本や二本じゃなかった気がする……。ちらりと請求書を見れば、十という数字が。
「いくら竜の牙の訓練用の剣が通常より頑丈に作られているといっても、流石に壊しすぎだ。今度も剣を壊すようなことがあれば、ラシュド様に相談するからな」
「はぁ!? 分かった! 次からはちゃんと手加減するって!」
ダレスティアはやると言ったことは絶対にやる。次の合同訓練で一本でも相手の備品を壊せば、問答無用で親父に言いつけに行くはずだ。
最近の親父は俺の弟が生まれてから、それはもう浮かれまくっている。母さんが休んでいる間には乳母が世話をしてくれているが、それを側でずっと見ているらしい。乳母も苦笑していた。
子煩悩の父と化した親父は今、俺に対して当たりが強い。曰く、兄がこんなんではクーロや弟に悪影響だ! ということらしいが、今更だろ。
「はぁ……。孫がいるようないい歳のくせによ……浮かれすぎてて居たたまれねぇんだよ」
思わず愚痴を零しながら、ダレスティアに渡された羽ペンでできるだけ丁寧に請求書にサインをする。ふむ。これなら文句はないだろう。
納得の出来で手渡すと、ダレスティアは眉を顰め、ついでにため息を吐いて肩を竦めた。なんだその呆れたと言わんばかりの態度は。
「タカトが子を宿せるとラシュド様はまだご存知ないだろう? 息子であることには間違いないが、孫ができたような気分なんじゃないか? クーロが養子になったばかりの頃も猫可愛がりしていたと父上から聞いた」
「かもな……一応魔術塔からも子を宿せるというお墨付きも貰えたんだ。もう俺達の親には伝えてもいいんじゃないか?」
ぬか喜びさせてはいけないと、魔術塔での検査結果が出るまではそれぞれの親に言うのはやめておこうと話し合っていた。
おれが視線をやると、ダレスティアは小さく首を横に振った。
「いや、まだ待つべきだ。今、サファリファスが王宮内の制約魔法の結界を練り直している。設置してある魔道具のいくつかに劣化が見られたらしい。それと……不自然な細工の跡もな」
「細工?」
王宮には国家機密などを不用意に持ち出せないように、王族に誓いを立てていない者は機密と指定された情報を他人に共有することができず、王宮を出れば忘れてしまうという制約魔法がかけられている。
それは王宮に出入りする者は全員知っている。けれど、どうやって制約魔法がかけられているのかを知る者は少ない。
「前回の点検からそれほど経っていないのに劣化したということ。不自然な細工の跡があるということ。この二つの事実から導かれることは何か……分かるな?」
「……アイツか」
ゼナード伯爵……いやもう爵位をはく奪されているからただの大罪人ゼナードか。あの不愉快な顔を思い出してしまい、俺は無意識に舌打ちした。
ダレスティアは誰のことを言っているか分かったらしく、同じく険しい表情で頷いた。
「ああ。細工跡から見て、細工をされたのは神子召喚の儀の頃……タカネ様が誘拐された時じゃないかと睨んでいる。あの時は全騎士団がタカネ様の捜索に力を入れていて王宮内の騎士も少なかった。その隙に、あの男が使役していた魔術師が細工をしたのではないかとサファリファスは疑っている」
「あの時か……確かに緊急事態だったから警備はいつもより疎かになっていた可能性はある。まぁ、それは近衛騎士団の責任だがな」
「警護対象にまんまと出し抜かれて家出された挙句、アイルにその手助けをされていたという衝撃もあって動揺していただろうがな。そのせいで全ての警備が疎かになったとしても庇いようがないが、事の発端はタカネ様とアイルが悪知恵を働かせて家出したことだ。今となってはもう言うだけ無駄なことだがな」
神子脱走事件は、王国の歴史に残る出来事だ。あの時は神子が脱走しただなんて、なんの冗談かと思ったものだが、捜索の命令が出て思わず聞き直したほど驚いたことを覚えている。
あの時はまだ、タカトのことを好きになってはいなかったんだよなぁ。あのダレスティアとロイが夢中になっていて面白いなとは思っていたが、まさか自分も落とされるとは思っていなかった。今じゃ、ありえないほど虜だ。
しかし、あの時に魔道具に細工をされたとなると相当前から準備をしていたということになる。
「恐ろしい奴だな本当に」
「タカトがタカネ様と再会した後、あの男と出くわした。陛下に紹介した際に目を付けたのだろう。あの男の口からタカトのことを聞きたくはないが、この件は余罪として王都の裁判所に持ち込むつもりだ。サファリファスは、あの従者が裁判所に引き取られてしまって自分で聞き出せないことを悔しがっていたが」
「坊ちゃんはなぁ……多分尋問用の魔法薬とか魔道具を使いたいんだろうよ」
誰に使うつもりなのか分からないが、最近やたらと強い自白剤やら催眠魔道具を作っていることは知っている。また工房が散らかってエイベル様に怒られるんだろうぜ。
「だから、制約魔法の魔道具が直るまではタカトのことは黙っていたほうがいい。ラシュド様が大喜びで孫ができると言いふらさないとも限らない」
「お前は親父のことどう思ってんだよ……」
そう言いつつも、今の親父なら言いふらしまくる可能性も否定できない。
俺達の関係は公表していないとはいえ、前の噂のこともある。タカトと関係があるらしい俺。その父親である親父が「孫ができる」と言っていたら、タカトが子を産めるという事実が、また前のように噂として独り歩きしてしまうことも考えられる。
親父は王都に戻ってきて最近は古巣の騎士団に顔を出すことも増えているから、ありえないとは言い切れないな。
「以前、タカトの噂が流れたのも、魔道具が上手く作用していなかったせいだと聞いている。あれが作動していれば、タカトについての話は王宮内に留まり、自然と消滅していたはずだ。陛下との謁見の後に、タカトのことを機密だと陛下が魔道具に記録する魔法書に記されたからな」
「はっきりタカトのことだと言わない噂話は社交界で囁かれたかもしれないが、あれほどタカトを示すこととして広まることもなかったはずってことか」
「ああ。それをおかしいと思っていたリノウ王子が調査を続けていらして、魔道具を個人的に調べたようだが、おかしな点は見つからず。だが違和感が拭えずに魔術塔に調査を命じて、サファリファスが巧妙に細工されて劣化させられていたことに気が付いた。つい最近の話だ」
制約魔法の魔道具を弄るだなんて、王宮どころか王国の平和を乱す行為と判断されて、更に罪が重なることになる。実行犯は死んでも牢屋から出てこられないんじゃないか?
俺はただ、坊ちゃんが作っている自白剤や催眠魔道具を強制的に受け取らされる尋問官と、使われる従者の男に哀れみの念を送るだけだ。
あーあ。タカトに癒されてぇー……
「誰かさんが随分と過激に慰めてくださったものですから」
切り替えが早いロイは、すぐにいつものようにオウカを追い詰めている。二人のいつも通りのやり取りに思わず笑ってしまった。
「ははっ! オウカがロイに口で勝てる日は来ないだろうね」
「なんだと!?」
「ふふっ、これからも負けるつもりはありませんよ」
「あははっ!!」
「笑うなよ、お前ら!」
ひとしきり笑ったあと、そろそろ朝ご飯の時間が迫っていることに気が付いて、おれは慌てて着替えを手に取った。昨日の朝カーネリアン家に行く前に、明日の着替えはこれね! と置いていってくれたクーロのありがたさが沁みる……
「タカト、身体は大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫! むしろすっきりしてるくらい!」
「それは……良かったです」
どうやらロイが最初に落ち込んでいたのは、おれの身体に負担をかけてしまったのではと思っていたからのようだ。心配をかけてしまって申し訳ないなぁ、むしろ快調です。
「おーい、早くしろよー」
「分かってる!」
バタバタと忙しなく準備をして全身OKっとロイに確認してもらい、扉の前で待ってくれていたオウカのもとに向かう。
「お待たせ!」
「…………」
「オウカ?」
オウカはじっとおれを見ている。何か変なところあるのかな。
ロイと顔を見合わせて首を傾げる。うん、おかしいところはないよな。
「なぁ、タカト」
「ん? 何? タイ、曲がってる?」
「ムラついてんのは、お前だけじゃねぇからな」
「……え?」
「次は俺を呼べよ」
「え?」
「じぁあ俺は先に行ってるからな!」
オウカはいつの間に扉を開けていたのか、おれ達が固まっている間にダッと走っていってしまった。
「オウカ副団長!」
先に硬直が解けたロイが走っていったオウカを追って廊下に出たが、もういないと悔しそうに舌打ちをしていた。
珍しすぎるロイの舌打ちの衝撃で意識が戻ってきたおれは、かあっと顔が熱くなっていくのを抑えることもできずに身体を震わせた。
オウカの馬鹿!!
◇◇◇◇
「……なるほど。私がいない間にそのようなことになっていたとはな」
九日間の遠征からダレスティアが帰ってきた。
ダレスティアが出発した日でもあったあの日の夜にロイを襲ってしまったことを話し、ロイとオウカとも話し合って定期的に触れ合おうということになったと説明すると、ダレスティアはいつもと変わらない落ち着いた顔で一つ頷いた。
「よく考えたら、恋人なんだし触れ合いならしても良かったんだよな、ってことに気付いたんだ」
「そうだな。しかし問題は、私達の忍耐が持つかどうかだが……精進しよう」
「あはは……」
ふっと微笑んだダレスティアを見て、思わず手を合わせそうになった。推しの微笑み……尊い。
話している内容がちょっとえっちなことだけども、それが気にならない爽やかさだ。
「それで、今日はクーロがいない日だが……オウカと約束しているのか?」
「う、うん」
「そうか。では次の機会は私にくれると嬉しい」
ダレスティアがちょっと残念そうな表情を見せてきて、思わずキュンとしてしまった。
ロイとオウカと同じように、ダレスティアもおれと触れ合うことを我慢してくれていたのかな。
「……私も我慢していたからすぐにでも触れたい思いはあるが……タカトがしたいと思った時に誘ってくれ」
「ぅえ!?」
あまりにもタイミングがピッタリな言葉に驚いて変な声が出てしまった。もしかしておれ、考えてたこと顔に出てた……!?
「楽しみにしている」
考えを読まれているのではと思って焦るおれを見て、ダレスティアは楽しそうにそう言う。おれはもう赤面して蹲るしかなくなってしまった。
「ダレスティアの色気がすごすぎる……好き」
「私もタカトが好きだ」
「うぐぅ……! ありがとうございますぅ!」
蹲って顔を両手で覆うおれの横にダレスティアがしゃがんで、優しく頭を撫でながらずっとファンサをしてくる。更に限界オタクになってしまうのでおやめくださいませ。
「……どういう状況だ?」
「オウカ、ノックをしろ」
ノックをせずに団長室に入ってくるのはお前くらいだと、オウカに小言を言うダレスティアはいつもの調子だ。
甘い空気が霧散し、少しの寂しさを覚えたおれは蹲ったまま、立ち上がって距離が遠くなってしまったダレスティアの顔を見上げた。背、高いなぁ……
「ターカートー」
「うわっ!?」
急に子どもを持ち上げるように脇の下に手を入れて抱き上げられ、足が宙に浮く。いきなり何をするんだと正面を睨みつけると、拗ねてますと言わんばかりに口を尖らせたオウカの顔があった。
「可愛い顔してダレスティアを見やがって。お前、これからすること忘れてないよな?」
さっきダレスティアに話したとはいえ、ここでそれを言う必要はないだろ!? と言いたいところだけれど、ここで言い争えばこのあと無駄に虐められそうだと言葉を呑み込んだ。
オウカは意外と意地悪で、ヤキモチ焼きだ。
「わ、忘れてないってば! それに、可愛い顔なんてしてないよ!」
足をバタつかせて降ろしてとアピールすれば、すんなり降ろしてくれた。
「いや、してた」
「してません!」
「してたっての! なぁ、ダレスティア!」
「ああ、していたな」
「ダレスティア……!?」
けれど、まさかの裏切りに情けない声を上げてしまった。
そんなおれの表情が面白いほど悲愴感に満ちていたのか、ダレスティアとオウカは顔を見合わせると笑いを零しておれを更に困らせたのだった。
「まったく。二人しておれを揶揄うんだから」
「悪かったって。けど、元はと言えば俺との約束の前にダレスティアといちゃついてたお前も悪いんだぞ。分かってんのか?」
「はいはい。おれも悪かったですー」
団長室から寝室に戻ってきてベッドに横たわったおれは、オウカに薬と水が入ったコップを手渡されながら、まだ先ほどのダレスティアとの一幕を詰られていた。
「んっ……これ、いつまで飲み続ければいいのかな」
「とりあえず二週間後の定期検査までの分はある。定期検査で坊ちゃんに確認してもらえばいいだろ」
「うん。でも自分じゃ全然分からないものだね」
健康生活の見本と言えそうな生活を始めて少し経つけれど、これまでと何かが変わったという体感はない。
魔術塔での検査の時に、体調が悪いとか違和感を覚えたことはないと訴えたけれど、サファリファスに病気や怪我というわけじゃないからおかしいと思わなくて当然だと返された。
全体的な身体の機能の問題で、いつガタが来てもおかしくない、ということらしい。
この強制的な療養生活はいわば、工場全体のメンテナンスのようなものかと納得したのだけど……
「身体の中ってのは外に比べて分かりづらいものだからな。お前の場合は神竜のせいというかおかげというか、宝玉の役目のために弱っていた身体の機能を底上げされていたから、不調の自覚がなかったって判断されたわけだが」
「それなら治してくれたら良かったのにと思ったけどね」
「神竜にそこまでの力はまだなかったんだろ。俺としては、召喚される前にも不調を感じていなかったのかが疑問だがな」
「えーっと……」
じろっとおれを見下ろすオウカの視線から逃げて、そろっと目線を逸らした。
散々貴音にも言われたけど、あの頃のおれの生活を思い出すと何も言えなくなる。今でこそ、確かに最悪な生活を送っていたなという自覚はあるけれど、当時は仕事のことばかり考えていたからなぁ。
「社畜だったもので。疲れてるなぁとは思ってたけど、そこまで悪いとは思ってなかったというか……」
「若いのに苦労しすぎだろ」
「返す言葉もございません……」
哀れみの目で見られた。そりゃあこの世界の人には信じられないことだよなぁ。
「一応確認だが、今日も身体の不調を感じたとかはなかったか?」
「ないよ。あ、でも……」
「何かあったのか?」
言葉を濁したおれを、薬の内服記録をしていたオウカが手を止めて振り返った。
「頭痛か? 眩暈か? 熱か?」
大きな手で全身触れて回るオウカの手首を掴むと、オウカの目をじっと見つめ、屈んで近付いていたオウカの首に手を回して引き寄せた。
「タカト?」
「……ちょっとムラムラする、かも」
「っ!?」
ピシッと石になってしまったかのように固まってしまったオウカ。おれは笑って、彼の半開きになっている唇に、緊張で少し乾いてしまった自分の唇を押しつけた。
「んっ、んんっ……」
放心状態が続いているオウカの動かない舌を、口内に滑り込ませた舌で一生懸命に絡めようと動かしていると、ぴくっとその肉厚な舌が反応を示した。
「ふ、っ……んッ!? ンンッ!!」
ガッと後頭部を掴まれた一瞬、驚いて動きを止めたおれの舌が素早く巻きついてきたオウカの舌に捕まっていた。
まるで男根を扱くように器用に舌を動かしてくるオウカは、おれを逃がすつもりはないらしい。頭を押さえている手は離れず、舌を引っ込めようとすると更に深く口を合わせて強く吸われて放してもらえない。
「んっ、ちゅ、っんんんッ、ふ、ぁん、んむ、ッ、ん……」
オウカが舌を動かす度に、くちゅくちゅといやらしい音が響く。口内で絡め合うほど段々と水音が激しくなっていき、かぁっと顔に熱が集まる。
舌の動きに翻弄されて上手く息ができなくなってきて、身体から力が抜ける。縋りつくように首に回していた腕も滑り落ちそうだ。
そんなおれに気が付いたのか、最後にオウカは一際強く舌先を吸い、そうしてやっと濃厚すぎるキスからようやく解放された。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……」
腫れぼったくなった唇を閉じる気力もなく、ぼーっとする頭で荒く息を吐きながら口端から唾液を零していると、オウカがぺろっと舐め取る。そのまま、ちゅうっと唇を吸われてやっと意識が戻ってきた。
「は、激しすぎ……」
「お前が質の悪い悪戯するからだ」
悪戯だと宣うオウカを涙目で睨み上げると、おれの額を、痛くないけど衝撃の強いデコピンが襲う。
「いたぁッ!?」
衝撃を受け止めきれず、おれは仰け反ってそのままベッドに倒れ込んだ。
「さてと。ムラついてるタカトくんはこのままおねんねするか?」
おれを手足で囲むように跨ってきたオウカが、ニヤッと意地悪に笑う。それを見上げて、手を伸ばした。
「まさか。ちゃんと責任取ってくれるまで寝ないからな」
ちょい、とその可愛い耳を指先で引っ張って笑えば、オウカは上等だと牙を剥いておれの首元に食らいついた。
SIDE オウカ
キスで乱れた息を整えるタカトの顔がエロすぎる。
艶めかしく光る唇に吸い寄せられるように、その口端から垂れた唾液を舐め取って唇に軽く吸い付けば、怖いどころか愛らしく思える睨みを向けてくる。
好き勝手キスしたのは俺のほうなのに、感情は振り回されている。そのことに少しムカついてその額を指で弾いてやると、可愛い悲鳴を上げてベッドに倒れ込んだ。
額を押さえて悶えている可愛い恋人に覆いかぶさって挑発すれば、期待以上の答えを貰ってクラっときた。
「本当に、お前は煽る天才だよな」
「あッ、な、に……っ? あ、ん……ッ!」
「タカトは可愛くてエロいって言ったんだよ。ほら、ここを弄ればもっとエロくなるだろ」
「ああッ!」
股の間に身体を入れたせいで大きく両足を広げた状態になってしまっているタカトの男根を片手で扱きながら、胸の頂でほんのりと朱く染まっている乳首を弄る。
「オウ、カ……ぁ! も、むりぃ……! イク、ぅ、っ!」
「おっと。まだ我慢できるだろ?」
「んぁッ!? んん、ぅう……」
ビクッと跳ねた腰と更に硬く反ったソレから、本当に限界が近いことを察知して、俺は扱いていた手を離した。絶頂から遠ざかってしまったことを嘆くように震えている男根を見て、自然と下腹部が重くなる。
俺が与える快楽によって反応を見せるタカトの全てにそそられて堪らない。焦る気持ちを抑え、音を立てながらベルトを外して前を寛げる。
ベッドの上で恋人を押し倒し身体の下で乱れさせているにもかかわらず、お互いに服をほとんど脱いでいないことに興奮している。いつもは暑苦しくてすぐに脱いじまうからな……
目を蕩けさせて大人しく組み敷かれているタカトを見下ろしていると、今すぐにでもあの柔らかい肉壁に包み込まれてぎゅっと甘く締め付けられる感覚を味わいたくなってしまう。
「ふぅ……意外と拷問だな、これは」
「ぅ、オウカの、も……勃ってる」
開けたズボンの前から熱く猛った男根を取り出すと、タカトがじっと見つめて嬉しそうに呟いた。可愛いなこのヤロウ。
「当たり前だろ。だいぶ前から我慢してたんだぞ」
「ははっ……オウカって我慢できるんだぁ」
タカトがふわふわとした表情で笑うと、胸の奥から感情が湧き上がる。汗が垂れる首筋に噛みついて骨の髄まで齧り尽くしてしまいたい。そういう獣の衝動。
「ほんっと……お前は煽り上手だよ」
「ああッ――!!」
男根を重ね合わせてむちゃくちゃに擦り上げれば、タカトは頭を振り乱し喘ぎ声を上げる。身体を前に倒して尖りきった乳首を空いている手と口で愛撫すれば、更に激しく嬌声を上げて足がシーツを蹴る。強すぎる快楽に身体が無意識に逃げを打っているのか、乳首を甘噛みして舐めるおれを乳首から引き離すように、力の入らない手を頭に当ててきた。
「んんッ、ああ、ッ! ああ、ン、っは、ぁッ、ひッ……!!」
「逃げるなよ……タカト」
お仕置きするように強く乳首の根本を噛むと、タカトは悲鳴のような声を上げて仰け反った。刺激に震える乳首をひと舐めしてから解放してやれば、タカトは仰け反ったまま枕に頭を沈めて、可愛らしい喘ぎを零した。
男根と乳首から手を離し、力なくシーツの上に落とされていた両手を取りタカトの頭の両脇に押さえつけるように固定する。互いの先走りでベトベトになった手だが、そんなことを気にする余裕はない。むしろ擦りつけるように、指を絡めて握りしめ合った。
「タカト……!」
「んああッ……!!」
まるで入れているかのように腰を激しく動かして男根同士を擦りつけると、セックスの時のようにタカトが甘く啼く。その声を呑み込むようにキスで口を塞ぎ、ぐちゃぐちゃに舌を絡め合って呼吸を奪い合う。
その間も腰の動きは止めずに絶頂に向けて擦り合わせれば、元々限界が近かったタカトは身体を固くして今にも果ててしまいそうだ。けれど俺にはまだ刺激が足りない。
「ひっ!? ぃあ、んああ、ぅ、ああッ!!」
キスを止めるのは名残惜しいが、身体を起こして広げっぱなしになっていたタカトの足を掴み、太ももをくっつけてその間に男根を突っ込んだ。
すべすべとした肌はおれの先走りでどんどん滑りがついていき、体勢のせいもあると思うがまるで中に入れているような感覚になる。
「ぅッ……!」
痕が付いてしまうと一瞬思ったものの、結局は耐えきれずに太ももを持つ手に力を込めて勢いよく腰をタカトの尻にぶつければ、セックスの時の耳慣れた音が響く。
その音と男根への刺激と体勢が、俺を絶頂へと導く。タカトの快楽に蕩けた顔を真上から見下ろすほどに前のめりになって、俺は一際強く太ももの間に男根を突き入れて、タカトのモノを滑り合わせた。
「ッッああああーーーー!!」
「ぐっ、ぅ……ッ!!」
その瞬間、目を見開いてタカトが昇り詰める。絶頂の衝撃で力が入った太ももの締め付けに耐え切れず、俺も絶頂を迎えた。俺の男根から噴き出した白濁が、タカトの腹と男根にかかり、タカトの出したものと混ざり合う。
全身で息をするタカトが、ぼぉっとした表情で舌で舐め取ったのは、口元まで飛んでいた俺の精液。
「ん……まずい」
「は……はは……っ、そりゃそうだろ」
「まえは、おいしかったのに……」
神竜の魂を宿していた時はその影響で美味く感じていただろうが、今の正常な味覚にとっては不味くて当たり前だろう。
セックス後の色気も何もない、顔を顰めたタカトの不服そうな物言いが面白くて、俺はタカトに思い切り頭を叩かれるまで、その首筋に顔を埋めて笑い続けたのだった。
第二章
SIDE オウカ
セックスをしてもしなくても、タカトを胸に抱いて目を覚ました日はいつも以上に身体の調子がいいのだが、今日は一段といい。
思わず鼻歌を歌いたくなるほどの調子の良さに首を傾げながら、足取り軽く団長室に向かうと、部屋の主が書類片手に仕事をしていた。
背筋を伸ばして順調に書類を捌いていくその生真面目さに、事務仕事が苦手な俺は思わず不快な感情が顔に乗ってしまう。
「こんな朝から書類ばっかり見て気が滅入らないのか?」
「仕事だからな。心配してくれるのなら手伝ってもらおうか」
「お断りだ。俺はそういう作業が一番苦手だって知ってるだろ。手伝った挙句にお前になんだかんだと怒られるなんて御免だぜ」
「確かに、お前が提出した書類の三割は差し戻されて返ってくるからな。もう少し字は綺麗に書け。できないわけではないだろう」
ピラッと一枚差し出されて受け取ると、それは俺宛の請求書だった。そういえばこの前の近衛騎士団との合同訓練の時に、ウィリアムに煽られたせいで力加減を間違って、数本ばかり剣を壊したな……。あちらから苦情が来たとかで、ロイにめちゃくちゃ怒られた。
「壊した剣がこちら側の備品だったなら経費で落とせたというのに……今月の給与から引いておくぞ」
「仕方ないだろ……あっちの剣が脆いのが悪い」
「だから力を調整しろと言ったのだが。いい加減にウィリアムとの仲をどうにかしろ。合同訓練の度にあちらから請求書を渡される私の身にもなれ」
「訓練で壊れたんなら経費で落とせるんじゃねぇのか」
「一、二本だったなら、な」
じとっとした目で睨みつけてくるダレスティアから、俺は目を逸らした。
記憶では、一本や二本じゃなかった気がする……。ちらりと請求書を見れば、十という数字が。
「いくら竜の牙の訓練用の剣が通常より頑丈に作られているといっても、流石に壊しすぎだ。今度も剣を壊すようなことがあれば、ラシュド様に相談するからな」
「はぁ!? 分かった! 次からはちゃんと手加減するって!」
ダレスティアはやると言ったことは絶対にやる。次の合同訓練で一本でも相手の備品を壊せば、問答無用で親父に言いつけに行くはずだ。
最近の親父は俺の弟が生まれてから、それはもう浮かれまくっている。母さんが休んでいる間には乳母が世話をしてくれているが、それを側でずっと見ているらしい。乳母も苦笑していた。
子煩悩の父と化した親父は今、俺に対して当たりが強い。曰く、兄がこんなんではクーロや弟に悪影響だ! ということらしいが、今更だろ。
「はぁ……。孫がいるようないい歳のくせによ……浮かれすぎてて居たたまれねぇんだよ」
思わず愚痴を零しながら、ダレスティアに渡された羽ペンでできるだけ丁寧に請求書にサインをする。ふむ。これなら文句はないだろう。
納得の出来で手渡すと、ダレスティアは眉を顰め、ついでにため息を吐いて肩を竦めた。なんだその呆れたと言わんばかりの態度は。
「タカトが子を宿せるとラシュド様はまだご存知ないだろう? 息子であることには間違いないが、孫ができたような気分なんじゃないか? クーロが養子になったばかりの頃も猫可愛がりしていたと父上から聞いた」
「かもな……一応魔術塔からも子を宿せるというお墨付きも貰えたんだ。もう俺達の親には伝えてもいいんじゃないか?」
ぬか喜びさせてはいけないと、魔術塔での検査結果が出るまではそれぞれの親に言うのはやめておこうと話し合っていた。
おれが視線をやると、ダレスティアは小さく首を横に振った。
「いや、まだ待つべきだ。今、サファリファスが王宮内の制約魔法の結界を練り直している。設置してある魔道具のいくつかに劣化が見られたらしい。それと……不自然な細工の跡もな」
「細工?」
王宮には国家機密などを不用意に持ち出せないように、王族に誓いを立てていない者は機密と指定された情報を他人に共有することができず、王宮を出れば忘れてしまうという制約魔法がかけられている。
それは王宮に出入りする者は全員知っている。けれど、どうやって制約魔法がかけられているのかを知る者は少ない。
「前回の点検からそれほど経っていないのに劣化したということ。不自然な細工の跡があるということ。この二つの事実から導かれることは何か……分かるな?」
「……アイツか」
ゼナード伯爵……いやもう爵位をはく奪されているからただの大罪人ゼナードか。あの不愉快な顔を思い出してしまい、俺は無意識に舌打ちした。
ダレスティアは誰のことを言っているか分かったらしく、同じく険しい表情で頷いた。
「ああ。細工跡から見て、細工をされたのは神子召喚の儀の頃……タカネ様が誘拐された時じゃないかと睨んでいる。あの時は全騎士団がタカネ様の捜索に力を入れていて王宮内の騎士も少なかった。その隙に、あの男が使役していた魔術師が細工をしたのではないかとサファリファスは疑っている」
「あの時か……確かに緊急事態だったから警備はいつもより疎かになっていた可能性はある。まぁ、それは近衛騎士団の責任だがな」
「警護対象にまんまと出し抜かれて家出された挙句、アイルにその手助けをされていたという衝撃もあって動揺していただろうがな。そのせいで全ての警備が疎かになったとしても庇いようがないが、事の発端はタカネ様とアイルが悪知恵を働かせて家出したことだ。今となってはもう言うだけ無駄なことだがな」
神子脱走事件は、王国の歴史に残る出来事だ。あの時は神子が脱走しただなんて、なんの冗談かと思ったものだが、捜索の命令が出て思わず聞き直したほど驚いたことを覚えている。
あの時はまだ、タカトのことを好きになってはいなかったんだよなぁ。あのダレスティアとロイが夢中になっていて面白いなとは思っていたが、まさか自分も落とされるとは思っていなかった。今じゃ、ありえないほど虜だ。
しかし、あの時に魔道具に細工をされたとなると相当前から準備をしていたということになる。
「恐ろしい奴だな本当に」
「タカトがタカネ様と再会した後、あの男と出くわした。陛下に紹介した際に目を付けたのだろう。あの男の口からタカトのことを聞きたくはないが、この件は余罪として王都の裁判所に持ち込むつもりだ。サファリファスは、あの従者が裁判所に引き取られてしまって自分で聞き出せないことを悔しがっていたが」
「坊ちゃんはなぁ……多分尋問用の魔法薬とか魔道具を使いたいんだろうよ」
誰に使うつもりなのか分からないが、最近やたらと強い自白剤やら催眠魔道具を作っていることは知っている。また工房が散らかってエイベル様に怒られるんだろうぜ。
「だから、制約魔法の魔道具が直るまではタカトのことは黙っていたほうがいい。ラシュド様が大喜びで孫ができると言いふらさないとも限らない」
「お前は親父のことどう思ってんだよ……」
そう言いつつも、今の親父なら言いふらしまくる可能性も否定できない。
俺達の関係は公表していないとはいえ、前の噂のこともある。タカトと関係があるらしい俺。その父親である親父が「孫ができる」と言っていたら、タカトが子を産めるという事実が、また前のように噂として独り歩きしてしまうことも考えられる。
親父は王都に戻ってきて最近は古巣の騎士団に顔を出すことも増えているから、ありえないとは言い切れないな。
「以前、タカトの噂が流れたのも、魔道具が上手く作用していなかったせいだと聞いている。あれが作動していれば、タカトについての話は王宮内に留まり、自然と消滅していたはずだ。陛下との謁見の後に、タカトのことを機密だと陛下が魔道具に記録する魔法書に記されたからな」
「はっきりタカトのことだと言わない噂話は社交界で囁かれたかもしれないが、あれほどタカトを示すこととして広まることもなかったはずってことか」
「ああ。それをおかしいと思っていたリノウ王子が調査を続けていらして、魔道具を個人的に調べたようだが、おかしな点は見つからず。だが違和感が拭えずに魔術塔に調査を命じて、サファリファスが巧妙に細工されて劣化させられていたことに気が付いた。つい最近の話だ」
制約魔法の魔道具を弄るだなんて、王宮どころか王国の平和を乱す行為と判断されて、更に罪が重なることになる。実行犯は死んでも牢屋から出てこられないんじゃないか?
俺はただ、坊ちゃんが作っている自白剤や催眠魔道具を強制的に受け取らされる尋問官と、使われる従者の男に哀れみの念を送るだけだ。
あーあ。タカトに癒されてぇー……
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