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4章

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「それで、俺に仕事をおしつけて行った茶会は上手くいったのかよ」

不機嫌ですと言わんばかりの表情で小石を蹴飛ばすようにして飛んできた言葉を、苦笑しながら受け止めた。まるで留守番で置いて行かれた犬のような不貞腐れ方だ。

「ごめんってオウカ。ミネア様からのお誘いはおれとダレスティアとロイにだったし、誰かが宿舎か王宮に残っていなきゃいけないだろ?」

そう言って宥めるように抱きつけば背中に腕はまわるもののいつもの力強さはなく、ご機嫌斜めは簡単には治らないらしいと眉を下げた。

「お前は来なくてよかったと思うが」
「ああん?」
「母上がいらした」

その瞬間、オウカの身体がビクっと反応した。顔を見上げれば、嫌そうな表情を隠すこともせずにダレスティアに視線を向けていた。

「クロエ様が?」
「ああ。ミネア様が気をきかせてくださったらしい」
「あ~……なるほどな。確かクロエ様とタカトの顔合わせはまだだったな。しびれをきらしたってとこか。そりゃ、俺は行かなくて正解だったかもな……」

オウカはクロエ様と交流があると分かっていたけれど、露骨に嫌そうな顔をしたことと行かなくて正解という言葉がひっかかった。

「オウカ副団長は、ダレスティア団長のお母上と何かあったのですか?」

カーネリアン邸に馬車を返していたロイが首を傾げながらこちらに歩いてきた。少し遠いところにいたのに話の内容が聞こえていたのかな。流石、元竜の眼。
その質問はおれも気になったことだったから、抱き着いたままだったオウカから離れてロイと一緒に彼の顔を見つめると、オウカは気まずそうに後ろ髪を掻きながら口を開いた。

「ダレスティアには悪いが、苦手なんだよなぁ……あの独特な雰囲気が落ち着かないっていうか……単純に相性が悪いんだよ。母さんは仲が良いが、俺は会話もまともに続けられねぇ」
「昔、カーネリアン邸でたまたま母上と二人きりになっていたお前を見たことがあったが、あれほど気まずそうにして冷や汗をかいている姿を見たのは初めてだったな」
「しょうがねぇだろ……あの時は逃げ出したくてもクロエ様を一人にするわけにはいかなかったしよ。元気なことは結構だが母さんを困らせることはほどほどにって説教されてたりしたんだぜ?」
「今会えば昔より叱られるかもしれないな。ミネア様が謹慎癖のことを母上に相談していたぞ」
「母さん~……!」

オウカの耳と尻尾が垂れた。どうやら本当にクロエ様のことが苦手なようだ。
ロイと目を見合わせると、彼もおれと同じように笑みを浮かべていた。けれどどうやら思い浮かんだことは違うようだ。ロイは揶揄うような色を目に宿して微笑んでいた。
オウカが縮こまって接する相手なんてほとんどいない。おれは気まずそうにお茶の相手をするオウカの姿を思い浮かべて笑ってしまったが、ロイは弱みの一つを手に入れたという笑みかもしれない。
未だ落ち込んだままのオウカに哀れみの目を向けていると、突然誰かに手を握られた。手の先は辿れば、ダレスティア。

「ダレスティア?」
「……私はこれからオウカが作成した書類の確認作業を行う」
「う、うん」
「絶対に俺がやらかしているみたいな言い方だな、おい」
「先日盛大にやらかした人の言葉とは思えませんね」
「わ、悪かったっての! あの後も散々謝っただろ!?」

じろっとダレスティアを睨んだオウカがロイにチクチクとやり返されている様子を傍目にダレスティアは何事も起きていないように口を開いた。スルースキルが極まってきてるなぁ……

「夕食までには終わらせるつもりだ。先に食べて部屋で待っていてくれるか」
「…………」
「タカト?」
「あ、ダレスティア! 何言ったんだよ! タカトの顔真っ赤だぞ!」
「本当に真っ赤ですね……相変わらず団長には滅法弱いですねぇ、タカトは」

ダレスティアからの夜のお誘い、改めて真正面から浴びると威力が強すぎる……
顔が茹でられたように熱く、真っ赤になっていると言われるのも頷ける。
心配そうに顔を覗き込んできたダレスティアに、おれは握られたままの手を握り返して「待ってる」とだけ小さすぎる声で返した。
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