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番外編

その狼の愛は止まることを知らない 1

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この番外編の時間軸は、神竜の卵が孵る少し前から、竜王の儀までの間です。
メインキャラはオウカです。
お楽しみいただけたら、幸いです^^




俺がゼナード伯爵の元から救出されてから少し経ち、もうすぐ竜王の儀が行われる。神竜の再誕を心待ちにしている竜王は、ほぼ毎日貴音をせっついては卵の様子を眺めに来る。そしてもっと卵に魔力を注げと一言二言文句を言うだけ言って、去っていくのだ。正直な気持ちを言えば、とても面倒くさい。

「タカト、水もらってきたぞ」
「あ、おかえり。ありがとう」

水を取りに行っていたオウカが戻ってくるなり、おれの顔を見て心配そうに眉間に皺を寄せた。

「どうした? ムッて顔してたぞ」

ムッて顔……確かに不満そうな顔してただろうけど、表現が可愛すぎだろ……って思いながらオウカを見上げると、恥ずかしそうに頬を染めながら水が入ったコップを差し出していた。

「……子犬の言い方が移った」
「……ふ、あははッ!」

クーロと一緒にいることが多いから、クーロの話し方が移ったのかぁ。どうりで可愛いわけだよなぁ。

「笑うなよ! もっと恥ずかしくなってくるだろうが!」
「ごめんごめん。でもクーとは良い兄弟になってるみたいで、おれも嬉しいよ」
「兄弟って言ってもなぁ……俺はこれまでと何も変わっちゃいねぇよ。子犬の方が、変化を感じることが多いだろうな」
「そっか」

クーロは、話が出てからトントン拍子でカーネリアン家の養子となった。今はクーロ・レイ・カーネリアンとしてのデビューを目指して勉強を頑張っている。クーロは頑張り屋だから、頑張りすぎていないか少し心配だ。

「それで、お前は何であんな顔をしてたんだ?」
「あ~……」

先ほどまで頭を悩ませていたことを思い出してしまい、ため息をつくと水を一気飲みした。

「別に大したことじゃないんだけどさ」
「おう」

空になったコップをテーブルに置いて、ごろんっとベッドの真ん中に仰向けで両手を広げて横たわった。

「なんだか姑みたいだなぁって思ってたんだ」
「姑? 誰が」
「竜王」
「ぶはッ! お、お前っ、く、はははっ! あの竜王を姑呼ばわりか!」

大笑いしながら俺の横に勢いよく腰を下ろしたオウカを睨みつける。おれがさっき笑った以上に笑うじゃん! こっちの方が深刻なのに!

「笑いごとじゃないんだけど!」
「いてッ⁉」

お仕置きで尻尾を掴んでやる。もふもふな大きい尻尾は、今日も手入れが行き届いていて良い触り心地だ。そのまま尻尾を抱き締めてやった。抱き枕にしてやる。

「まったく、頼むから引っ張るなよ?」
「ん」

文句を言いながらも払いのけない優しさに、遠慮なく甘えることにした。事後のオウカは、いつも以上に甘やかしだ。

「竜王が神竜のことを大切にしているから、心配なのは分かってるんだよ。だけど、あんなに毎日来られちゃ、ストレスで倒れそうだよ」
「確かに、ちょっと過保護かもな」
「ちょっとどころじゃないよぅ……」
なんか、毎日社長が部署に顔出しに来るみたいな感じだな……うっ、この例えは想像しただけで姑より心にくる……
「あと、貴音も多分相当キてると思う」
「神子さんが?」
「うん。竜王の儀の為にやらなきゃいけないことがあるのに、竜王に振り回されてるからさ、そろそろ限界じゃないかなぁ」

貴音は気が長い性格とは言えない。どちらかと言えば、気が短い方だ。そんな貴音がこれまで竜王のしたいようにさせていたのは、単に神竜を想う竜王に萌え……感動していたからだろう。

「だから、来るとしても明日が最後だと思う」
「だといいな」

優しい声音に、頭をわしゃわしゃと撫でる手つきに、急激に眠気が押し寄せてきた。

「タカト、眠いのか?」
「うん……オウカも一緒に寝る?」
「あ~、後が怖いが……まぁいいか。ほら、もっとそっちに寄れ」
「ん」

ごそごそとベッドの上で体勢を整えるおれ達の間に、甘ったるい雰囲気はない。けれど、腕の中から抜けていった尻尾の代わりに、おれを胸元に抱きしめるオウカから伝わる体温と心臓の音がこの上ない安心感を与えてくれる。

「おやすみ、オウカ」
「あぁ。おやすみ」

すっと穏やかな眠りに落ちていく。
さりげなく腕枕をされていたことに気が付くのは、少し騒々しい朝を迎えてからだった。
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