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3巻
3-2
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その任務を終え、さらにラーニャの当主としての地盤がある程度固まった今、竜の牙がこのアルシャとミレニア地方の再建を手伝う必要がなくなった、という判断が下されたのだと聞いた。
竜の牙の後を引き継ぐのは、獣人の団員が多い竜の尾。
ミレニア地方は獣人が多く、オウカ達獣人の騎士のほうが人間の騎士よりも民衆に馴染むのが早かった、ということもあり、竜の尾に決まったらしい。
どうやらこれはラーニャとオウカの意見だったと聞いた。
これを聞いた時、オウカもちゃんと働いていたんだなぁ、と思ったのが顔に出てしまい、サファリファスを笑わせ、不貞腐れたオウカにデコピンされたのは記憶に新しい。
「街の様子はどうですか?」
「安心して暮らせるようになるのはまだまだ先かな。それでも裏道の清掃と窃盗団の捕縛はだいぶ進んだよ。それだけでもかなり変わるはずさ」
「お友達も手伝ってくれてるんですよね」
「そうだね。アイツらには本当に感謝しないと。これまでもずっと俺を支えてくれて、これからもずっと一緒にアルシャの街を守っていくと誓ってくれたんだ。そんな友人達は得難いものだけど、なんだか気恥ずかしくてさ」
なかなか言葉にできないんだ、とラーニャは照れるように微笑む。まるで青春だ。おれにもそんな友人が欲しかった……!
「気持ちは分かりますよ。大人になると簡単に言葉にできなくなりますよね。特に身近な人にほど。ありがとう、なんて、たった数文字の言葉なのに」
「そうなんだよ……どうしてだと思う?」
「どうしてですかね、おれにも分からないです。でも簡単で大事な言葉こそ、ちゃんと伝えないといけないってことに気が付いたんです」
おれはラーニャを部屋に招き入れ、部屋の窓からアルシャの街を見下ろした。この部屋からはアルシャの街が一望できる。沈んでいく太陽に照らされて、赤土の街が更に赤く存在感を放っている。
本当に綺麗な街だ。
「綺麗な街ですね」
「……うん。俺の自慢の街だよ」
「この綺麗な街を仲間達ともっと良い街にしていけるだなんて、羨ましいです。だから気恥ずかしいけど言ってみましょうよ。ありがとうって。これからもよろしくって」
いつの間にかラーニャも隣に立って街を見下ろしていた。静かに街を見るその目は太陽に照らされて、瞳の中で炎が揺らめいているようだ。
「そうだね。うん。これからも、この街を守る仲間として……」
「はい。言葉にするのは大事です。口にしないと伝わらないんですから。それに、ありがとうって言える人ってかっこいいと思うんです。気恥ずかしい言葉こそ、さらっと口にできると大人って感じがして」
おれはこの世界に来る前の社畜の日々を思い出す。何を頑張っても感謝の言葉が返ってくることはなく、むしろ文句ばかり飛んできた。
目の前にある仕事はやって当たり前という風潮だったから、たった一言「ありがとう」すら同僚からかけられたことがなかった。同じ会社に勤める仲間なのに、信頼関係はなかったように思う。
時々営業で出向いた会社の社員達が仲良くしているのを見て、羨ましかった。
結束が強い関係でも言葉足らずで仲違いすることはよくある。だからこそ、ラーニャとその友人達にはそんなことになってほしくない。
「……ラーニャさん?」
「いや……そうか。かっこいい、ね。うん、そうだね。確かにかっこいい」
黙って街を見ていた間に、陽は急ぐように地平の下に沈んでしまっていた。それなのに何故かラーニャの頬は夕日が当たっていた時よりも赤くなっていた。
……働きすぎて熱が出たのかな? 過労、ダメ、絶対。
おれが首を傾げていると、ラーニャは思いついたように猫耳を立てて、おれを見た。
「今日は君達がアルシャで食べる最後の食事だから、いつもより豪華にしてもらったよ。ぜひ、楽しんでね」
「……ワニ肉じゃない?」
「ハハっ、多分違うよ! でも期待しといてくれって料理長が言ってたから、とびきり美味しいと思う」
おれはしばらくワニ肉生活だったことを思い出してしまう。どうやらそれが顔に出ていたらしく、ラーニャは笑っていた。
そこからもう少しだけ話をして、ラーニャは部屋を出て行った。
途端に部屋は静寂に包まれる。
窓の外を見ると、暗い街並みの中で明るく輝く道が浮かび上がる。一日中灯りが消えることのない市場だ。
ロイには怒られたけれど、市場での買い物はとても楽しかった。
物珍しい品物ばかりで、王都の商人よりも商魂たくましいアルシャの商人の謳い文句で衝動的に買ってしまいそうになったおれを、オウカとサファリファスが落ち着かせてくれた。
買い食いしたことがないサファリファスが、初めて屋台飯を食べる様子を微笑ましく見守ったりもした。おれ達の視線に気が付いたサファリファスに怒られたけど。
一度息抜きと称したラーニャがついてきて、穴場のお店を教えてもらったこともあった。
ラーニャに話しかける市場の人達はみんな気心知れた仲で、自然に笑っているラーニャを見て、ゲームのストーリーのように街が壊滅する展開にならなくて良かったと実感した。
ダレスティアと市場に行った時も面白かった。
視察をしながらの散策だったからあんまりゆっくり見られなかったけれど。おれに似合うからと目についた物をなんでも買ってしまいそうになるダレスティアを慌てて止めて、なんとか堪えてもらうのが大変だったなぁ。
視察するダレスティア達についてきただけだから楽しむことは一切考えてなかったけれど、おれのために精一杯楽しませようとしてくれたダレスティアの心遣いがとても温かくて、その優しさにまた惚れそうになった。ロイとだけ市場に行けなかったのは残念だけど……
ふいに先ほどロイに怒られたことを思い出す。
……もしかしてあれは仲間外れにされたことに対して怒っていたのかもしれない。
と、そんなことを考えていると、新たな来客が現れた。
ノックされた扉を開けると、そこには今しがた思い返していたロイがいた。
「あの、タカト……」
「ロイ! どうしたの? もしかしてもう夜ご飯?」
日が落ちたとはいえ、まだ夜ご飯には早い。
疑問に思いつつロイの返事を待っていると、ロイは何やら言いづらそうに口ごもった。いつもはきはきと話すロイがそうなるのは珍しい。どうしたんだろう。
「いえ、食事はまだです。あの、そうではなくて……」
「ん?」
ロイは何かを言おうとして、またしても口を噤んだ。目元が少し朱く色づいている。恥ずかしがっているように見えるけど、怒ってるのかな。もしかして、オウカがまた脱走したとか?
「ロイ、何かあったの? オウカがまた逃げ出した?」
「いえ、オウカ副団長はハクを監視役につけたので大丈夫です」
「とうとう監視をつけられたんだ……」
オウカの監視役に抜擢されてしまった不憫なハクくんに、心の中で手を合わせた。頑張れ。
「副団長は関係ないのです。いえ、まったくないと言えば嘘になりますね……。市場に行った件なのですが」
「ああ! あれは十分反省してます。ごめんなさい」
「そうではなく! 謝罪はもういただきましたし、タカトも反省していることは分かってますから。……私も一方的に怒りすぎました。オウカ副団長が仕事をサボってタカトとデートしていたと思ったら、タカトを責めることばかり口にしてしまいました。申し訳ございません……」
「えっ!? ロイは何にも悪くないんだから、謝らないでよ! オウカが仕事をサボったのが悪いんだし……おれこそ、頑張ってるロイのことを考えずに遊びに行っちゃってごめん」
「タカト……」
「王都に帰ったら、ゆっくりデートしよ?」
「……二人だけで?」
「うん。二人だけで」
二人きりのデートを約束して嬉しそうに微笑むロイにきゅんときて、思わず抱きついた。
そうだよ。デートだよ。おれ達、もうちゃんとした恋人だもんね。
おれの彼氏様は三人。いわゆる普通の恋人関係ではないけれど、彼らにとっての恋人はおれだけなんだ。王宮に出回った噂みたいにふしだらな関係と思われても仕方ないけれど、三人におれを選んでくれたことを後悔させないようにおれは誠実に向き合うべきだ。
――つまりは、積極的に愛を伝える!
「ロイ、愛してる!」
「え」
「愛してるよ!」
「……っ!」
おれがじっとロイの目を見つめると、彼の眦が朱に染まり、頬も赤くなっていく。
ロイの貴重な照れ顔、いただきました!
「わ、私のほうが愛しています!」
照れてしまったことの恥ずかしさからか、若干涙目になっているロイの可愛さがヤバい。初めてロイが年下ってことを自覚した。いつも有能なかっこいいロイが可愛い。よしよししたくなる。
「ロイ、真っ赤じゃん。いつもは涼しい顔のくせに」
「タカトがズルいんです! 貴方こそ、いつもは愛してるだなんて言わないのに……なんだか悔しいです」
「あはは、おれはロイの反応が可愛くて嬉しいな」
「……挽回します。かっこいいって言わせてみせますから! ついてきてください」
揶揄いすぎたかな? おれは部屋を出て、ぷんぷんと効果音が付きそうな怒り方をしているロイの後ろを言われた通りついていく。
時々チラチラとおれを振り返るロイがまた可愛い。なんだか今日はロイがめちゃくちゃ可愛い日だな。
ちゃんと飼い主がついてきているか確認する犬のようだと思って和んでいると、その視線に気が付いたのか、ムッとしながらおれの手を握って隣に並んできた。
「……嫌ですか?」
「嫌じゃないに決まってるだろ」
不安そうにおれを見る目は相変わらず不安そうな犬のようで、おれは笑顔で手を握り返した。手を離すなんてことは、絶対にしない。
いつもと違うロイの姿は新鮮で、これもまた恋人の特権だな、とおれは上機嫌にロイと繋いだ手を振り回して、歩を進めた。
「すご……」
「タカト、あまり身を乗り出しすぎないように。危ないですよ」
おれはロイに連れられて、建物の屋上に来ていた。
ロイが落ちないようそっとおれの両肩に手を置いてくれていたが、そのお礼を言うことも忘れるくらい、目の前の景色に目を奪われていた。
「今日、東西南北の全ての市場の店が営業を再開したんです。暴徒によって破壊されていた店舗もありましたので時間がかかりましたが……」
市場を利用する市民を暴徒から守るために街の外に移動させていた商店が、今日全て、元の場所に戻ったらしい。市場が完全復活したお祝いに、今日は夜通しお祭りなのだとか。
もちろん、羽目を外しすぎないように見回りする人達はいるみたいだけど、それでも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「屋上って入れたんだね。知らなかった」
「事故が起こらないよう基本的には施錠されていますが、建物の管理者にお願いして鍵を借りました。以前は年に数回、街全体でお祭りをしていて、その時はここからその様子を楽しんでいたと管理者の方が仰っていたので」
「特等席だね。街全体が見渡せるし、綺麗な夜空も近いし」
空を見上げると、元住んでいた場所ではなかなか見られなかった綺麗な星空。視線を下ろすと、市場の灯りで街全体が明るく照らされ、楽しげな笑い声と音楽が至るところから聞こえてくる。
先ほどラーニャと一緒に窓越しに見てはいたが、遮るものが何もないところで見ると、また雰囲気が変わるみたいだ。
「本当は連れて行って差し上げたいのですが……」
「分かってる。流石にあんなに人がいたら迷子になりそうだし難しいよね。でも、むしろここからの景色のほうがレアでしょ!」
市場には本当にたくさんの人達がいるのが分かる。おれがあの中に入っていったら迷子は確定。加えて人酔いでダウンしてしまうだろう。だからここから王様気分で楽しむのは、おれ的にも大正解の楽しみ方だ。
おれの言葉に安心したようで、ロイは微笑んだ。
アルシャの任務において、ロイは事務仕事が多かったと聞いている。ダレスティアみたいに市場に行く機会もなく、オウカみたいに勝手に行動することが性格的にできない彼にとって、昨日の今日で精一杯できることがこれだったのだろう。
嬉しさと愛しさで胸の奥がキュウと甘く痛む。思わず、まだ両肩に置かれていたロイの手を引っ張り、体の前に回した。後ろから抱きしめられる形になり、背中にはロイの体温を感じる。
「タ、タカト!?」
「ロイ、ありがとう」
胸の前で握りしめたロイの手を、更にぎゅうっと握り込む。一瞬ロイの手が強張ったが、すぐにおれの手を優しく握り返してくれた。
「喜んでいただけたのなら、嬉しいです」
「ロイから貰って嬉しくないものなんてないよ」
「……その言い方はズルいですよ、タカト」
それからおれ達は、おれ達を探しに来たオウカに見つかるまで、二人静かに美しい景色を楽しんだ。
オウカに呼ばれ向かったのは、どんちゃん騒ぎの夕食会だった。ラーニャは竜の牙の幹部だけじゃなく、団員達全員に食事を用意していたらしい。
規律に厳しいダレスティアとロイから放たれた「今夜に限り、迷惑をかけない範囲での無礼講を良しとする」という発言は、団員達のテンションを最高潮まで上げるには十分だったようだ。
あれほど目をキラキラ輝かせるみんなを見たのは初めてかもしれない。
竜の牙がアルシャでの本拠地として使っていた建物の前の広場で行われた食事会は、これまで見たことがないほど盛り上がっていた。
夜通し開いている市場からも酔っ払って怖いものなしになったアルシャの住民が飛び入り参加してきたり、マッチョ団員達の筋肉自慢大会になったり、酔ったロイとサファリファスがオウカに絡み酒したり、おれを見て微笑むダレスティアがエロさマシマシになってしまったり……
その結果、翌日、竜の牙はほぼ全員が二日酔いに悩まされることになってしまった。
「無礼講とは言ったが、まさかここまで悲惨なことになるとは……」
「ま、まぁまぁ。みんな今回の任務頑張ってたし、街全体がお祭りの雰囲気だったから、ちょっと羽目を外しちゃっただけだよ」
翌朝の広場で繰り広げられた惨状を見て、ダレスティア様ご立腹である。
ただ、ダレスティアは昨夜の時点でこうなる予感がしていたようで、既に出発が遅れることは王宮に報告済みらしい。
流石仕事ができる男。
……それでも流石に本当の理由は書けなかったみたいだけど。
「だとしても、ほぼ全員が二日酔いとは……。ロイまで潰れたのは予想外だった」
「アルシャのお酒、強かったからね。ダレスティアは結構呑んでたけど平気なの?」
「私は酒で酔ったことがないな。身体は熱くなるが、頭は冷静だ」
「流石ダレスティア……お酒にも強いんだね」
「私としてはタカトが酒に強いことが驚きだ。結構呑んでいただろう」
ダレスティアが目を瞠っておれを見る。
ふっふっふー。そこは社畜時代の接待で身につけた技のお陰なのである。
「途中からめちゃくちゃ水入れて薄めてた!」
接待の場ではこっそり従業員に根回ししてたけど、昨日はそんなことする必要もなかったから楽だったなぁ。
「なるほど。それはいい案だな」
ゆるりと細められた眼が、なんとなく甘くて気恥ずかしい。
おれは、照れそうになるのを誤魔化すように、手に持っていた荷箱を荷馬車の奥に思い切り押し込んだ。
「よっと……もうあとこれだけ?」
「あぁ。補給班の仕事を手伝わせてしまってすまないな」
「気にしないでよ。おれも手持ち無沙汰だったし、こうやってダレスティアとおしゃべりできたから、問題なし!」
「……そうか」
ダレスティアの表情が明るくなったのを見ると、おれの気分も上がる。
やはり推しには笑顔でいてほしいからね。これが笑顔かと言われると微妙だけど。ダレスティアの笑顔はレア度高いんで……
その後、なんとか昼前に全員が体調を復活させたことで、アルシャを旅立つ準備が整った。
ダレスティアとオウカ、その他の団員達は竜で王宮に戻り、おれとサファリファス、ロイは転移魔法で帰ることになっている。
転移魔法は魔法陣に魔力をたくさん入れる必要があるのだが、転移する人達の魔力に影響されやすいことが分かった。
極端に魔力が多い人が複数いると、魔法陣に補給される魔力に影響を与えてしまい、座標がズレやすくなってしまうらしい。
サファリファスは外せないため、ロイとオウカで話し合った結果、オウカは竜で帰ることになった。
「先に王宮で待ってるから。気を付けて帰ってきてね。家に帰るまでが遠足だよ!」
「遠足じゃなくて遠征だっての! 俺とダレスティアがいるんだから、安心して待ってろ」
「ふぁーい」
揶揄ったことへの腹いせか、おれはオウカにほっぺをみょんみょんと伸ばされている。一応返事をしてみたものの、気の抜けた声になってしまった。
それをさせた本人が大笑いしているのがなんだか悔しくて軽くオウカの脛を蹴るも、固い筋肉にバリアされてしまった。
「見せつけてくれるねぇ。お熱いことで」
そんな風に戯れていると、突然見知った声が聞こえた。
「ラーニャさん! これは虐められてるんです!」
「虐められてるのはどう考えても俺だろ」
「神子様と君の世界ではそういうのをラブラブって言うんだろ?」
貴音さん!? ほんとに何教えてるの!?
反論しようにもラーニャはニヤニヤしてるし、ダレスティアとロイは「らぶらぶとは……?」「あとで神子様に聞いておきます」とか不穏な空気醸し出してるしで、場がカオスになってしまった。
「それで、ラーニャさんはどうしてここに?」
「あ、そうそう。忘れるところだった」
おれ達をニヤニヤしながら見ていたラーニャが、二つの小さな巾着をおれに手渡した。
「これ、神子様と君にあげるよ」
「なんです、これ?」
「ミレニア地方に伝わるお守り。この真ん中の石が災いから身を守ってくれるんだよ」
受け取った巾着の片方を開ける。
そこには夜空の色をした丸い石が三つ。中央に穴が開けられて皮ひもが通されたブレスレットが入っていた。三つのうち真ん中の石がやや大きく、端のものは小さい。
シンプルだけど綺麗なブレスレットで、貴音が好きそうなものだった。
「ありがとうございます! 貴音も喜びます!」
「君達には本当に助けられたからね。アルシャの街が無事でいられたのも、神子様とタカトのお陰だ。こんなものしか用意できなくて、アルシャの当主としては面目ないけど……」
「気持ちだけでも嬉しいです。貴音なんて、喜びすぎて走り回りそう」
「神子様にもよろしく伝えてくれ。彼女には返しきれないほどの恩があるのに、俺は失礼な態度ばかり取ってしまっていたから……。本当は直接言いたかったんだけど、伝えるタイミングがなくて」
それは傷心中だったラーニャに構いまくった貴音が悪いんだから、気にしなくてもいいのになぁ。
ラーニャは本当に優しい人だ。改めて、アルシャが滅ばなくて良かった。闇堕ちラーニャはゲームでも見てて辛かったから。
「貴音にしっかり伝えておきます。おれ、アルシャの市場をもっと見て回りたいんです。またアルシャに来るんで、その時は貴方の自慢の街を見せてください」
「……あぁ」
ラーニャは、眩しいものを見るように目を細めた。陽が眩しいのかな。
あれ、でも陽は今は真上に――
そう思っていた矢先、体に強い衝撃が走った。
「ラ、ラーニャさんっ!?」
つらつらと考え込んでいたおれは、気が付くとラーニャに抱きしめられていた。驚いて、咄嗟に持ち上がった手をどこに置けばいいのか分からず、ワタワタしてしまう。
「はぁ……まったく。本当に良い匂いだね、君。食べちゃおうかな」
「ひぇっ!?」
耳に直接吹き込まれたセクシーな声に、おれの心臓はバクバクだ。……イケボすぎる!
「そこまでだぜ」
「うわぁっ!!」
すぐに襟元をぐいっと後ろに引っ張られたと思ったら、今度はオウカに後ろから抱きしめられていた。スリスリとおれの頭に顎を擦りつけている。オウカの顔を見上げると、どうやらラーニャを睨んでいるようだ。
「最後の最後にマーキングしやがって」
「ははッ。ちょっとした悪戯と贈り物だよ。口実ができてよかったじゃないか」
よく分からない会話が頭の上で繰り広げられている。どういうことかと首を傾げるも、オウカはそれから黙ったまま不機嫌そうにおれの髪をわしゃわしゃと撫で、団員達が待つ中庭へ行ってしまった。
「もう、なんだったんだ?」
「そのうち分かるよ」
楽しそうな声色に、ラーニャがオウカを揶揄ったということは分かった。でもおれを使うのはやめてほしい。
反抗するようにラーニャを睨むと、彼はそれはもう楽しそうに笑んでおれの頬を撫でた。
「そんな顔で睨まれても、子猫に威嚇されてるようにしか思えないよ」
「ひどい!」
「タカト、そろそろ私達も行きましょう。貴方も、反応が可愛いのは分かりますが、タカトで遊ばないでください」
知らぬ間にやってきたロイもなんだか不機嫌そうだ。おれの側に来たかと思うと、ラーニャの手を軽くだけどはたき落とした。オウカはともかく、ロイは何がお気に召さなかったんだ?
「イタタ……まったく、お姫様より守りが固いね、タカトは」
ラーニャはやれやれとため息を吐く。
しかしすぐに真面目な表情に戻り、おれに手を伸ばした。
「でも、これまでアルシャを助けてくれるために動いてくれて、ありがとう。タカトが気軽に遊びに来られるようなアルシャにするから、待っててね」
自信に満ちたその言葉に、おれはなんだか感動で胸が詰まって、伸ばされた手に握手して、頷くことしかできなかった。
第二章
「おかえり~」
転移魔法陣の眩い光が収まり瞑っていた目を開けると、目の前にいたイケおじラーニャが爽やか王子様アイルになっていた。
「アイル王子に直々にお迎えいただけるとは」
「ロイが聞いていたのは近衛騎士団の何人かが迎えるって話だったでしょ? 彼らは今、兄上達の手伝いで忙しくて手が離せないんだ」
そう言うアイルも疲れているように見える。もしかして、無理して迎えに来たのかな。そうだったら申し訳ないな。
でもアイルはそういうの隠すの得意だから、分かりづらいんだよなぁ。そう思って一応聞いてみることにした。
「じゃあ、アイル王子も忙しいんじゃ? なんか疲れてるようにも見えますけど……」
「いやぁ、参ったよね。リノウ兄上が張り切っちゃってるせいで俺もこき使われてるんだよ。お陰で女の子と遊びに行けなくて俺の心は枯れそうだよ」
泣き真似をしながらよどみなく愚痴を零すアイルに、おれとロイは顔を見合わせて笑みを交わした。
「お元気なようで安心いたしました」
「ロイ、話聞いてた? 全然元気じゃないんだけど」
「これで色ボケが治ると良いですね」
「相変わらずの毒舌だね、サファリファス。タカト~、二人が虐めてくる~」
「たとえ遊びでも貴音に手を出したら許しませんよ」
「……いくら女の子が好きだからってそんなに命知らずじゃないよ!?」
一瞬、返事に間があったのが気になるんだけど?
アイルに「宿舎に戻る前に寄るところがある」と先導されて王宮内を歩いているうちに、おれ達がアイルを揶揄う遊びに変わっていた。
ロイとサファリファスのSっ気が垣間見えているものだから、可哀想だなとちょっとだけ憐れんでいると、ふいにアイルが振り返った。
分かりやすく拗ねたような表情……おれはこの顔に見覚えがある。
そうだ、これは恋愛ルートか友愛ルートかの分岐点で、友愛ルートを選ぶと見られるスチルの顔だ。
つまり、貴音はアイルとの恋愛ルートは選ばなかった、ということになる。
「……アイル王子、貴音と何かありました?」
「……あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったかなぁ」
つまりは、この王子様はやってくれやがったのだ――夜這い事件を!!
「許すまじ!!」
おれは咄嗟にアイルのタイを引っ張った。
人の妹に何してくれてるんじゃ!!
「ぐぇッ! ちょッ、首絞まってるからぁ!!」
「タカト!? 急にどうしたのですか!」
「そんなにこの脳みそ下半身王子を消したかったのか? それならボクに言えばよかったのに。とりあえず不能にしておくか?」
急襲に対応できず酸欠で失神しかけているアイルと、そのタイを引っ張って前後に揺さぶるおれ。荒ぶるおれを止めようとするロイと、ニヤニヤと高みの見物をしているサファリファス。
道中すれ違った人々は、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにおれ達を避けていた。
しかしその冷たい視線などお構いなしにおれはアイルを揺さぶり続けたが、結局問題の事件について一切知ることができなかった。誠に遺憾である。
竜の牙の後を引き継ぐのは、獣人の団員が多い竜の尾。
ミレニア地方は獣人が多く、オウカ達獣人の騎士のほうが人間の騎士よりも民衆に馴染むのが早かった、ということもあり、竜の尾に決まったらしい。
どうやらこれはラーニャとオウカの意見だったと聞いた。
これを聞いた時、オウカもちゃんと働いていたんだなぁ、と思ったのが顔に出てしまい、サファリファスを笑わせ、不貞腐れたオウカにデコピンされたのは記憶に新しい。
「街の様子はどうですか?」
「安心して暮らせるようになるのはまだまだ先かな。それでも裏道の清掃と窃盗団の捕縛はだいぶ進んだよ。それだけでもかなり変わるはずさ」
「お友達も手伝ってくれてるんですよね」
「そうだね。アイツらには本当に感謝しないと。これまでもずっと俺を支えてくれて、これからもずっと一緒にアルシャの街を守っていくと誓ってくれたんだ。そんな友人達は得難いものだけど、なんだか気恥ずかしくてさ」
なかなか言葉にできないんだ、とラーニャは照れるように微笑む。まるで青春だ。おれにもそんな友人が欲しかった……!
「気持ちは分かりますよ。大人になると簡単に言葉にできなくなりますよね。特に身近な人にほど。ありがとう、なんて、たった数文字の言葉なのに」
「そうなんだよ……どうしてだと思う?」
「どうしてですかね、おれにも分からないです。でも簡単で大事な言葉こそ、ちゃんと伝えないといけないってことに気が付いたんです」
おれはラーニャを部屋に招き入れ、部屋の窓からアルシャの街を見下ろした。この部屋からはアルシャの街が一望できる。沈んでいく太陽に照らされて、赤土の街が更に赤く存在感を放っている。
本当に綺麗な街だ。
「綺麗な街ですね」
「……うん。俺の自慢の街だよ」
「この綺麗な街を仲間達ともっと良い街にしていけるだなんて、羨ましいです。だから気恥ずかしいけど言ってみましょうよ。ありがとうって。これからもよろしくって」
いつの間にかラーニャも隣に立って街を見下ろしていた。静かに街を見るその目は太陽に照らされて、瞳の中で炎が揺らめいているようだ。
「そうだね。うん。これからも、この街を守る仲間として……」
「はい。言葉にするのは大事です。口にしないと伝わらないんですから。それに、ありがとうって言える人ってかっこいいと思うんです。気恥ずかしい言葉こそ、さらっと口にできると大人って感じがして」
おれはこの世界に来る前の社畜の日々を思い出す。何を頑張っても感謝の言葉が返ってくることはなく、むしろ文句ばかり飛んできた。
目の前にある仕事はやって当たり前という風潮だったから、たった一言「ありがとう」すら同僚からかけられたことがなかった。同じ会社に勤める仲間なのに、信頼関係はなかったように思う。
時々営業で出向いた会社の社員達が仲良くしているのを見て、羨ましかった。
結束が強い関係でも言葉足らずで仲違いすることはよくある。だからこそ、ラーニャとその友人達にはそんなことになってほしくない。
「……ラーニャさん?」
「いや……そうか。かっこいい、ね。うん、そうだね。確かにかっこいい」
黙って街を見ていた間に、陽は急ぐように地平の下に沈んでしまっていた。それなのに何故かラーニャの頬は夕日が当たっていた時よりも赤くなっていた。
……働きすぎて熱が出たのかな? 過労、ダメ、絶対。
おれが首を傾げていると、ラーニャは思いついたように猫耳を立てて、おれを見た。
「今日は君達がアルシャで食べる最後の食事だから、いつもより豪華にしてもらったよ。ぜひ、楽しんでね」
「……ワニ肉じゃない?」
「ハハっ、多分違うよ! でも期待しといてくれって料理長が言ってたから、とびきり美味しいと思う」
おれはしばらくワニ肉生活だったことを思い出してしまう。どうやらそれが顔に出ていたらしく、ラーニャは笑っていた。
そこからもう少しだけ話をして、ラーニャは部屋を出て行った。
途端に部屋は静寂に包まれる。
窓の外を見ると、暗い街並みの中で明るく輝く道が浮かび上がる。一日中灯りが消えることのない市場だ。
ロイには怒られたけれど、市場での買い物はとても楽しかった。
物珍しい品物ばかりで、王都の商人よりも商魂たくましいアルシャの商人の謳い文句で衝動的に買ってしまいそうになったおれを、オウカとサファリファスが落ち着かせてくれた。
買い食いしたことがないサファリファスが、初めて屋台飯を食べる様子を微笑ましく見守ったりもした。おれ達の視線に気が付いたサファリファスに怒られたけど。
一度息抜きと称したラーニャがついてきて、穴場のお店を教えてもらったこともあった。
ラーニャに話しかける市場の人達はみんな気心知れた仲で、自然に笑っているラーニャを見て、ゲームのストーリーのように街が壊滅する展開にならなくて良かったと実感した。
ダレスティアと市場に行った時も面白かった。
視察をしながらの散策だったからあんまりゆっくり見られなかったけれど。おれに似合うからと目についた物をなんでも買ってしまいそうになるダレスティアを慌てて止めて、なんとか堪えてもらうのが大変だったなぁ。
視察するダレスティア達についてきただけだから楽しむことは一切考えてなかったけれど、おれのために精一杯楽しませようとしてくれたダレスティアの心遣いがとても温かくて、その優しさにまた惚れそうになった。ロイとだけ市場に行けなかったのは残念だけど……
ふいに先ほどロイに怒られたことを思い出す。
……もしかしてあれは仲間外れにされたことに対して怒っていたのかもしれない。
と、そんなことを考えていると、新たな来客が現れた。
ノックされた扉を開けると、そこには今しがた思い返していたロイがいた。
「あの、タカト……」
「ロイ! どうしたの? もしかしてもう夜ご飯?」
日が落ちたとはいえ、まだ夜ご飯には早い。
疑問に思いつつロイの返事を待っていると、ロイは何やら言いづらそうに口ごもった。いつもはきはきと話すロイがそうなるのは珍しい。どうしたんだろう。
「いえ、食事はまだです。あの、そうではなくて……」
「ん?」
ロイは何かを言おうとして、またしても口を噤んだ。目元が少し朱く色づいている。恥ずかしがっているように見えるけど、怒ってるのかな。もしかして、オウカがまた脱走したとか?
「ロイ、何かあったの? オウカがまた逃げ出した?」
「いえ、オウカ副団長はハクを監視役につけたので大丈夫です」
「とうとう監視をつけられたんだ……」
オウカの監視役に抜擢されてしまった不憫なハクくんに、心の中で手を合わせた。頑張れ。
「副団長は関係ないのです。いえ、まったくないと言えば嘘になりますね……。市場に行った件なのですが」
「ああ! あれは十分反省してます。ごめんなさい」
「そうではなく! 謝罪はもういただきましたし、タカトも反省していることは分かってますから。……私も一方的に怒りすぎました。オウカ副団長が仕事をサボってタカトとデートしていたと思ったら、タカトを責めることばかり口にしてしまいました。申し訳ございません……」
「えっ!? ロイは何にも悪くないんだから、謝らないでよ! オウカが仕事をサボったのが悪いんだし……おれこそ、頑張ってるロイのことを考えずに遊びに行っちゃってごめん」
「タカト……」
「王都に帰ったら、ゆっくりデートしよ?」
「……二人だけで?」
「うん。二人だけで」
二人きりのデートを約束して嬉しそうに微笑むロイにきゅんときて、思わず抱きついた。
そうだよ。デートだよ。おれ達、もうちゃんとした恋人だもんね。
おれの彼氏様は三人。いわゆる普通の恋人関係ではないけれど、彼らにとっての恋人はおれだけなんだ。王宮に出回った噂みたいにふしだらな関係と思われても仕方ないけれど、三人におれを選んでくれたことを後悔させないようにおれは誠実に向き合うべきだ。
――つまりは、積極的に愛を伝える!
「ロイ、愛してる!」
「え」
「愛してるよ!」
「……っ!」
おれがじっとロイの目を見つめると、彼の眦が朱に染まり、頬も赤くなっていく。
ロイの貴重な照れ顔、いただきました!
「わ、私のほうが愛しています!」
照れてしまったことの恥ずかしさからか、若干涙目になっているロイの可愛さがヤバい。初めてロイが年下ってことを自覚した。いつも有能なかっこいいロイが可愛い。よしよししたくなる。
「ロイ、真っ赤じゃん。いつもは涼しい顔のくせに」
「タカトがズルいんです! 貴方こそ、いつもは愛してるだなんて言わないのに……なんだか悔しいです」
「あはは、おれはロイの反応が可愛くて嬉しいな」
「……挽回します。かっこいいって言わせてみせますから! ついてきてください」
揶揄いすぎたかな? おれは部屋を出て、ぷんぷんと効果音が付きそうな怒り方をしているロイの後ろを言われた通りついていく。
時々チラチラとおれを振り返るロイがまた可愛い。なんだか今日はロイがめちゃくちゃ可愛い日だな。
ちゃんと飼い主がついてきているか確認する犬のようだと思って和んでいると、その視線に気が付いたのか、ムッとしながらおれの手を握って隣に並んできた。
「……嫌ですか?」
「嫌じゃないに決まってるだろ」
不安そうにおれを見る目は相変わらず不安そうな犬のようで、おれは笑顔で手を握り返した。手を離すなんてことは、絶対にしない。
いつもと違うロイの姿は新鮮で、これもまた恋人の特権だな、とおれは上機嫌にロイと繋いだ手を振り回して、歩を進めた。
「すご……」
「タカト、あまり身を乗り出しすぎないように。危ないですよ」
おれはロイに連れられて、建物の屋上に来ていた。
ロイが落ちないようそっとおれの両肩に手を置いてくれていたが、そのお礼を言うことも忘れるくらい、目の前の景色に目を奪われていた。
「今日、東西南北の全ての市場の店が営業を再開したんです。暴徒によって破壊されていた店舗もありましたので時間がかかりましたが……」
市場を利用する市民を暴徒から守るために街の外に移動させていた商店が、今日全て、元の場所に戻ったらしい。市場が完全復活したお祝いに、今日は夜通しお祭りなのだとか。
もちろん、羽目を外しすぎないように見回りする人達はいるみたいだけど、それでも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「屋上って入れたんだね。知らなかった」
「事故が起こらないよう基本的には施錠されていますが、建物の管理者にお願いして鍵を借りました。以前は年に数回、街全体でお祭りをしていて、その時はここからその様子を楽しんでいたと管理者の方が仰っていたので」
「特等席だね。街全体が見渡せるし、綺麗な夜空も近いし」
空を見上げると、元住んでいた場所ではなかなか見られなかった綺麗な星空。視線を下ろすと、市場の灯りで街全体が明るく照らされ、楽しげな笑い声と音楽が至るところから聞こえてくる。
先ほどラーニャと一緒に窓越しに見てはいたが、遮るものが何もないところで見ると、また雰囲気が変わるみたいだ。
「本当は連れて行って差し上げたいのですが……」
「分かってる。流石にあんなに人がいたら迷子になりそうだし難しいよね。でも、むしろここからの景色のほうがレアでしょ!」
市場には本当にたくさんの人達がいるのが分かる。おれがあの中に入っていったら迷子は確定。加えて人酔いでダウンしてしまうだろう。だからここから王様気分で楽しむのは、おれ的にも大正解の楽しみ方だ。
おれの言葉に安心したようで、ロイは微笑んだ。
アルシャの任務において、ロイは事務仕事が多かったと聞いている。ダレスティアみたいに市場に行く機会もなく、オウカみたいに勝手に行動することが性格的にできない彼にとって、昨日の今日で精一杯できることがこれだったのだろう。
嬉しさと愛しさで胸の奥がキュウと甘く痛む。思わず、まだ両肩に置かれていたロイの手を引っ張り、体の前に回した。後ろから抱きしめられる形になり、背中にはロイの体温を感じる。
「タ、タカト!?」
「ロイ、ありがとう」
胸の前で握りしめたロイの手を、更にぎゅうっと握り込む。一瞬ロイの手が強張ったが、すぐにおれの手を優しく握り返してくれた。
「喜んでいただけたのなら、嬉しいです」
「ロイから貰って嬉しくないものなんてないよ」
「……その言い方はズルいですよ、タカト」
それからおれ達は、おれ達を探しに来たオウカに見つかるまで、二人静かに美しい景色を楽しんだ。
オウカに呼ばれ向かったのは、どんちゃん騒ぎの夕食会だった。ラーニャは竜の牙の幹部だけじゃなく、団員達全員に食事を用意していたらしい。
規律に厳しいダレスティアとロイから放たれた「今夜に限り、迷惑をかけない範囲での無礼講を良しとする」という発言は、団員達のテンションを最高潮まで上げるには十分だったようだ。
あれほど目をキラキラ輝かせるみんなを見たのは初めてかもしれない。
竜の牙がアルシャでの本拠地として使っていた建物の前の広場で行われた食事会は、これまで見たことがないほど盛り上がっていた。
夜通し開いている市場からも酔っ払って怖いものなしになったアルシャの住民が飛び入り参加してきたり、マッチョ団員達の筋肉自慢大会になったり、酔ったロイとサファリファスがオウカに絡み酒したり、おれを見て微笑むダレスティアがエロさマシマシになってしまったり……
その結果、翌日、竜の牙はほぼ全員が二日酔いに悩まされることになってしまった。
「無礼講とは言ったが、まさかここまで悲惨なことになるとは……」
「ま、まぁまぁ。みんな今回の任務頑張ってたし、街全体がお祭りの雰囲気だったから、ちょっと羽目を外しちゃっただけだよ」
翌朝の広場で繰り広げられた惨状を見て、ダレスティア様ご立腹である。
ただ、ダレスティアは昨夜の時点でこうなる予感がしていたようで、既に出発が遅れることは王宮に報告済みらしい。
流石仕事ができる男。
……それでも流石に本当の理由は書けなかったみたいだけど。
「だとしても、ほぼ全員が二日酔いとは……。ロイまで潰れたのは予想外だった」
「アルシャのお酒、強かったからね。ダレスティアは結構呑んでたけど平気なの?」
「私は酒で酔ったことがないな。身体は熱くなるが、頭は冷静だ」
「流石ダレスティア……お酒にも強いんだね」
「私としてはタカトが酒に強いことが驚きだ。結構呑んでいただろう」
ダレスティアが目を瞠っておれを見る。
ふっふっふー。そこは社畜時代の接待で身につけた技のお陰なのである。
「途中からめちゃくちゃ水入れて薄めてた!」
接待の場ではこっそり従業員に根回ししてたけど、昨日はそんなことする必要もなかったから楽だったなぁ。
「なるほど。それはいい案だな」
ゆるりと細められた眼が、なんとなく甘くて気恥ずかしい。
おれは、照れそうになるのを誤魔化すように、手に持っていた荷箱を荷馬車の奥に思い切り押し込んだ。
「よっと……もうあとこれだけ?」
「あぁ。補給班の仕事を手伝わせてしまってすまないな」
「気にしないでよ。おれも手持ち無沙汰だったし、こうやってダレスティアとおしゃべりできたから、問題なし!」
「……そうか」
ダレスティアの表情が明るくなったのを見ると、おれの気分も上がる。
やはり推しには笑顔でいてほしいからね。これが笑顔かと言われると微妙だけど。ダレスティアの笑顔はレア度高いんで……
その後、なんとか昼前に全員が体調を復活させたことで、アルシャを旅立つ準備が整った。
ダレスティアとオウカ、その他の団員達は竜で王宮に戻り、おれとサファリファス、ロイは転移魔法で帰ることになっている。
転移魔法は魔法陣に魔力をたくさん入れる必要があるのだが、転移する人達の魔力に影響されやすいことが分かった。
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「ありがとうございます! 貴音も喜びます!」
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「貴音にしっかり伝えておきます。おれ、アルシャの市場をもっと見て回りたいんです。またアルシャに来るんで、その時は貴方の自慢の街を見せてください」
「……あぁ」
ラーニャは、眩しいものを見るように目を細めた。陽が眩しいのかな。
あれ、でも陽は今は真上に――
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「ラ、ラーニャさんっ!?」
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「はぁ……まったく。本当に良い匂いだね、君。食べちゃおうかな」
「ひぇっ!?」
耳に直接吹き込まれたセクシーな声に、おれの心臓はバクバクだ。……イケボすぎる!
「そこまでだぜ」
「うわぁっ!!」
すぐに襟元をぐいっと後ろに引っ張られたと思ったら、今度はオウカに後ろから抱きしめられていた。スリスリとおれの頭に顎を擦りつけている。オウカの顔を見上げると、どうやらラーニャを睨んでいるようだ。
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「そのうち分かるよ」
楽しそうな声色に、ラーニャがオウカを揶揄ったということは分かった。でもおれを使うのはやめてほしい。
反抗するようにラーニャを睨むと、彼はそれはもう楽しそうに笑んでおれの頬を撫でた。
「そんな顔で睨まれても、子猫に威嚇されてるようにしか思えないよ」
「ひどい!」
「タカト、そろそろ私達も行きましょう。貴方も、反応が可愛いのは分かりますが、タカトで遊ばないでください」
知らぬ間にやってきたロイもなんだか不機嫌そうだ。おれの側に来たかと思うと、ラーニャの手を軽くだけどはたき落とした。オウカはともかく、ロイは何がお気に召さなかったんだ?
「イタタ……まったく、お姫様より守りが固いね、タカトは」
ラーニャはやれやれとため息を吐く。
しかしすぐに真面目な表情に戻り、おれに手を伸ばした。
「でも、これまでアルシャを助けてくれるために動いてくれて、ありがとう。タカトが気軽に遊びに来られるようなアルシャにするから、待っててね」
自信に満ちたその言葉に、おれはなんだか感動で胸が詰まって、伸ばされた手に握手して、頷くことしかできなかった。
第二章
「おかえり~」
転移魔法陣の眩い光が収まり瞑っていた目を開けると、目の前にいたイケおじラーニャが爽やか王子様アイルになっていた。
「アイル王子に直々にお迎えいただけるとは」
「ロイが聞いていたのは近衛騎士団の何人かが迎えるって話だったでしょ? 彼らは今、兄上達の手伝いで忙しくて手が離せないんだ」
そう言うアイルも疲れているように見える。もしかして、無理して迎えに来たのかな。そうだったら申し訳ないな。
でもアイルはそういうの隠すの得意だから、分かりづらいんだよなぁ。そう思って一応聞いてみることにした。
「じゃあ、アイル王子も忙しいんじゃ? なんか疲れてるようにも見えますけど……」
「いやぁ、参ったよね。リノウ兄上が張り切っちゃってるせいで俺もこき使われてるんだよ。お陰で女の子と遊びに行けなくて俺の心は枯れそうだよ」
泣き真似をしながらよどみなく愚痴を零すアイルに、おれとロイは顔を見合わせて笑みを交わした。
「お元気なようで安心いたしました」
「ロイ、話聞いてた? 全然元気じゃないんだけど」
「これで色ボケが治ると良いですね」
「相変わらずの毒舌だね、サファリファス。タカト~、二人が虐めてくる~」
「たとえ遊びでも貴音に手を出したら許しませんよ」
「……いくら女の子が好きだからってそんなに命知らずじゃないよ!?」
一瞬、返事に間があったのが気になるんだけど?
アイルに「宿舎に戻る前に寄るところがある」と先導されて王宮内を歩いているうちに、おれ達がアイルを揶揄う遊びに変わっていた。
ロイとサファリファスのSっ気が垣間見えているものだから、可哀想だなとちょっとだけ憐れんでいると、ふいにアイルが振り返った。
分かりやすく拗ねたような表情……おれはこの顔に見覚えがある。
そうだ、これは恋愛ルートか友愛ルートかの分岐点で、友愛ルートを選ぶと見られるスチルの顔だ。
つまり、貴音はアイルとの恋愛ルートは選ばなかった、ということになる。
「……アイル王子、貴音と何かありました?」
「……あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったかなぁ」
つまりは、この王子様はやってくれやがったのだ――夜這い事件を!!
「許すまじ!!」
おれは咄嗟にアイルのタイを引っ張った。
人の妹に何してくれてるんじゃ!!
「ぐぇッ! ちょッ、首絞まってるからぁ!!」
「タカト!? 急にどうしたのですか!」
「そんなにこの脳みそ下半身王子を消したかったのか? それならボクに言えばよかったのに。とりあえず不能にしておくか?」
急襲に対応できず酸欠で失神しかけているアイルと、そのタイを引っ張って前後に揺さぶるおれ。荒ぶるおれを止めようとするロイと、ニヤニヤと高みの見物をしているサファリファス。
道中すれ違った人々は、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにおれ達を避けていた。
しかしその冷たい視線などお構いなしにおれはアイルを揺さぶり続けたが、結局問題の事件について一切知ることができなかった。誠に遺憾である。
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