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68、新たなる皇帝夫妻
しおりを挟むブランデルという国家が完全なる亡国と化した頃、グランマニエでは新たなる皇帝と皇后が誕生していた。
皇帝の名は、ハインリヒ・グランマニエ。
皇后の名は、フレア・グランマニエ。
美しい二人の統治者に、グランマニエ帝国は誰しもが喝采を上げた。皆に愛され、尊敬され、祝福された。
その皇帝夫妻は、即位から二十二年にわたりグランマニエに未曾有の大繁栄を齎すこととなる。
彼らの子孫は、彼らの優秀さを引き継いだ。実力主義の皇位継承争いを勝ち抜いた彼らは、ハインリヒとフレアが作り上げた黄金時代の基盤を一層に整備し、その後三百年もの間に並ぶものなしと言われる絶対王者としてグランマニエ帝国は君臨する。
彼らの偉業は、後世に渡り伝記、演劇、童謡とあらゆるものとして名を遺した。
脚本として、戒めとして亡国ブランデルを題材にした『横顔』、そしてグランマニエ皇帝夫妻の黄金期を伝え称えた『比翼』は二大巨塔である。
『比翼』は皇帝夫妻の忠臣であり、大ファンであった大臣が筆を執ったとされるが、『横顔』はいまだにその作者は不明である。
皇帝夫妻は逸話も謎も多く、ロマンを擽ると様々な層から人気が高かった。
のちに、皇帝の私室の隠し扉からとある日記が見つかる。それは、ハインリヒの日記だった。
どうやら、何かの拍子で隠し扉が壊れて放置されていたのだろう。非常に良好な状態で残っていたのだ。
隠し扉は、王宮の老朽化により解体中に見つかった。もし雑な壊し方をしていたら、一緒に貴重な資料が埋もれてしまう所である。その後の解体は、非常に慎重に行われた。
完全無欠と誉れ高く、偉大なる皇帝ハインリヒ。公私ともに素晴らしく、夫や父としても良き存在と言われていた。また、皇后フレアとは仲睦まじいことでも有名であった。
歴史学的にも貴重だという意見と、あの皇帝のプライベートを覗けると子孫や学者たちは沸き立った。
そこには只管、愛する妻への止まらない恋慕が書き綴ってあった。
否、書きなぐってあった。
不惑という年齢を超えても、還暦になっても、米寿になってもその愛は変わらなかった。
常に思春期のように、重篤な恋を患っていらっしゃるハインリヒという男の思慕がつづられていた。やや暴走しがちな妄想もあって、見ている方が恥ずかしいくらいだった。
その数年後、同じようにフレアの日記まで見つかった。
皆はぞっとした。黄金期を齎らした片翼といえる聖母であり賢母の像が崩れるのではと誰もが恐れた。
八割方がハインリヒの日記のせいだった。
そこには自分の感情を出すのが苦手な、不器用な乙女の心情がつづられていた。
政に関してはズバ抜けた手腕や冴えた感性を披露する一方、いじらしい初恋にあぐねる乙女のプライベートを暴いたという罪悪感があった。
皇帝が病に倒れた時は、伴侶として見事に国を取り仕切っていた女傑が、ハインリヒの前では一人の愛らしい女性であった。
この二人が相思相愛だったのはなるべくしてなったのだろう。
彼らが幸せだったのかは、言うまでもない。
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