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44、ミニス・ストーンズの現実
しおりを挟む王宮の一角――と言ってもその中でも一番寂れた宮殿にミニスは入れられていた。
エンリケに会いたいと何度いっても、その願いはかなえられない。
ここ数日どころか、一か月近く会っていない気がする。
ここには暦が無く、ミニスは日記を付ける習慣もなかった。それに日付を数えていなかったので、時間の感覚がかなりあいまいだった。
ミニスはエンリケに誘われ、王宮に招待されてたまでは良かった。
その後は、エンリケの父――国王は酷く怒ってエンリケを罵倒するし、ミニスにも酷く冷たい。家庭教師はつけられたが、言うことが難しくて細かいし、ちんぷんかんぷんだった。
だが、何度もつかれる溜息や、冷たい視線がミニスの存在を目障りだと思っていることを伝えてきた。
最初は王子妃になるミニスへのやっかみかと思ったが、さざめく噂や陰口が耳に入るにつれて違うと分かった。
「え? あれがフレア様の次の婚約者?」
「まだ候補よ。基本的なマナーもお粗末で、話にならないそうだもの。付けられた講師たちが頭を抱えていたわ」
「さぞお美しいかと思ったら、野暮ったい方ね。品がないこと。野蛮で頭も悪そうだし、フレア様の代わりなんてできるの?」
「あれがアシュトン公爵令嬢の後釜? 冗談だろう?」
「聞いた話では学園でも成績は下の中で、語学は一つも単位を持っていないそうだぞ」
「ええと……男爵? 子爵? どっちだったかしら? ストーンズ家はどこの領地でしたかしら? 聞いたことがないわね」
落胆、失望、嘲笑、諦観。
ミニスを見るたびに、知るたびに滲む良くない感情。
エンリケが隣にいた時、恋人としていた時の栄華が崩れ去るようだった。
窮屈な生活に嫌気がさす。豪奢なドレスでやるカーテシーは、重くて動きづらくてとてもつらかった。綺麗な細いヒールの靴は、歩くたびに、ダンスのたびに万力で足を締め付けてくるようだった。
どんなにミニスが頑張っても、ミニスの前任だったフレアには劣ると呆れられるばかり。
一つ出来ても、当たり前だ。まだこれしかできないのかと言われる。
言外に伝わる「これでは代わりにすらならない」という期待外れの思惑。
それでも我慢して、頑張って耐えた。
そんなある日、お茶会が催され、そこには貴族令嬢たちや夫人たちも招待されると聞いて喜んだ。
エンリケがいないのは残念だったけれど、愚痴を聞いてもらえると思ったのだ。
だが、そこには更なる絶望しかなかった。
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