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43、ネズミ捕り終了
しおりを挟む「本当に気持ち悪いわ。自分たちが結婚できないからって、子供や孫でやろうなんて」
「ふざけるな! 私とグラニアの愛は真実だ! 運命の恋なんだ! グラニアはヘンリーに強要されて断れなかっただけだ!」
二十年前に学生だった――当事者であったケイネスにとっては、使い古されたラブストーリーでもなく、今も現役真っただ中のようだ。
祖父や祖母が優秀だったと嘆いていたが、ただ勉学の呑み込みが良かっただけで、中身はこうも幼稚とは。フレアはますます失望した。
「あら、そうなの? グラニア妃殿下は、たくさんの愛人を召し抱えておいでよ? よく王宮の可愛い小鳥たちが囀っているもの。侍従や楽師、庭師、文官、騎士、吟遊詩人、とあるご当主とのW不倫というのもあったわね」
グラニアが王宮に閉じ込められている理由は、この見境のない性格もあるだろう。
王妃になる前の王子妃の時点で、国際問題を起こしかけた人だ。社交場に美男子がいれば、婚約者や伴侶が居ようと絡みに行く。その奔放さは、国内外で顰蹙を買っているし、その都度王家が火消しに回っていた。
見かねたゾエやヘンリーは、当然外交に彼女を出禁にした。
学生時代から恋多き女性だった。そして、恋人たちに「貴方が運命だ」と嘯いて尽くさせるやり方は、エンリケそっくりだ。
「嘘をつくならもっとましな嘘をつくんだな」
愚かな伯父は、自分は特別だと思っている。だから、フレアは現実を教えてあげることにした。
ケイネスにとっては人目を忍んだ秘めた恋のつもりでも、存外そうではないのだ。
「伯父様は隔月第二木曜日の恋人だそうですわ」
その言葉に、今度こそケイネスが真っ青になった。
王妃の宮殿にいる侍女や侍従は質が悪いのだ。フレアが笑顔で話しかければ、ペラペラとよく喋る。
普段から人使いの荒いグラニアに辟易しているから、少し優しく労わればすぐになんでも口を割る。グラニアの癇癪で首にされたメイドや騎士へ、次の紹介状を認めたことは一度や二度ではない。
ケイネスは愕然としていたが彼も薄々、彼女の本質や別の男の影には気づいていたのだろう。
グラニアにとって、ケイネスは『異性にもてる自分』を作るための付属品でしかないことに気付いていない。気づきたくないだけなのかもしれない。
「嘘だ! このクソガキ!」
「グラニア妃殿下が気の多いことは学生時代から有名でしょう? 蝶のようにヒラヒラと目ぼしい花に飛んでいくとお聞きしますわ」
娼婦は夜の蝶とも呼ばれる。グラニアを娼婦に見立て侮辱したことに、ケイネスは激昂した。
殴りかかろうと手を伸ばしたケイネスであるが、それはあっさりとフレアの従者に捻り上げられ、床に転がされる。
フレアはすうっと目を細めて、無様に転がるケイネスを見る。
それは肉親を見る目ではなく、罪人や羽虫を眺める温度だった。
「ああ、そうですわ。言い忘れてしまいましたけれど、お祖父様が近いうちにお見舞いに来てくださると言っていたの。わたくしからもお話を通しておきますから、親子水入らずでお過ごしになったら?」
フレアの祖父はジョージなんて目ではないくらい厳格な人だ。
だが、人情のある人でエンリケの婚約者になったフレアを心配していた。この婚約破棄の顛末にも大層立腹していた。
彼は、不倫や不貞、浮気といった類のだらしないことは大嫌いなのだ。当然ながら、ケイネスとグラニアの関係も怒髪天を衝くだろう。
未だに続いていた火遊びは彼にとっては孫であるフレアとユリアの将来すら巻き込んだ。孫娘たちを利用したこの計画は、余りに身勝手で顰蹙を買うことは間違いない。
ユリアはもう縁談が纏まったし、知らないのだ。きっと祖父の怒りの矛先は無様に転がる諸悪の根源にだけ行く。少なくとも、次に会えたとしたら子爵ではなくなっているだろう。
これはアシュトン公爵家と王家の醜聞でもある。
祖父がグラニアに対しては思うことは腹に抱え、王家に対して確執ができるのは明らかだ。
「地下牢へ入れておいて頂戴。貴族扱いはしなくていいわ」
フレアはそういって、扇を閉じた。
その後に、牢で気づいたケイネスが「グラニアが黙っていないぞ」と脅しのつもりか喚いていたが、その失言は祖父だけでなく、一緒に来た祖母の怒りまでを買う羽目となった。
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