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37、幽閉されるエンリケ

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 エンリケの私室は散らかっていた――というより荒れていた。
 調度品は散乱し、壁は穴が開いたり壁紙が乱暴に千切られていたりしている。シャンデリアにはなぜかクッションが引っ掛かっているし、色々な破片が散乱していた。
 まるで強盗に押し入られたか、魔法が暴発して局地的なハリケーンでも起きたようだ。
 部屋を荒らしたのは、その部屋の持ち主のエンリケだ。八つ当たりしていたのである。
 エンリケが婚約破棄をしたフレアだが、彼女がいないと執務が滞る。仕方ないので側室として迎え入れてやると妥協してやったのに、その答えが慰謝料請求だった。
 どこまでもエンリケの思い通りにならない。
 立場が悪くなったのも、叱責されているのも、困窮しているのもエンリケ。
 フレアは窮地に陥るどころか、引く手あまたで持て囃されている。いつ社交界に復帰するのだろうかと、みなが気配を窺っている。
 これでは、エンリケが捨てられたようではないか。
 確かに婚約期間中に多少は女で遊んだが、王位を継ぐ立場である自分が、少しくらい羽目を外して何が悪いと開き直っていた。
 エンリケは両親の様に、真実の愛で結ばれた恋人と結婚したかった。
 家柄と見てくれだけで、エンリケを認めないフレアは王妃に相応しくない。
 両親のように互いに深く愛し合った夫婦として、みなに祝福された結婚をするのだとエンリケは思っていた。
 だが、ここ最近の二人は酷く仲が悪かった。顔を合わせるたびにいがみ合っている。
 エンリケの奔放さをグラニアのせいだとヘンリーが罵倒する。グラニアは烈火のごとく怒り、ヒステリックに泣き叫んで窮屈な王宮に嫌気がすると喚いている。
 そこには、エンリケの理想などなかった。
 最近は追加で回される公務はない。王太后ゾエが代わりにやることとなった。

「こんな恥に王族の名で何かをされたらたまらないわ」

 それはエンリケの為ではなく、エンリケを信用していないし、エンリケに余計な行動をさせないためだった。
 滞っている公務も王やゾエが分担することになった。
 だが、ゾエは引き継いだ仕事がフレアとの婚約破棄から一ミリも進んでいないことに酷く怒り、そして呆れた。
 そのせいで使い物にならないと判断された、エンリケの侍従や側近たちは全て解雇され、王宮に出仕することすらできなくなった。
 エンリケの周囲にいた人間はエンリケの機嫌を取るだけで、能力の低い太鼓持ちだった。
 別にいなくなっても経費削減にはなっても、デメリットはエンリケ以外になかった。
 ミニスはミニスで、一から貴族子女としてのマナーをやり直している。王子妃教育以前の問題で、姿勢や歩き方という基礎の基礎からのスタートであった。
 エンリケの妻になりたがるまともな貴族女性は居らず、プロムナードで騒ぎを起こした以上、ミニスを王宮で勉強させているのだ――結果は良くないが。
 つまり、エンリケは独りぼっちだった。
 時々聞こえる噂は悪いモノばかりで、フレアの訴訟が一つ終わったと思っても、過去に振った女たちが一斉に訴訟を起こし、毎日のように新しい訴状が届いて王宮の文官たちは参っているという。
 彼女たちが怒り狂っている理由の一つが、アシュトン公爵家が離れたことにより、王家の失墜を感じ、今まであそこまで献身的に支えていたフレアを酷い方法で貶めたことに激怒したのだ。
 弄ぶだけ弄んで捨てたエンリケより、その後に真摯に向き合ってくれたフレアの方が印象が良いのは当然である。
 それだけの不満をフレアが抑え込んでくれていたのだ。
 しかし、エンリケにあったのは感謝ではなく、怒りだった。


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