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34、気づき始めるミニス
しおりを挟むゾエのいう通り、今残っている婚約者費用はフレア用のだ。予算が下りた時はフレアが婚約者だった。ミニスはまだ内定すらしていないし、もし途中で変わった場合は、改めて予算を取り直さねばならないのが王宮のルールだ。
もしミニスに買い与えたかったら、エンリケのポケットマネーから賄わねばならない。
ゾエが愚かな孫にもわかるように丁寧に言ってやるが、当の本人はつまらなそうに聞いていた。思い通りにならないと大抵こうだ。
エンリケはエンリケで、昔から小うるさく厳格なゾエが苦手だった。
ゾエの言葉に大臣の一人が「既に殿下の資産は様々な女性に貢いでなくなっております」と申し訳なさそうに言った。
ずっと黙って気配を消していたミニスが、今になって怪訝そうな顔をする。
「エンリケ様? あたし以外にも彼女がいるの?」
「違うよ、ミニス。彼女たちは運命の人じゃなかっただけだ。もう関係ないよ」
いつもならうっとりとする笑顔だが、その自信たっぷりな笑顔や、見せつけるような白い歯がやけに軽薄に見えた。
最近、ミニスはエンリケに対してそう思うことが増えていた。旅行中もいろんな女性をナンパしようとしていたし、ミニスがそれに文句を言うと露骨に嫌な顔する。
今も大丈夫だと誤魔化すように頷いていたが、胸には重苦しいものが蟠っていた。
その後、エンリケは怒れる国王と王太后から逃げるように私室に戻った。
移動中、エンリケはやたら饒舌にしゃべり続けていた。
ミニスがエンリケで出会ってまだ半年。親密な仲になったのはここ一か月である。
ふと、プロムナードでフレアが言った言葉が過る。
エンリケは酷い浮気性な男だと言っていた。深い仲になっても飽きれば捨て、子供ができても責任を取らず、幾度と逃げてきたと言っていた。
それに、折角煌びやかな王宮に来たというのに周囲の反応は酷く冷たい。王子の恋人だというのに、全く尊敬の念を感じられないし、好意なんて欠片もない。ただ、みんな事務的に淡々と対応してくる。
あるとすれば、フレアと比較して嘲笑や失笑ばかり。
付けられた講師たちは、呆れと落胆ばかり。
エンリケはデートの時や、学園でエスコートしてくれた時はスマートで煌びやかだった。でも、王宮では鼻つまみ者だった。
皆ひそひそと囁いている。ずっと「ついにアシュトン公爵令嬢にすら捨てられた」と言っている。
婚約破棄されたのはフレアのはずなのに、惨めになっているのはエンリケとミニスだった。
やけに楽し気な声に、エンリケの名が出たと思ったら、フレアに婚約の打診をしたら返事が来たと喜ぶ大臣の声だった。彼にはまだ若い息子がいる。今まで、全く音沙汰がなかったから、感激しているようだった。
フレアはエンリケとの婚約が無くなったからといって、未婚のままになる気はない。エンリケの浮気を清算したら新しい人を探すつもりらしい。
つまり、復縁する気は一切ない――しかも引く手あまたの令嬢となった。
(ちょっと待って。あの人がエンリケ様やあたしの分の勉強やこーむ? っていう仕事しなかったら、だれがやるの?)
エンリケは、フレアがまだ意地を張っていると思っている。
だけれど、ミニスの見たフレアはエンリケに対して愛どころか情すらなさそうだった。
プロムナードでは「こんなのだから捨てられるんだ」とせせら笑っていたが、実際は違うのかもしれない。エンリケの復縁してやっていいという打診に、手紙すら返してこない。最初は飛びついてきたら、笑いものにしてやろうと二人で言っていたのに、なしのつぶてだ。
縁談について、他の人には返事をしているのに。
恐ろしい予感がした。
ミニスの予感は的中した――神殿から高位神官たちが列をなしてきて、フレアの代行として慰謝料の請求に来たのだ。
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