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33、無い袖は振れない
しおりを挟むエンリケは旅行していた途中だったが、ミニスともども王宮へ連行された。
建前は次期国王として、国内を遊学するという言い訳を用意していたが、行く先々が観光地ばかりなので当然バレた。
(完璧な計画だったはずなのに、見破るとは流石父上だ)
見破るも何もない杜撰な計画だ。しかも勝手にまたアシュトン公爵家のツケで豪遊しようとして、周囲から顰蹙を買っていた。あれだけ派手にやらかしたので、既に婚約破棄が伝わっていた。アシュトン公爵家――フレアに睨まれることを恐れた商会らから、正しく請求書が王宮に回されていた。
その中には、深夜に歓楽街に赴き、店を貸し切った分もあった。ボトル一本で複数世帯の庶民の年収が消える酒を何本も空にしたあげく、名高い娼婦たちと夢のようなひと時を過ごした請求書も入っている。
これだけで、勉強する気もなければ、浮気や婚約破棄を反省していないのも良く分かった。
ヘンリーやゾエに特大の大目玉を食らっただけでなく、手を鞭で叩かれて飛び上がった。これは良く行われる子供への罰の一つだが、甘ったれのエンリケは初めて叩かれた。
エンリケのやらかしたことを考えれば、牢に裸に繋いで叩かれてもおかしくない。背中の皮が切れて血だらけになっても、この怒りは収まらないだろう。
「公務や執務を放棄するに飽き足らず、反省もせず散財とは……嘆かわしい」
苦虫を噛み潰した表情のヘンリーに、エンリケは減らず口を叩く。
「散財ではありません、父上。ミニスが婚約者として我が国を知り、相応しい装いになるために、必要なことです」
失望も露わなヘンリーに言い返すエンリケ。その態度が余計に怒りを増やすことに気付いていない。
相応しい装いとは、あの大道芸の道化の方が慎ましいようなけばけばしい衣装のことや、石だけはやたら大きいが輝きがいまいちで、流行遅れのアクセサリーのことだろう。
エンリケが価値を見る目が節穴で、センスも悪趣味だということだけは良く分かった。やたら派手で全く品がない。
ヘンリーは下らないとばかりに目も合わせようとしなかった。
事実、エンリケのやっていることは悪い結果しか呼びこまない。ただでさえ悪評が立っているのに、反省しているふりもできないのかと呆れた。
ゾエも、反省の色のないエンリケに厳しい顔をしていた。
「エンリケ。お前の予算はとっくに使い切っていたでしょうに。お前の、何処に、そんなものがある?」
いつになく険しい表情と、きつい語気で問うゾエ。これ以上、国庫からは出さないと言外に聞こえる。
その迫力に、エンリケは引け腰になりつつも答えた。
「婚約者費用をあてるつもりです」
「馬鹿を御云い。それは婚約者になった人間用。今年の予算はフレア宛の贈り物だけ。その小娘は、婚約者に内定すらしていない。それはお前の個人資産から出すのですよ」
鼻で嗤うゾエは「この愚か者が」と冷えた視線が言っていた。
そこには祖母と孫という関係でありながら、愛情や憐憫はなかった。
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