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30、子が子なら母も母
しおりを挟むプロムナードで、エンリケは婚約破棄に成功した。
紹介されたミニスは、フレアより頭の悪そうな女だった。家も大した貴族ではないし、多少躾を厳しくしても問題ないだろう。
正式な王子妃としての躾は、婚約が成り立ってからだ。
今後、フレアの顔を見ずに済むと思うと愉快でたまらなかった――なのに。
一連の騒動を聞いたヘンリーは口から泡を吹かんばかりに狼狽し、絶望して、エンリケを罵っている。ゾエは激昂してエンリケに扇を投げ、グラニアを罵った。
彼はフレアとの婚約破棄を白紙に戻そうと動いている。だが、それはうまくいかなかった。次の策として、アシュトン公爵家とつながりだけでもと次女のユリアとの婚姻の打診をしたが、それも失敗に終わった。
時すでに遅く、ユリアはプロムナードから日をそう経たずして結婚することになったのだ。
しかも相手は外国の辺境伯で、婚約期間をすっ飛ばして結納済み。ユリアは早々にリスト辺境伯家に行ってしまい、今更どうこう出来なかったのだ。
これにはグラニアも少し腹が立つ。なんと不敬な連中だろうか。
王家というブランドに弱いジョージなら首を縦に振るだろう文句を並べて、婚姻の打診を何度も出すが、どれもこれもなしのつぶてだった。
そして、間もなく王族の公務が回らなくなり始め、ヘンリーやゾエは婚約の打診どころではなくなってきた。
その仕事はエンリケやグラニアにまで来た。今までフレアが全て仕切っていたので、全く分からない。
小難しい文字ばかり並ぶ書類は、少し読んだだけでめまいがする。
仕方なくフレアを呼び戻そうとするが、何度手紙を書いても返事が来ない。今までは仕事内容の事務的な連絡は来ていたのに、ある時を境にぱったりと来なくなったのだ。
グラニア直々にアシュトン公爵家を訪ねても、先触れもないと困ると門をくぐることすら許されなかった。
暫くして、漸くフレアから連絡が来た。
やっと反省したかとグラニアはひっそりとした安堵と、尊大な怒りを抱いていた。
だが、その楽観は長くは続かない。
その連絡は、エンリケやグラニア、そして王家を相手取った訴訟だった。
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