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22、義母(第二夫人)の葛藤
しおりを挟む当然と言えば当然だが、エンリケはアシュトン公爵家に門前払いを食らった。
婚約破棄をして大恥を掻かせたばかりなのに、その舌の根も乾かぬうちに妃になれと命令しに来たというのだから驚きだ。
しかも、側妃だ。正妃ならまだしも、側室になれというのだから開いた口が塞がらない。
無名の男爵令嬢が正妃で、由緒正しき公爵令嬢が側妃なんてありえない。王妃の序列が逆である。
怒りを通り越して、得体の知れないものを見る目で王城に帰っていく馬車を見送る門番たち。
「おい、何だったんだありゃ。頭が悪いとは聞いちゃいたが、あれはいかんだろう」
「しっ、滅多なことを言うな。あれでも王子なんだぞ」
「フレアお嬢様、よくあれに我慢できたな」
フレアが出かける際、絶対王族や王宮の関係者は入れるなと厳命されていた。
公爵のジョージは先の婚約破棄にショックを受けたのか、愛人の離れに閉じこもって出てこないと聞く。
幸い、フレアは国王のヘンリーや元婚約者のエンリケの行動は予測していたのか、家令にあらかじめ指示を出していたので混乱は起きなかった。
もともと、ジョージは当主として管理がずさんだし、愛人に逃げがちだった。それを取り仕切ることが多かったフレアは、使用人からも信頼が厚い。
エンリケがいなくなって半刻ほどしてフレアは帰ってきた。
馬車には一緒にいたユリアがいなかったが、縁談がすごく好感触だったからと説明するフレア。ちゃんとユリアからの直筆の手紙も持っている。
その手紙は小躍りするように落ち着きがない――ユリアも相当浮かれているようだった。
ずっと決まらなかったユリアの縁談が、急激に進んだことに、ユリアの母である第二夫人はとても喜んでいた。
「お相手は隣国であるランファンのリスト辺境伯です。王都からは距離がありますが、非常に裕福で由緒ある家柄の方です。浮気はしない実直な人柄ですので、ユリアがやらかさない限り良くしてくれるでしょう」
国外ということに、夫人は驚いている。
「ユリアは異国へ行くの?」
「お義母様、ランファンは大国グランマニエと非常に良好な国です。この国より物価は安く、景気が良いところです。下手に国内の貴族に嫁ぐより豊かな暮らしができるでしょう。
しかもリスト辺境伯家の領地はブランデルの国境沿いですから、こちらの言語や文化にも精通しております。異国といっても、苦労は少ないかと思われます」
「そ、そう?」
「お義母様。ユリアも嫁いでいけば貴女の肩の荷も下りるでしょう? 最近のお父様は愛人にうつつ抜かしておりますから。他の女に入れ込む男ほど信用できないものはありません。だから、ね? お義母様の幸せのために、生きても良いのではと思うのです――そのために『お話』を少ししませんか?」
そういって、白魚の手を義母に差し出すフレア。
青い双眸に、正面から射すくめられた第二夫人は「あ、ああ……」と譫言を漏らして真っ青になる。その目には涙が浮かび、だが救いを求める様にフレアを見ている。
かなり葛藤していたが、やがて彼女はフレアに手を伸ばした。
膝を付き、縋るようにフレアに抱き着く。
その姿を見下ろすフレアは笑みを浮かべていた。
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