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20、無責任な王子

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「父上、そんなこと外交官や大臣たちにやらせればいいでしょう? 王太子になる俺が動く必要なんてどこにあるのですか?」

 心底訳が分からないと言わんばかりのエンリケ。
 訳が分からないのはこちらの方だ。ブランデルはけして大国ではない。機嫌を損ねたら困る国は至るところにあるのだ。
 だからこそ、高位に属す地位の人間が精一杯持て成して、取り成してもらう必要があるというのに。近年の外交はフレアが担当したもの以外は芳しくなく、貿易は少なくなる一方であった。

「違う、それは王族の仕事だ。王太子、そして王子妃がやる仕事だ。次代に国交を、顔を繋ぐためにも必要な事だ」

「ではミニスに今からでも覚えてもらいましょう」

「何年かかると思っている? 出来ぬというなら、婚約を認めぬぞ」

 こうでも言わないと、エンリケは解決方法も考えもしないだろう。
 ヘンリーはミニスを王妃として論外だと考えているが、エンリケのやる気にさせる餌にできそうな限り、多少は何かの使い道はあるかもしれない。

「え! それは困ります! 僕はミニスが十八になる前に結婚するんです!」

 きっと、その年齢はグラニアの結婚年齢を意識してだろう。
 エンリケは両親の経歴をなぞるようにて挙式を考えているようだった。
 怒りのあまり頭にズキズキとした痛みが響くヘンリー。繰り返される馬鹿な発言にはらわたが煮えくり返っていた。怒鳴り散らしたいが、体力温存のために我慢する。

「そんなもの余も王太后も、大臣たちも認めぬ。お前も全く勉強が進んでおらぬだろう。フレアを逃がした今、二十代で結婚できると思うな」

 普通どころか出来の悪いと言っていい部類のエンリケだ。十年で仕上がるとも思えない。
 今は熱を上げていても、ミニスという令嬢も半年もしないうちに興味を失うだろう。
 教育自体も無意味となる可能性だって高い。
 エンリケは不満げな顔をして、ため息をついた。少しは理解したのかと思ったら、更なる妄言を披露してくれた。

「仕方ありません。フレアを側妃にしましょう。あれに全部やらせればいいですよ。今までずっとそうだったんですから、喜んでやりますよ」

 本当は嫌だけど、と言わんばかりのエンリケ。
 その発言にヘンリーに給仕しに来ていたメイドは紅茶を絨毯に注いでしまう。
 怒りにヒートアップしていたヘンリーを仰いでいたメイドも、手が止まって目を丸くしてエンリケを見ている。
 ヘンリーは口に含んでいた紅茶を全部吐き出してしまった。
 皆が異形を見るような目で、エンリケを見ている。
 その視線を称賛と勘違いしたエンリケは、得意げに続ける。

「俺が声を掛ければ、喜んで戻ってきますよ。そういう女です。昔っからガミガミガミガミうるさく俺の気を引こうと浅ましい女でしたからね」
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