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19、王太子と王太子妃に必要な教養

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「お前が婚姻したいという令嬢は、いくつ使える?」

「さあ? ミニスはあまり勉強が得意ではないと言っていましたし、貴族令嬢は言語学の授業など必要なのですか?」

 他人事のエンリケに、ヘンリーは冷ややかな視線を浴びせた。
 自分が履修するという考えもないのに、よくそんなことを言えたものだ。
 ここでようやく言葉を誤ったことに気付いたエンリケは、誤魔化すように手をバタバタさせて言い訳をする。

「し、しかしそんなもの王妃には必要ないでしょう? 母上もやっておりませんし、外交官に任せればよいでしょう?」

「やってないのではなく、グラニアは出来ぬのだ。言葉も喋れず、マナーもなっていないのにどうやって招致した貴賓を相手するのだ? 式典や祭典では国内外の要人を招く。お前はそこで一人だけ通じないブランデル語を使うつもりか? 周りは通訳を付けずにフォトン語を使うだろう」

 ヘンリーの言葉に、口を噤むエンリケ。
 そんなこと、初めて知ったと言わんばかりの顔だ。だが、フレアやまともな教師や文官たちは口を酸っぱくして勉強しろと突き上げていたはずだ。
 だが、エンリケは逃げ回って煙に巻いて、女に逃げていたが。
 いつまでも終了しないエンリケの教育は、王太子どころか王子教育の半分も終えていない。一般的な貴族の教養以下かもしれない。
 余りの出来の悪さに、王室の教師たちは匙を投げ、辞職するのが後を絶たなかった。
 それに比べ、フレアは六歳の時に婚約し、そこからたった五年で王子妃どころか王太子教育まで終わらせた。
 そして、余りにエンリケがお粗末な出来なので、それをフォローするためにもフレアに教えた。どんどん覚えていくフレアの方が、教師の方が教え甲斐があったのだろう。教育にも熱が入り、貴族たちが通う学園に入学する頃には王太子教育も終えてしまった。
 いままで、エンリケの行うべき公務は婚約者だからと強引にフレアにやらせていた。
 その方が問題も起きないし、スムーズだからだ。あとで功績だけエンリケにのせておけば、エンリケも文句は言わなかった。
 フレアはそのことに文句も言わなかった。
 ただ、青い瞳を無関心にこちらに向けていた。
 王国の歯車として、幼少期からすべてを費やされた少女はいつからか、社交で使う笑み以外を浮かべなくなった。そもそも、どんな笑い方や声を出すかもわからない。
 国の道具として、最高傑作と言えるフレア。
 言葉一つで、エンリケの代わりにすべてやるフレア。
 なんと便利で優秀な道具なのだろう。それを、エンリケが勝手に捨てた。
 それを失って、代わりに役に立たない小娘を婚約者にするというエンリケ。この後、どうするつもりなのだ。

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