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17、本気のユリア

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 ユリアの見合い相手は眉に僅かに傷の残る、精悍な青年だった。服の上からでも鍛えられている体が分かり、ユリアが扇子で隠して生唾を飲むのをフレアだけが気付いていた。
 彼の名はリヒャルト・リスト。ブランデルではなくランファンの辺境伯である彼は、国境沿いの魔物討伐をする時などはブランデル側にも軍を動かす連絡をするのだ。そして、同時期にブランデルでも魔物討伐をしてもらい、周囲から一掃する。
 もし片方だけの国でやれば、隣国に魔物が逃げるだけということになりかねない。
 魔物には国境などないし、こちらの都合などお構いなしだ。
 ユリアのお見合いは始終和やかに進み、互いに好感触を抱いた。かなり前向きに、というより前のめりに婚約は推し進められることとなり、もっと互いを知りたいとリヒャルトも言うし、ユリアも是非にと懇願するので外泊を許可した。
 リヒャルトと交流しやすいように、滞在している屋敷の近くのホテルを一室取り、侍女や侍従と護衛を残し、三か月は滞在できる金子を渡しておいた。

(ユリアの好みは、エンリケ殿下みたいな背高モヤシじゃなくて、鍛え上げられた上腕二頭筋や布越しにすら感じる胸筋なのよね)

 自ら討伐隊を指揮しながらも戦う肉体派のリヒャルトはドストライクだったのだろう。
 お茶会よりも、国や地方で主催する武術大会や騎士たちの集団演習の見学に行った時の方が楽しそうだった。
 ユリアは歯を輝かせた軽薄な男より、ちょっと武骨で不器用な方がそそられるのだろう。
 そもそもエンリケは背が高いが、豪奢な衣装で隠した貧弱な肉体しかもっていない。フレアは彼が振り回す剣なら素手で勝てる。そのうえ情けないことに、エンリケは馬にすら乗れないのだ。
 王子であるので自衛のために剣術稽古はあるのだが、持病の癪だの急な腹痛などで毎回サボっている。
 ユリアにとって、論外だろう。あの軟弱殿下は。

(もしエンリケ殿下を欲しがるようなら、あげるのも吝かでもなかったけれど……流石に殿下のお遊びの酷さには引いていたものね)

 公爵邸に来たばかりの最初に一年くらいは欲しがっていたようだが、譲った後にまた返品されても困ってしまう。だからフレアはありのままのエンリケを教えてあげると、ユリアはすぐにエンリケと距離を置いた。
 トドメに、現実にエンリケの本性を見せてやったのだ。
 筆舌にしがたいワガママプーなので、王宮に内緒で連れて行くために地味な見習いメイドの姿をさせて連れて行った。
 勉強や執務はサボり、課題や書類をフレアに押し付ける。
 定例のお茶会をすっぽかし、他の女とデートに使うからどけと王宮庭園から追い出す。
 浮気して捨てた女から訴えられたから、陛下と王太后にバレないように処理しろと怒鳴って命令する。
 超が付くマザコン野郎で、ことあるごとに比較する。
 他の女との情事やデートの内容を自慢する。
 大体そんな感じである。
 たった一日で披露されたモラハラセクハラマザコンっぷりにユリアは泣いた。跪いて頭を垂れて「あんな男と義妹になるのは嫌だから別れて!」という程であった。
 流石にそれはフレアにも難しかった。王家と公爵家の婚約なのだから、余程のことがないと不可能である。
 顔を真っ赤にしてわんわん泣くユリアは、昨日までは頬を染めてにこにことしていたのが嘘のような変わり身の早さであった。
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