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16、婚約破棄を白紙に

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 グラニアに魅了されたケイネス。次期公爵と有力視されていた。長男だったケイネスを追い出したアシュトン公爵家であるが、その早急な対応により王家やずっとグラニアに心酔した貴族たちより評判が良かった。
 古い貴族たちの中には、ヘンリーやグラニアを未だに認めていない家もある。
 もともと、王子であるヘンリーが強引に婚約者を捨てたことにより、ランファンと国ぐるみで提携していた事業が少なからずとん挫してしまったのだ。その被害を受けた家は没落したところもあった。それもあり、王家を――ヘンリーやグラニア、エンリケを恨んでいる家は多くあった。
 
(フレアは側妃でもいいから納得させ、とにかくこの国に縛らねば。国交を保ち、エンリケをどうにかできるのは彼女しかいない)

 計画倒れした事業により、ブランデルは長らく不況の真っただ中にいる。
 すべてはヘンリーの婚約破棄に始まり、その結果できた出来損ないの王子エンリケ。王太后はフレアを逃したら、今度こそエンリケを許さない。
 ヘンリーは『真実の愛』『運命の恋』という耳障りの良い言葉で国民を扇動し、何とか誤魔化してきた。
 全てがバレてしまえば、ヘンリーは玉座を追われ暗君、暴君として後世に語られる愚王として名を残すこととなるだろう。
 ヘンリーの偉業は、身分差を超えたラブストーリーくらいだ。
 だが夢は一時で、残った現実は厳しかった。無能な王妃を据え、母の手を借りなければ政治が回らない。生れた子供は酷く愚かで、獣のように女を漁る奔放さだった。
 何が何でも、嘘を付き通してでも演じなければならない。愛に生きた幸福な王でいなければならないのだ。惨めな王に等なりたくなかった。

(……まずはアシュトン公爵だ。あれはまだ御しやすい。フレアは従順だが、得体のしれないところがある。今からでも婚約破棄を撤回させなければ。最悪、妹の方のユリアをこちらに寄越す様にすれば縁は薄れるが、フレアとの筋は残る)

 王が筆を執った。急いで婚約破棄をなかったことにするために動いた。
 しかしそれは遅すぎた。
 その頃にはフレアは王宮から全ての使用人や私物を引き上げる指示を出し、エンリケの仕打ちを理由に婚約破棄の履行を裁判所と神殿に求め、ユリアの縁談を纏め終えた後であった。
 現状に胡坐をかいて対策をしていなかったヘンリーと、機を待って万全を期したフレアでは勝敗は明らかだった。

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