復讐も忘れて幸せになりますが、何がいけませんの?

藤森フクロウ

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12、お見合いセッティング

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「では二時間後、とある殿方にお会いしに行くわ。ナチュラルメイクで清楚で愛らしいお出かけ用のドレスで待っていなさい」

「二時間後!? 早くない!?」

「貴女のボーイフレンドの傾向から見て、絶対好みのはずよ。とびきりいい男を紹介してあげるのだから、絶対落としなさいな」

 貴婦人としての氷の微笑ではなく、悪戯っぽく微笑むフレアはこんなにも美しい。
 同性でありながら、一瞬ドキッと胸が高鳴ったユリアである。

「ちょ、ちょっとまって二時間だと泥パックと、リンパマッサージはピンポイントコースくらいよね。ヘアケアしたら、髪は巻けるかな……」

「あの方、胸や尻の大きさよりうなじと鎖骨にそそられるタイプだから、全部巻かないで結うにしてもシンプルなのがいいわ。ポニーテールでチラ見せにしてデコルテの広いドレスになさい。そのあたりのケアを重点的にね」

 どうやら見合い相手は、女性の華奢な骨格に弱いらしい。ユリアは教えられた相手の好みを頭に叩き込む。
 もし失敗したら、迂闊な父がけったいな縁談を持ってくる可能性が高いのだ。

「じゃあ巻くのは毛先だけにする。ポニーテールだと、幅広の大きなリボンがいいかな。ドレスは清楚目だから宝石が付いているよりそっちの方が……」

 ブツブツと言いながら、ユリアは身支度を始める。
 その目には「この獲物を逃して溜まるか」と爛々とした輝きがある。メイドを集めて、さっそく指示を飛ばしている。
 それを見て、フレアは満足だ。

(やはりユリアはお父様より賢いわね。自分の利になる人間の嗅ぎ分け方が上手いわ。
 ユリアはお勉強が苦手だけれど、機転が利くし愛嬌がある。意欲があれば集中力も継続する。伝統でがんじがらめのような堅苦しい高位貴族に嫁がせるより、商家や騎士の家で裕福なところがいいわね)

 異母とはいえ公爵家の令嬢だ。フレアの紹介とあれば、手厚く迎え入れられるだろう。
 下手に厳格な貴族の家に嫁いでしまえば、絶対姑たちと衝突する。
 夫が庇っているうちはいいが、そうでなくなったらユリアの立場は苦しいものとなるだろう。子供を産んでも、義母たちに取り上げられることだってありうる。
 ジョージはただ貴族の名家に嫁げば幸せと思い込んでいるが、ユリアの性格を考えれば窮屈さに耐えかねて爆発するのが見えていた。
 フレアも身支度を整え、神殿やアシュトン公爵家派閥や友好関係にある貴族たちに手紙を書いて出した。
 耳の速いところからは、既に祝電が届いていた。

『この度は婚約破棄、お目出とうございます』

 大半はフレアの婚約を憐れんでいた所からの心からの祝電だが、いくつかは嫌味だろう所もあった。
 そのいくつかはエンリケがミニスの他にも並行して関係を持っていた女性であり、まだエンリケに夢を見ている女性たちである。
 その名前に目を通し、フレアは笑う。
 もしミニスに逃げられてしまったときのスペアは多い方がいい。もし足りなかったら、有難くその心を利用させてもらうとしよう。

(きっとエンリケ殿下は、煩わしいばかりのわたくしを振った優越感でいっぱいだわ。恥を掻かせることに成功したと思っている。
 でも、徐々にうまくいかなくなってわたくしには意地でも泣きつきたくないと、往生際悪く抵抗するでしょうね)

 でも、エンリケに理想の王子様を夢想する『お姫様』に、彼の世話などできやしない。
 彼の代わりに王侯貴族たちの名前と関係を覚え、必要な情報を厳選してさりげなく伝えることもできない。
 諸外国と渡り合うために言葉や文化を覚え、情報を集め、どんな言葉を吐きかけられても笑みを湛えて成果をもぎ取ってくることもできない。
 エンリケの婚約者になるということは、王妃教育と王太子教育両方を履修しなければならない。
 そして、どんな成果を上げてもエンリケに献上し、エンリケの失態の尻拭いを全てしなければならない。
 どんなに頑張ってもエンリケは褒めないし、当然だと思うだろう。
 今まで、当たり前として甘受してきたことなのだから。
 そして、できなかったら役立たずとして吐き捨てるだろう。
 運命の相手じゃなかったと詰るのだ。



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