上 下
12 / 73

12、お見合いセッティング

しおりを挟む


「では二時間後、とある殿方にお会いしに行くわ。ナチュラルメイクで清楚で愛らしいお出かけ用のドレスで待っていなさい」

「二時間後!? 早くない!?」

「貴女のボーイフレンドの傾向から見て、絶対好みのはずよ。とびきりいい男を紹介してあげるのだから、絶対落としなさいな」

 貴婦人としての氷の微笑ではなく、悪戯っぽく微笑むフレアはこんなにも美しい。
 同性でありながら、一瞬ドキッと胸が高鳴ったユリアである。

「ちょ、ちょっとまって二時間だと泥パックと、リンパマッサージはピンポイントコースくらいよね。ヘアケアしたら、髪は巻けるかな……」

「あの方、胸や尻の大きさよりうなじと鎖骨にそそられるタイプだから、全部巻かないで結うにしてもシンプルなのがいいわ。ポニーテールでチラ見せにしてデコルテの広いドレスになさい。そのあたりのケアを重点的にね」

 どうやら見合い相手は、女性の華奢な骨格に弱いらしい。ユリアは教えられた相手の好みを頭に叩き込む。
 もし失敗したら、迂闊な父がけったいな縁談を持ってくる可能性が高いのだ。

「じゃあ巻くのは毛先だけにする。ポニーテールだと、幅広の大きなリボンがいいかな。ドレスは清楚目だから宝石が付いているよりそっちの方が……」

 ブツブツと言いながら、ユリアは身支度を始める。
 その目には「この獲物を逃して溜まるか」と爛々とした輝きがある。メイドを集めて、さっそく指示を飛ばしている。
 それを見て、フレアは満足だ。

(やはりユリアはお父様より賢いわね。自分の利になる人間の嗅ぎ分け方が上手いわ。
 ユリアはお勉強が苦手だけれど、機転が利くし愛嬌がある。意欲があれば集中力も継続する。伝統でがんじがらめのような堅苦しい高位貴族に嫁がせるより、商家や騎士の家で裕福なところがいいわね)

 異母とはいえ公爵家の令嬢だ。フレアの紹介とあれば、手厚く迎え入れられるだろう。
 下手に厳格な貴族の家に嫁いでしまえば、絶対姑たちと衝突する。
 夫が庇っているうちはいいが、そうでなくなったらユリアの立場は苦しいものとなるだろう。子供を産んでも、義母たちに取り上げられることだってありうる。
 ジョージはただ貴族の名家に嫁げば幸せと思い込んでいるが、ユリアの性格を考えれば窮屈さに耐えかねて爆発するのが見えていた。
 フレアも身支度を整え、神殿やアシュトン公爵家派閥や友好関係にある貴族たちに手紙を書いて出した。
 耳の速いところからは、既に祝電が届いていた。

『この度は婚約破棄、お目出とうございます』

 大半はフレアの婚約を憐れんでいた所からの心からの祝電だが、いくつかは嫌味だろう所もあった。
 そのいくつかはエンリケがミニスの他にも並行して関係を持っていた女性であり、まだエンリケに夢を見ている女性たちである。
 その名前に目を通し、フレアは笑う。
 もしミニスに逃げられてしまったときのスペアは多い方がいい。もし足りなかったら、有難くその心を利用させてもらうとしよう。

(きっとエンリケ殿下は、煩わしいばかりのわたくしを振った優越感でいっぱいだわ。恥を掻かせることに成功したと思っている。
 でも、徐々にうまくいかなくなってわたくしには意地でも泣きつきたくないと、往生際悪く抵抗するでしょうね)

 でも、エンリケに理想の王子様を夢想する『お姫様』に、彼の世話などできやしない。
 彼の代わりに王侯貴族たちの名前と関係を覚え、必要な情報を厳選してさりげなく伝えることもできない。
 諸外国と渡り合うために言葉や文化を覚え、情報を集め、どんな言葉を吐きかけられても笑みを湛えて成果をもぎ取ってくることもできない。
 エンリケの婚約者になるということは、王妃教育と王太子教育両方を履修しなければならない。
 そして、どんな成果を上げてもエンリケに献上し、エンリケの失態の尻拭いを全てしなければならない。
 どんなに頑張ってもエンリケは褒めないし、当然だと思うだろう。
 今まで、当たり前として甘受してきたことなのだから。
 そして、できなかったら役立たずとして吐き捨てるだろう。
 運命の相手じゃなかったと詰るのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜

雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。 リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。 だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

処理中です...