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10、異母妹ユリア・アシュトン
しおりを挟むフレアはジョージから別れたその足で、ユリアの部屋を訪ねた。
ユリアの部屋はいかにも可愛らしいピンクと白いレースが沢山の、メルヘンチックな雰囲気だった。
白いレースのクロスをテーブルの前でお澄まし顔でお茶を飲んでいたユリアは、フレアを歓迎した。そして、そのままお茶に同席することになった。
事の成り行きを聞くと、ユリアは赤くなったり青くなったりと忙しない。
「嫌よ! 絶対に嫌! 馬鹿若様こと馬鹿様と婚約なんて冗談じゃないわ!」
ユリアは全身を逆立てて拒否をした。
ユリアは昔、自分がエンリケの婚約者になりたいと騒いでいた時期もあったのだ。
だが、最近はそれほど騒いでいない。むしろこんな感じだ。
一度、余りに煩いのでフレアがエンリケの女癖の酷さや、その悪質な手口、捨てられた女性の末路を教えたらぱったりと言わなくなった。
エンリケ本人からも口説かれたが、靡かなかった。お決まりの「君が運命の女性さ☆」という歯の浮いたセリフを言い放ったのだろう。語彙の少ないエンリケのパターンは決まっている。
口説かれた後、ユリアは肥溜めに落ちたかのように全身から何かを叩き落としながら湯殿に入っていた。余程気色悪かったのだろう。
もしかしたら自分とエンリケの縁談が来るかもしれないと知ったユリア。耐えられないとばかりに、拒絶も露わな怒涛のマシンガンだった。
「あの馬鹿様、あたくしの友人やメイドにも手を出したし、妃にするって言っておいて、飽きたらポイよ? 去年も今年もデビュタントが何人修道院に入ったり、精神病院に行ったりした思っているの?」
「あら、ユリア。昔はあんなに憧れていたのに」
「それはそれ! これはこれ! アイツ、あたくしを口説いたときそのっまんまお姉ちゃんが教えてくれたセリフだったのよ! 『ああ、可憐な人! 僕の星! 我が運命はここにいたんだね! 僕は君と恋に落ちるために生まれてきたんだよ!』……ってクッサ。今思い出してもサブイボ立つわ」
ユリアはエンリケの真似をする。非常に良く似た口調と言い回しだ。
ナルシストな笑みと、白い歯をきらりと輝かせる独特の笑いまで見事に模倣している。
しかし、自分で演じていて耐えきれなかったのか、直後にピンクブロンドを激しく振り乱した。
ちなみに、フレアも初めてのお茶会でエンリケにあった時、全く同じ口説かれ方をした――つまり、十年以上彼のセリフは変わっていないのだ。
本人が熱望してこのフレアとの婚約となったことを、エンリケは忘れている。
確か政治的思惑も絡んでいたが、フレアを婚約者にと最初に選んだのはエンリケの方だというのにこの結果だ。
「ユリア、わたくしの前ではいいけれど社交の場でその口調は控えなさい」
「分かってるわ。そんなヘマしないもん」
「そう、ならお見合いでもそうして頂戴。王家からの打診を絶対に断るために、貴女の縁談を早くまとめる必要ができたわ」
「はー、でもなぁ。お父様がたくさん釣書を持ってくるけど、ぱっとしないのよね。イケメンなんだけどさー。後妻とか、多少年上なのは良いのよ? お姉ちゃん見ていると、あたし絶対王族とか高位貴族の夫人にはなれないってわかるもの」
ユリアはこの夢見る少女を絵に描いたような容姿に反して、かなり現実が見えている。
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