上 下
9 / 73

9、丸め込まれる父親

しおりを挟む

 フレアが婚約者ではなくなったことは、エンリケの派手な婚約破棄で方々に情報が飛んでいる。
 あとで王や王太后が情報を収束させようにも、既に不可能だ。
 動きが速いところは、既に祖国や実家に早文を出しているだろう。良い伝書魔鳥を使用し、近い場所であればとっくに届いている。
 ジョージはエンリケの女好きなところは知っていたが、そこまで悪い素行なのは知らなかったようだ。フレアの情報に真っ青になる。
 フレアは毎回報告していたのだが、適当に聞き流していたと改めて実感する。
 ジョージはしっかり者であるからと言い訳して、フレアのことは気にかけていなかった。
 どっちかというと、甘えたでそそっかしい(とジョージは思っている)ユリアばかりに気に留めてしまっていたが、思った以上に王族の立場が危ういとようやく気付いた。

「分かった。では王家から打診があっても断っておこう。だが、ユリアは……」

 どこまでも妹に夢見ている父親に、フレアは内心げんなりしつつも顔には出さない。
 ジョージは自分が王族に憧れるように、ユリアも憧れていると思い込んでいる。確かに幼い頃はそんな時期もあったかもしれないが、かなり前の話だ。
 可愛がっているつもりの方の娘への理解もこの程度だ。ジョージはもともと人の機微に疎いし、思い込みが激しい。
 はっきり言って、貴族というか人の上に立つのには向いていない。
 フレアは逆だ。もともと、冷淡な美貌は表情が薄く、思考が読まれにくい。

「わたくしから伝えます。あの子ももう十六歳です。少々厳しい話であっても、身を守るために知るべきでしょう」

 フレアの申し出に、ジョージは頷いた。
 きっと、先ずは愛人に会いに行くだろう――ジョージがフレアとエンリケの婚約を、母クレアの反対を無視して強行したので、それ以来夫婦仲は没交渉だ。
 クレアは実家に帰り、アシュトン公爵家の女主人の役は幼いフレアがやっていた。
 その後、それほど時を待たずして第二夫人を迎え入れているから、クレアは勿論クレアの実家から激しい顰蹙を買っている。おかげで、それ以降愛人は作っても夫人にはしていない。
 母方の実家を辿れば亡国とはいえ非常に高貴な王家筋だ。由緒ある貴族には憧れの的であり、そういったところから総スカンを食らったのが堪えたのだろう。
 ユリアの母である第二夫人や、愛人たちは公爵邸に来た最初、自分こそが女主人になろうとしていた。
 フレアはちゃんと管理してくれれば、構わなかったのでそのためにと知識を叩きこもうとしたところで逃げた。
 仕込んだ後で逃げない様に、どれだけジョージが頼りない日和見野郎か教え、釣った魚に餌はやらないタイプで、権力に弱く、公爵当主だけど無能であるとしっかり教えたあたりで大抵根を上げる。
 厳しい現実を教えるフレアもそうだが、まさにその通りのだらしないジョージの私生活を見るにつれて、程々の距離を持った愛人とパトロンの生活の方が幸せだったと彼女たちも気づくのだ。
 ジョージが連れてくるのは根性がない女ばかりだったのだ。きっと、ジョージを愛しているのではなく、ジョージの身分とお金を愛しているだけで面倒は嫌っているのだろう。
 それでもフレアは礼儀作法や知識や技術を教え、職業婦人として生計を立てられるようにフォローしている。公爵家の事業や商会で働けるように紹介状を出したのは片手じゃ足りない。
 結果、愛人たちにはむしろ感謝されている。ジョージはそういったフォローを一切しないのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

処理中です...