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6、エンリケの浮気遍歴

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「殿下が最初にした浮気……ああ、エスコートをさぼったり、お茶会をすっぽかしてデートしたものではなく女性を孕ませで大問題になった例の件です」

「……誰のことだ? タバサ? ブレア? ケートリン? シャンティ? すまぬが多すぎて誰だったか思い出せん」

「公娼のベス様です。陛下やわたくしが内々に処理するのを掻い潜り、外交に出ているときに起こした六年前のあれです」

「ベス? ああ、いたな。房事を覚えてからエンリケ殿下は盛りのついた獣より真っ盛り過ぎて、その手の話題が尽きな過ぎてわからんのだ……歳だな」

 ジョージの言うことも分からなくはない。
 真実の愛を探すためと女漁りに余念がなかったエンリケは、常に複数の女性と関係を持っていた。
 いくらフレアを始め、国王のヘンリーや王太后のゾエを始めとした周囲が諫めても、エンリケはやめなかった。
 その後ろで、王妃が真実の愛を推奨派で手を回していたのが非常に迷惑だった。
 
「ベス様の件で、破談になりかけたでしょう? その時にまた浮気をしたらそれなりに責任を取らせると契約をしたのを覚えてらっしゃいます?」

「……ああ、したな。全く守られておらんが」

 公娼――国に正式に認められた売春婦であるベス夫人。だがベス夫人はその中でも特に上位に位置していた。
 彼女は、貴賓などに特別な接待を行うための容色に富んだ娼婦である。
 嫡男は継嗣を残すことも義務一つなので、恥を掻かない様に房事の教養係としても求められることが有る。
 だが、房事にのめり込んだエンリケは、彼女にもやらかしたのだ。
 乗る方も乗る方だが、すぐに閨に来てくれる床上手な彼女を、当時のエンリケはとびきり気に入って熱心に口説いたのだ。
 フレアは令嬢である。貴婦人は貞淑であることが当然であり、余計な胤を身に招き入れることはふしだらで悪徳とされる。それが婚約者のエンリケであっても、正式な夫婦になるまでは拒否していた。
 国主や当主というのは、次代を残すために複数の妻を娶ることは珍しくない。
 だが、婚前の浮気や、胤をバラまくのはご法度だ、私生児は継承争いや相続争いを起こし、複雑にするからである。
 当然、エンリケの行為は問題視され、立太子が見送られる原因の一つとなった。

「あれはまだ続いております。わたくしはエンリケ殿下がまた浮気を繰り返すと踏んで、慰謝料を加算式にしたのです。浮気の回数、親密度、子の有無、自分で始末をつけたか、こちらに被害がどの程度かにより、上乗せ金額が変わります。利子もあり、殿下が支払う慰謝料はどんどん膨れ上がるようになっております。
 殿下は既に支払い終えて、終わったこととお思いですが逆です。余りに多すぎて、仕方なく定額払いにしているだけです。
 契約はアシュトン公爵家、王家だけのものではありません。絶対中立者たる神殿の立会いの下、それぞれに控えを持っています。
 わたくしは、この婚約破棄をもってこの契約の履行を求めようと思っています。
 今までの、殿下の浮気の数は三桁を超えます。清算するとなるとかなりの額が入りますわ」

「む、むむ……しかし、それでは……」

「お父様、あくまでこれは浮気の分だけです。理不尽で一方的な婚約破棄の慰謝料は別途請求いたします。
 今までの浮気の慰謝料は、最初の契約をもとに履行するにすぎません。婚約破棄が成立すれば区切りとなります。これで調べている傍から増える殿下の恋人を調べ直す必要ありませんもの」

 そう、それだけエンリケの女癖は悪いのだ。
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