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4、愚かな王子エンリケ・ブランデル

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「殿下の婚約解消の申し出、お受けいたします」

「ふん、いつになく殊勝だな? 普段もこれくらいにしおらしくあればいいものを」

 思考を巡らすフレアに気付く由もないエンリケは、口角を歪めるように笑った。品のない笑みだ。
 この王子は、公式に認められているたった一人の嫡子なのに王太子ではない。
 余りにお粗末な出来に、溺愛する父王ですら認めることができなかったのだ――しようものなら、どうしても責任が発生する。
 能力もない、功績もないエンリケをそう名乗らせるのは危険すぎた。家臣が反旗を翻し、出国する貴族が出る可能性も大いにあった。
 王妃がどんなに嘆願しても、王がそこだけは譲らなかった。
 王妃とエンリケとは違い、王はまだまともな教育が施されていた。情勢が見えていた――それでも、王妃にあれを選んだ時点で詰んでいる。

「ではエンリケ殿下。わたくしは準備があるので失礼いたします」

「ああ、とっとといけ。俺にはミニスを皆にお披露目するという大義があるからな!」

 そのミニスという女性は、かなり青褪めてエンリケとフレアを見比べている。
 先ほどの話を否定しなかったエンリケに、もの言いたげにしている。
 フレアに何かを求めるような視線を送っていたが、とびきり美しいカーテシーをとり、踵を返して知らぬふりをした。
 エンリケのことだ。
 今まで通り、何もかもフレアがいいように差配してくれると思っているだろう。
 勿論、フレアはきっちりと婚約破棄が整い、時間稼ぎに必要な仕事だけはしていくつもりだ。 

(馬鹿な人。わたくしがいつ貴方を慕っているといったかしら? 婚約者でもない人間が、いつまでも尻拭いをしてくれると思っているのね)

 エンリケの思考は分かりやすいが理解できない。どうしてああ愚鈍なのだろうか。
 興奮と当惑と好機の視線を感じながら、フレアは凛と背筋を伸ばして堂々と会場を後にした。




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