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3、フレアの思惑

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「フレア! お前は相変わらず可愛げがないな! 外見だけなら見られるものを、もう少し相手を立てるということを覚えろ!」

「申し訳ございません。説明を求められたものですので」

 どうせエンリケに言い返しても話が進まないだけだ。取りあえず口だけは謝るフレア。
 ミニスはあまりに壮絶なブレアという女性の扱いと最期に、酸欠の金魚の様になっている。
 周りもエンリケの仕打ちにかなり引いているし、青褪めている。
 だが、一部は知っていたのか、エンリケに冷ややかな視線を向けている――とくにブレアの親世代、弟妹世代はここに居ておかしくない。

「それで、エンリケ殿下はわたくしとの婚約解消をお求めで?」

「ああ、そうだ! 俺はこの愛するミニスと結婚する! お前は不要だ! 顔も見たくない!」

 まだ暴言と拒絶を吐きつけるエンリケ。全く状況が分かっていない彼が、いっそ可哀想すぎて、可愛らしく見えてくる。だが、それは虫を相手に小さいからかわいいと言っているような感情だった。
 この婚約はエンリケが碌に執務もできないくせに重度の女好きですぐ問題を起こすから、能力が高く忍耐強く、なおかつ彼に期待をしないフレアだからこそ成り立っていた。
 フレアは頭の中で万歳三唱して、ピンヒールのかかとが折れるくらいジャンプをして、この会場を飛び回りたいくらいだったけれど我慢した。
 王族の婚姻は政治的思惑が絡み合う。
 政のできない暗君間違いなしのエンリケを支える程の才女であり、家柄に問題のないとなるとフレアしかいなかった。親が暗愚であり、逃げ遅れたともいう。
 エンリケの無能と悪癖が伝わる前なら、他の十貴族も喜んで妃候補を出しただろう。
 だからこそ、王家――特に現国王はフレアとの婚約を死守しようとしていた。
 しかし、たくさんの貴族の子息子女が通うこの学園でこんな大々的に婚約破棄を突きつけたのだ。もうどうにもならない。

(この場には国内だけでなく、留学している貴族や王族も少数ではあるもののいるわ。きっとこの騒動はあっという間に各国に広がるでしょう)

 フレアは淑女の仮面の下で、ほくそ笑む。
 
(冤罪? 国外追放? 上等よ。わたくしが碌に公務も執務もできない王妃や殿下に変わって、どれだけ働かされていると思っているの? 王子の婚約者じゃなかったらと、相当な引き抜きのお誘いを貰っていたのよ)

 たとえブランデル王国貴族という肩書きが無くても、大陸の多数の言語を操るマルチリンガルであり、王妃や王子の仕事を代行できる程の伝手や器量を持っている。
 フレアは交渉も得意だし、話術も巧みだ。
 人前に出る仕事に限らず、翻訳や帳簿付けだってできる。 
 下級貴族から見初められた現王妃は未だにお姫様気分の抜けていない人だ。
 本来なら幼少期から腰を据えて行うはずの教育が全く入っていない。貴族としての最低限の教育すら怪しいあたり、生来がエンリケと同じ怠け癖のある夢見がちな人間なのだろう。
 王太后は現王妃を見限っており、その息子の王子にも期待していない。
 もともと王には別の婚約者がいたのに、それを全てぶち壊して王妃の座に居座る彼女をずっと認めていないのだ。
 しかし、政は回さねばならないと、次代王妃になるだろうフレアに全て叩きこんだ。
 種馬にしか使えないだろうエンリケと、もし男児ならばと惜しまれるほど多才なフレア。どちらを教育したほうがいいかなど、火を見るよりも明らかだった。

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