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マルベリーの新婚夫婦(クロード視点)③

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 ちなみに書類上は夫婦でも、クロードは結婚式後まで初夜は待った。それは、ベアトリーゼをクロードに慣れさせるためでもあった。
 同衾という時点でベアトリーゼが幸せそうに失神したため、結婚式後も十日ほど白い結婚は続いた。
 使用人たちと話し合った結果、ベアトリーゼに酒を飲ませてほろ酔い状態にして『これはとっても幸せな夢ですよ』作戦を決行した。
 クロードは出来ることなら夜会に出てくる悪漢のような真似はしたくなかった。
 だが、夜着だろうがバスローブだろうが仕事帰りコートや礼服だろうがベアトリーゼは幸せそうに脱魂していた。幸福を噛み締め、昇天しかけていた。
 これ以上はマルベリーの継嗣問題になると割とガチ目の使用人たちの訴えにより決行となった。
 鉄は熱いうちに打て。このまま白い婚姻を習慣化してはならぬという、できる使用人たちの熱意にクロードも負けた。
 流石に引かれるか嫌われるかと思ったが、翌朝のネグリジェのベアトリーゼは寝台の上で高らかなガッツポーズを決めていたので問題はなかった。
 寝ぼけ眼のクロードはかける言葉が分からず「風邪をひきますよ」というどこか頓珍漢な窘めをしてベッドに戻すことしかできなかった。
 だが、その日の夜に自主的に飲酒してベロッベロに酔っぱらったベアトリーゼがいた。
 クロードの幼な妻は蜜月を満喫したかったらしいが、勢い余ったアルコール摂取をしてしまったようだ。
 メイドたちは若い伯爵夫人の失態に頭を抱えた。
 クロードは軽く眉を上げ、酔ったベアトリーゼを抱き上げて寝室に運んだ。
 ろれつが怪しいほどベロベロに酔っ払っても、ベアトリーゼはクロードを見るとふにゃふにゃと幸せそうに笑う。

「くろーろしゃまぁ~、らいしゅきえしゅうう~」

「知っています」

「い~~~っぱいしあわしぇになりあしょーね~」

「解りましたから、次からは深酒は止めましょうね」

 基本、ベアトリーゼの飲酒はそれこそ淑女の嗜み程度だ。
 飲酒で暴走されては困るクロードとしても、そのあたりは厳しくしている。
 あくまでそれは公共の場や社交場だけであり、自宅で自主的に飲酒することはないのでそこの当たりは気にしていなかった。
 もともと、それほど酒好きではない。
 ご機嫌のベアトリーゼはんふんふと独特の笑い声を漏らしながらクロードにべったり張り付いている。
 ベアトリーゼは出会った当初からクロードに首ったけである。
 クロードは生まれた家柄は良いが当主は兄であるし、容姿は端正さより冷然とした怜悧さが際立つタイプである。
 仕事はできるが、人に好まれるタイプの性格ではないことは理解している。家庭的どころか、ガチガチの仕事人間だ。
 婚約期間にあった月にたった二回の茶会も、何度も中止や延期にしたことがある。
 必要最低限の手紙や贈り物はしていたが、筆まめでもなければ気前よく豪華なものを贈ったこともない。
 なのに、いつもベアトリーゼは全力で好意をぶつけてくる。
 それこそ、出会ったその日から。解りやすい一目惚れであった。
 一目惚れは外見的要素が殆どだろう。中身は殆ど考慮されていない。
 それにも関わらず、ベアトリーゼは変わらずクロードに大きな恋慕を向けてくる。
 訳が分からない。
 きっと、そう時間も掛からず飽きて嫌われると思っていた。
 ベアトリーゼは年を追うごとに嫌うどころかもっと好きだと言わんばかりに好意を漲らせている。
 勢い余って、数多の舎弟を顎で使って集めさせた『裏貴族名鑑社会的デスノート』が作成されるほどだ。

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