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マルベリーの新婚夫婦(クロード視点)②

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 ルビアナと再婚して長らくダニエルに無下にされていたベアトリーゼは、義父であるマーカスを実父より慕っている。
 バージンロードの引率も、ベアトリーゼの未来の義父マーカス・ケッテンベルと祖父のイヴァンが最後の最後まで争っていた。チェス、カード、双六、狩猟、くじ引き、チェスと平等にするべきだという案により数多の方法で勝負した結果、マーカスが勝ち取った。
 ベアトリーゼはにこにこと微笑みながらも「クロード様を煩わせたら、フリード様かローゼス様にお願いします」と別の案を出していた。
 なので、二人は粛々と静かにそして激しく争っていた。
 クロードはきちんと双方納得して決まれば、どちらでも良かったが、争いが飛び火しかけたフリードとローゼスは、紅茶を吹き出した。

「貴方が思っている程、ベアトリーゼは興味がありませんよ。
 興味があったのなら、今までの仕打ちに傷つき、悲しみ、恨み、憎んでいたでしょうね」

 愛情の裏返しは無関心だという。
 今まで散々、ベアトリーゼを無関心に蔑ろにしておいて、自分が逆の立場になるとは思っていなかったのだろう。
 親という程親らしいことなんて、この男がベアトリーゼにしてきただろうか。
 エチェカリーナが死んでから十二年以上――ベアトリーゼの人生の大半を、親としての責務を放棄しておいてよく言うものだ。
 誕生日や時節の祝い事、社交界シーズンのエスコートなどの、タチアナやセシリアばかりにかまけて、ベアトリーゼのことなど忘れていたくせに。
 その分を、カバーしていたのはマルベリーの使用人たちやクロードだ。
 クロードが十二歳も年上の大人だからこそ、カバーできたことも多い。
 婚約を結ぶ前の六歳から十歳くらいの時は、催し事がある度に落ち込んでいたと使用人たちから聞いていた。親の愛情を欲しがって当たり前の年齢だ。
 同じ年の妹には手間も金もかけて盛大に祝っているのに、放置され続けたベアトリーゼを知っている。
 それを憐れんだケッテンベル公爵夫妻が随分と憤慨と憐憫が絡み合い、ベアトリーゼに肩入れしていた。

(そもそも、ベアトリーゼが誕生日に家に居ないことに気づいたことなんてない癖に)

 ベアトリーゼは、家を空けるときはきちんと言伝を残していた。
 セシリアが夜になると大袈裟に同情してみせて、お下がりというゴミの詰め合わせを渡しに来るまでがセオリーである。
 サマンサはダニエル達の所業に怒り、婚約後は未来の娘の為に毎年盛大なパーティーを開いている。その時ばかりは夫のマーカスにけしかけ、人脈を駆使してダニエル達をハブ返ししている。
 一方、ベアトリーゼはクロードさえいれば有頂天気味に幸せそうである。
 当然ながら、周囲は首をかしげる。マルベリー伯爵家でベアトリーゼが祝われないということは不審に思われる。しかも、誕生日パーティーに他のマルベリー伯爵家はいない。だが、ポプキンズ辺境伯夫妻をはじめとする親族はいるのだ。
 主役のベアトリーゼは気にしないどころか、クロードの隣で始終ご機嫌。
 最初はざわつきがあったが、数年もすれば誰もダニエルを相手しなくなっていく。
 ケッテンベル公爵家と、次期マルベリー伯爵家当主を敵に回すくらいなら、現在の暫定当主でしかないダニエルの顔色をうかがうことに旨味を感じないからだ。
 それらを忘れて、ダニエルは本当にどの面下げてきたのだろう。

「た、頼む。娘に会わせてくれ。このままでは生活ができない。田舎の別荘でもいいから――」

「結局、ベアトリーゼは口実ですか。二度と顔を見せるな」

 クロードの一瞥で、兵が動き出してダニエルが摘まみだされた。
 最後まで醜く喚いており、王都から追い出すまでしっかり監視するように言いつけた。
 夕方になって戻ってきたベアトリーゼは、クロードを見るとはしたなくない程度の小走りで駆け寄ってきた。

「ただいま戻りましたわ、クロード様!」

「お帰りなさい、ベアトリーゼ」

 ふと、ベアトリーゼがちょっと首をかしげてクロードを見つめる。

「なにか、ありましたの?」

「大したことではありませんよ。態度のデカい物乞いを追い払っただけです」

「まあ大変! 今から王都の外壁にでも吊るしてきましょうか?」

 捕まえるのも縛るのも得意ですと言わんばかりのベアトリーゼに、クロードは首を振る。
 ベアトリーゼの目に入れたくない物乞いである。


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