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マルベリーの新婚夫婦(クロード視点)①
しおりを挟むベアトリーゼの卒業を待ち、かねてより整えていた婚姻の書類を提出した。クロード・ケッテンベル改めクロード・マルベリーとなった。
真っ先にダニエル達を追い出し、クロードは王太子の右腕として、マルベリー伯爵として忙しい日々を送ることとなる。
結婚式間際まで、ダニエルは自分がベアトリーゼをエスコートしてバージンロードを歩くと思っていたようだ。
全く来ない連絡に首を傾げながらも、風の噂でいよいよ挙式がある日取りを聞いて慌ててすっ飛んできたがもう遅い。
ベアトリーゼは屑親のことなど忘れて結婚式に浮かれていたが、クロードはやはり来たかとしか思わなかった。
あの厚顔無恥な男のことだ。今までベアトリーゼに行ってきた仕打ちも忘れ、晴れの舞台にしゃしゃり出に来るだろうとは思っていた。
念のため、ベアトリーゼをケッテンベルに避難させて正解だった。
マルベリー伯爵家から追い出され、実家のバティス子爵家から勘当されたダニエル。ルビアナとセシリアと共に手切れ金と共に、田舎に追いやったというのにわざわざ来たそうだ。
今まで通りの生活水準とは程遠いのだろう。小汚い姿でマルベリーに現れたダニエルを見る目は冷たい。
躾けの行き届いたメイドは、誰一人としてダニエルを案内もしなければお茶も出しもしない。外で無様に喚いている姿を暫く眺め、ある程度疲れて声量が落ちてきたところでクロードは頷いた。
クロードが引導を渡すために連れて来いと命令して漸く外門をくぐれ、玄関までは許された。
「私はベアトリーゼの父親だぞ!? 娘の結婚式に何故出席してはならない!」
「あれが実の娘にする仕打ちですか? 散々放置しておいて、今更父親面とは。お前の娘はタチアナとセシリアでしょう」
「あれは私の子供でない! 私の娘はベアトリーゼだけだ!」
今更である。
もと娼婦のルビアナの貞操観念は緩く、クロードの調べでは二人ともダニエルの娘ではないという結果が出ていた。
この男は、ようやくここまで来て真実を知った――というより、認めざるを得なくなったのだろう。
(あの姉妹は、ルビアナには似ていたがダニエルには似ていなかった。疑わない方がおかしいだろうに)
もと娼婦のルビアナには、常に男の影がいた。
職業柄というより、もともと男に持て囃されることが生き甲斐のようなところがある。
だが、今はすっかり自慢の容色も衰えてしまっている。
男を囲う余裕もなく、ダニエルの持っている小金目当てに一緒にいるだけだ。
だが、すっかり侘しくなった生活に喧嘩が絶えないという報告もあった。
セシリアも貧しい――といっても、普通の平民レベルの生活に毎日不平不満を垂れ流している割には一切働かないという。
お荷物だらけのダニエルは、今更になってベアトリーゼに縋ろうとしているのだ。
それでもルビアナ達を放り出さないのは、情というより優柔不断だろう。
「私は二度と顔を出すなと手切れ金を渡したはずですが?」
「ベアトリーゼは私に会いたがっているはずだ!」
今頃ベアトリーゼはケッテンベル公爵家で、サマンサと刺繡でもしているはずだ。
恋人や夫に、家の名や紋章の入ったハンカチやタイを贈るのはレディの嗜みである。
結婚記念品として、ケッテンベルとマルベリーの紋章を刺すと張り切っていた。
一度ベアトリーゼに聞いてみたが、実父のことは「ああ、あの糞親……こほん。ダニエルでしたっけ? ルビアナと新天地でイチャイチャしてんじゃないでしょうか?」と気にも留めていない。
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