真実の愛に目覚めた伯爵令嬢と公爵子息

藤森フクロウ

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胃袋を掴みたい婚約者(クロード視点)②

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「貴方がたに学習能力はないのですか? 毎度毎度『命に別状はないが重傷レベルの三分の二殺し』にされると分かっていて、ベアトリーゼに喧嘩を売るなんて」

 頭痛がする思いで、ボロクソになった騎士たちに忠告する。
 だが、ベアトリーゼの圧倒的な武力カリスマの前では、強者に憧れる永遠の青少年達を説得するには足りなかった。

「喧嘩なんて烏滸がましいです!」

「師匠に稽古をつけていただいているだけです!」

「普通にお誘いしても『私は普通の令嬢ですので』と相手をしてくださらないのです!」

 今日もベアトリーゼの舎弟たちの教育は行き届いている。
 クロードに失礼なことをしたら、ベアトリーゼはどこからか知ってキュッと狼藉者を〆るだろう。死なない程度に。

「いい加減に諦めてください。貴方たちの勧誘のせいで、ベアトリーゼが騎士団は暇人か不良の集まりだと勘違いしています。
 国の印象が悪くなります。ただでさえ私が多忙で、時々王城を不審な目で見ているのに」

 もしこれで王太子に婚約者がおらず同性愛疑惑が浮上していたら、ベアトリーゼは間違いなく暴走しただろう。
 あと男ばかりのむさくるしい職場に、この時ばかりは感謝した。
 時々、瞳孔を開いた眼で執務室をガン見して同僚に女性がいないかチェックしている。
 お陰で、クロードのいる部署は暗黙の了解でどんな戒律の厳しい神殿より女人禁制となっている。許されるのは定年間際の老女と十歳以下の小間遣いくらいだ。
 一度、接待の関係で夜の店に行ったことがあるがどこで聞きつけたのか、ベアトリーゼがメチメチと背後からか強烈なオーラを迸らせながら穏やかに問うてきた。


「どなたがクロード様を御誘いになったのですか?」


「ええ、男性同士のお付き合いがあるのは私も解っております」


「それで、どなたが主犯なのですか?」




「どこのビチグソですの?」




 冷や汗が出た。不正を糾弾する国王陛下の恫喝より、緊張状態にあった時の隣国の皇帝の謁見よりも背中がびちゃびちゃになった。
 何とか一日デートで誤魔化したが、もしクロードが口を割っていたらベアトリーゼがその『主犯』の頭をカチ割っていただろう。
 恐らく、ベアトリーゼの殺気が滲み出るどころか駄々洩れた一瞥からして、知っていた。
 それでもクロードからのGOサインを待っていた。
 だがクロードがGOサインを出さなかったので、引き下がった。
 暫く、同僚の夜の店への出入りがぱったりと止むくらいには殺意のナイアガラだった。

(大人しい子だと思っていたのだが……)

 それでも差し入れのフォカッチャサンドは美味しかった。
 



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