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胃袋を掴みたい婚約者(クロード視点)①
しおりを挟む最近、クロードには面倒ごとが増えた。
一つはマルベリー家のダニエルが想像より愚かで糞だったこと。叩けば叩くほど大小の問題が出てくる。もう一つは毎月恒例の茶会を延期すると自分を心配したベアトリーゼがやってくることだ。
彼女がクロードに会いに来るのは問題ないのだ。
小さな婚約者が、顔を真っ赤にしてバスケットいっぱいに詰めた差し入れを持ってくるのは微笑ましくもあり、少し面映ゆくもある。
前の婚約者のタチアナが美貌を鼻にかけた超絶高飛車だったこともあり、不遇な中で自分を一生懸命慕うベアトリーゼはどうしても邪険にできない。
別にベアトリーゼが持ってくる差し入れがゲロマズというわけではない。
どこからリサーチしてくるのか、自分の好みの物を持ってきてくれる。
大方、家族の誰かから情報を仕入れしているのだろう。
そこでできた厄介事が、騎士団たちとのひと悶着だ。
ベアトリーゼの差し入れに手を出した馬鹿が、ブチギレさせた。そして、ベアトリーゼにコテンパンにされた。
それ以来、ベアトリーゼを騎士団に誘おうとしている。
だが、ベアトリーゼの夢は『クロード様のお嫁さん♡』なので全く相手にしていない。
それでもめげずに絡んでぼこぼこにされる騎士団員たちは、やがて決闘を申し入れて自分の騎士団に引き入れようとして返り討ち→舎弟コースが定番と化している。
小さな女の子に叩きのめされた集団ことベアトリーゼ舎弟騎士団員は、自分の名誉のために同胞以外にはその事実に口を噤んでいる。
クロードに会いに来るベアトリーゼは、大人しそうな小さな淑女といった風情だ。
恋する人に、頬を染めて差し入れを持ってくる姿は微笑ましい。
とてもではないが、徒党を組んだ騎士たちを瞬殺する暴れん坊には見えない。
クロードの把握している範囲で、既に第一騎士団は九割、第二騎士団は七割、他の騎士団でも半数近くに及ぶ。
ベアトリーゼの母エチェカリーナはハルステッドにこの人ありと言われた剣豪。
マルベリーの系譜を探れば、剣聖、武神、槍王などと数多の二つ名を持つ勇士がいる。
そもそも先代マルベリー当主がポプキンズ辺境伯になっているのは、まだ引退しないで欲しい王家や重臣たちの懇願があったからだ。
稀少な素材・食材・グルメ取り放題としか思っていないが、他にしてみれば魔物や周辺敵国への最大威圧勢力がいるようなものである。
過去にお歳暮なる謎の贈り物として、周辺国に干害をまき散らしていた風龍が肉として届いたことがあるそうだ。
ポプキンズ夫妻としては「美味しいものでも食べて喧嘩は止めなよ」というつもりだったそうだが、周辺の小競り合いしていた国々は「次にこうなるのはお前だ」としか取られなかった。
数十年続いていた紛争は、善意の威圧により終息したという。
ちなみにハルステッド王家はちゃんとポプキンズ夫妻の考えを正しく読み取って美味しくしゃぶしゃぶしたそうだ。
なので、あの夫妻は無理でもベアトリーゼにはお近づき、あわよくば自分の派閥へと考える人間は多い。
武力で敵わないならナンパで気を引こうとしたチャレンジャーは、視線すら寄越されず鳩尾にドボッッと鈍い音と共に重い一撃を食らう。
どんな堅い鎧を着ていようがゲロを吐き散らす必中クリティカルグーパンである。
そういうときのベアトリーゼは無意識だ。
漠然と第六感が『クロード様との逢瀬を邪魔するゴミ野郎を抹殺せよ』と脊髄反射のように叩いている。
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