上 下
36 / 43

胃袋を掴みたい婚約者(クロード視点)①

しおりを挟む
 

 最近、クロードには面倒ごとが増えた。
 一つはマルベリー家のダニエルが想像より愚かで糞だったこと。叩けば叩くほど大小の問題が出てくる。もう一つは毎月恒例の茶会を延期すると自分を心配したベアトリーゼがやってくることだ。
 彼女がクロードに会いに来るのは問題ないのだ。
 小さな婚約者が、顔を真っ赤にしてバスケットいっぱいに詰めた差し入れを持ってくるのは微笑ましくもあり、少し面映ゆくもある。
 前の婚約者のタチアナが美貌を鼻にかけた超絶高飛車だったこともあり、不遇な中で自分を一生懸命慕うベアトリーゼはどうしても邪険にできない。
 別にベアトリーゼが持ってくる差し入れがゲロマズというわけではない。
 どこからリサーチしてくるのか、自分の好みの物を持ってきてくれる。
 大方、家族の誰かから情報を仕入れしているのだろう。
 そこでできた厄介事が、騎士団たちとのひと悶着だ。
 ベアトリーゼの差し入れに手を出した馬鹿が、ブチギレさせた。そして、ベアトリーゼにコテンパンにされた。
 それ以来、ベアトリーゼを騎士団に誘おうとしている。
 だが、ベアトリーゼの夢は『クロード様のお嫁さん♡』なので全く相手にしていない。
 それでもめげずに絡んでぼこぼこにされる騎士団員たちは、やがて決闘を申し入れて自分の騎士団に引き入れようとして返り討ち→舎弟コースが定番と化している。
 小さな女の子に叩きのめされた集団ことベアトリーゼ舎弟騎士団員は、自分の名誉のために同胞以外にはその事実に口を噤んでいる。
 クロードに会いに来るベアトリーゼは、大人しそうな小さな淑女といった風情だ。
 恋する人に、頬を染めて差し入れを持ってくる姿は微笑ましい。
 とてもではないが、徒党を組んだ騎士たちを瞬殺する暴れん坊には見えない。
 クロードの把握している範囲で、既に第一騎士団は九割、第二騎士団は七割、他の騎士団でも半数近くに及ぶ。
 ベアトリーゼの母エチェカリーナはハルステッドにこの人ありと言われた剣豪。
 マルベリーの系譜を探れば、剣聖、武神、槍王などと数多の二つ名を持つ勇士がいる。
 そもそも先代マルベリー当主がポプキンズ辺境伯になっているのは、まだ引退しないで欲しい王家や重臣たちの懇願があったからだ。
 稀少な素材・食材・グルメ取り放題としか思っていないが、他にしてみれば魔物や周辺敵国への最大威圧勢力がいるようなものである。
 過去にお歳暮なる謎の贈り物として、周辺国に干害をまき散らしていた風龍が肉として届いたことがあるそうだ。
 ポプキンズ夫妻としては「美味しいものでも食べて喧嘩は止めなよ」というつもりだったそうだが、周辺の小競り合いしていた国々は「次にこうなるのはお前だ」としか取られなかった。
 数十年続いていた紛争は、善意の威圧により終息したという。
 ちなみにハルステッド王家はちゃんとポプキンズ夫妻の考えを正しく読み取って美味しくしゃぶしゃぶしたそうだ。
 なので、あの夫妻は無理でもベアトリーゼにはお近づき、あわよくば自分の派閥へと考える人間は多い。
 武力で敵わないならナンパで気を引こうとしたチャレンジャーは、視線すら寄越されず鳩尾にドボッッと鈍い音と共に重い一撃を食らう。
 どんな堅い鎧を着ていようがゲロを吐き散らす必中クリティカルグーパンである。
 そういうときのベアトリーゼは無意識だ。
 漠然と第六感が『クロード様との逢瀬を邪魔するゴミ野郎を抹殺せよ』と脊髄反射のように叩いている。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

処理中です...